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子爵令嬢マリアンヌは婚約破棄を懇願される


「マリアンヌ、どうかお願いしますから、婚約を破棄してくださいっ!」


そう言って土下座してまで婚約の破棄を懇願しているのは、このセイアッド王国の第一王子であるカイル・セイアッドだった。


そして婚約破棄を申し込まれたマリアンヌはというと何故王子が土下座しているのか現在進行形で理解できずにいた…







カイル王子から婚約の破棄を懇願されたマリアンヌはセイアッド王国の一貴族であるウェブロット子爵家の可愛い一人娘であった。


父のコートル・ウェブロットは恐ろしいほど整った顔面と博愛の精神で異性、同性問わず来るもの拒まずで"君が望むなら"と誰とでも一夜を過ごすセイアッドの種馬との異名を持ち、マリアンヌには母親が違う兄弟姉妹が両手両足をたしても足りないほどいた。こんな不名誉な二つ名がある父だが、マリアンヌが知る限りそういった関係を持ったお相手たちと揉め事を起こしたことは一度もなく、むしろ驚くほど友好的な関係であった。


そして母のユリアーナは恐ろしいほど寛容さと溢れんばかりの母性で大抵のことは"あらあらまぁまぁ"の一言で終わらせ、多くの人から慈愛の聖母と崇められていた。マリアンヌが覚えている限り母が怒ったところを見たことは一度もなく、何故か母のところには様々なことを相談に来る人が絶えなかった。その相談相手の中には父が一夜を過ごした相手もいたが、母のユリアーナはどんな相手でも分け隔てることなく平等に接していた。


そんな二人は大恋愛の末結婚して、20年たった今でもラブラブだった。


そんな少々特殊な両親の元で育ったマリアンヌは父親譲りの容姿と母親譲りの寛容さと母性を併せ持っていたが、子爵令嬢としてはいたって平穏な生活を送っていた。


しかし今から遡ること3年前。

カイル王子の婚約者に抜擢されたことでその平穏な生活は変化することになる。


まず王子と同じ学園で王妃になるために必要な教養などを養いながら仲を深めるべく、良家の子女ばかりが通うエクラン王立学園に編入することなったのだが、爵位があまり高くなく突然第一王子の婚約者に抜擢されたマリアンヌは編入してすぐに嫌がらせを受けることになった。


誰もがすぐに音をあげて退学するだろうと思っていたが、編入して一月も経たないうちにマリアンヌへの嫌がらせはなくなり、学ばなくてはいけないことが多く元通りとは言えないながらも平穏な生活を送ることができるようになっていた。


その間婚約者であるカイル王子はと言えば、マリアンヌとの婚約は国王である父と王妃である母が勝手に決めたことだと不満に思っていたためにマリアンヌが嫌がらせを受けていることに気づいていながらも、我関せずと言わんばかりになにもしなかったのだ。


そもそもカイル王子はマリアンヌとの婚約する前から色んな女性との噂が飛び交っていたのだが、婚約が発表されたあとも慎むどころか以前にも増して女性との噂が絶えることはなかった。


たがマリアンヌはセイアッドの種馬と呼ばれる父を間近で見てきたせいかカイル王子の噂を特に気にすることもなく、慈愛の聖母と呼ばれる母に負けず劣らずの懐の深さで、弱音を吐くことも不満を漏らすこともなかった。


こうして健気に王子に尽くすマリアンヌの評判は学園のみならず社交界でも天井知らずに上昇し、婚約者がいるにも関わらずやりたい放題なカイル王子の人気は周りの忠告も聞かないことから下がりようがないところまで下降していた。


そしてマリアンヌとカイル王子の仲が全くといっていいほど深まることがないまま婚約から2年が過ぎた頃、エクラン王立学園に新入生として入学してきた一人の可憐な男爵令嬢、ヴィオラ・フレッサの登場により大きな変化が起こった。


変化その1。

何がどうなってそうなったのかは不明だが、カイル王子がヴィオラ嬢一筋となり女性との噂が全くなくなった。


変化その2。

今まで必要最低限の会話のみで全く関心のなったはずのマリアンヌに対して、カイル王子がよく分からない理由で人目も場所も憚らず罵声を浴びせるようなった。


変化その3。

マリアンヌは身体のあちこちに怪我をしていて、本人聞いても誤魔化すことが頻繁に起きていた。





そして遂に事件が起こる。


ある日マリアンヌが学園の階段から転げ落ちて大怪我を負ったのだ。






マリアンヌは落ちた際に頭を強く打ったようで目が覚めたのは一週間後。しかも右足を骨折してしまったことで1ヶ月もの間ベッドで寝たきりの生活を送ることを余儀なくされた。

その後も体力が落ちた身体では満足に歩くこともできず、ようやく以前のように歩けるようになったのは階段から転げ落ちてから2ヶ月後のことだった。


このマリアンヌの大怪我はあっという間に学園中だけでなく社交界にも広がった。


そして、今まで裏で秘密裏に活動してたとある組織が動き出した。


その組織の名前は…




『マリアンヌ様の穏やかな生活と幸せを心から願い、陰ながらお見守りし抜け駆けは絶対にしない隊』


通称『マリアンヌ様見守り隊』である。





この『マリアンヌ様見守り隊』とはその名の通りマリアンヌが日々をつつがなく過ごす様子を陰ながら見守り、決して抜け駆けをしないと誓い合った人たちによって結成された組織で、その隊員数は数百人とも数千人にのぼるとも言われている。


以前から『マリアンヌ様見守り隊』はカイル王子の言動には腹を据えかねていたが、当の本人であるマリアンヌが気にしていなかったため表だって王子を非難することはなかった。


しかし、ヴィオラ嬢がカイル王子を言葉と身体で虜にすると、マリアンヌが嫌がらせをしてくるなどと嘘を吹き込み、逆にヴィオラ嬢がマリアンヌに嫌がらせをして怪我をさせていたことを突き止めていた。


何度かマリアンヌにもそれとなく忠告していたのだが、やはりと言うか当のマリアンヌが大丈夫だと言うので黙っていたが、階段から転げ落ちて大怪我を負うという恐れていた最悪事態が発生してしまったのだった。


流石の『マリアンヌ様見守り隊』でもこれはもうマリアンヌがたとえなんと言おうとも許せることではなかった。


隊員達は密かに作成していたヴィオラ嬢の行動記録簿と己が使える全てのコネというコネを使って、というか隊員の中には国王や王妃もいたし王国の権力者が数多くいたので、翌日にはヴィオラ嬢の悪行を全て白日のもとに晒されセイアッド王国から追放された。


ちなみにたくさんの義母や異母兄弟姉妹たちももれなく全員が『マリアンヌ様見守り隊』の隊員だったりする。


そしてマリアンヌに直接怪我はさせていないが、今回の共犯者であり長年マリアンヌを虐げていたといっても過言ではないカイル王子にはどれだけマリアンヌの婚約者に相応しくないかを勘弁してくれという王子の言葉を無視して毎日隊員たちが交代で語って差し上げた。


そんな救いようがない王子であったが、マリアンヌの意思を無視して勝手に婚約破棄することは『マリアンヌ様見守り隊』としては出来ないという結論に達し、王子からマリアンヌに婚約破棄を申し入れその返事次第で今後の活動方針を決めることになった。


もし婚約が継続の場合はカイル王子には『マリアンヌ様見守り隊』の監視が常につき、破棄された場合は廃嫡されることがきまっていた。


その二択を突きつけられたカイル王子は絶対に婚約を破棄してもらい、2度とマリアンヌと『マリアンヌ様見守り隊』とは関わらないと固く心に誓った。



そして2ヶ月ぶりに学園を訪れたマリアンヌの前に現れたカイル王子は冒頭の婚約破棄を懇願をしたのだった。



突然の状況に何だかよく分からないながらもマリアンヌが出した答えは


「えーと、それでは婚約を破棄いたします。でよろしいでしょうか?」


であった。


その言葉に土下座してしたカイル王子が立ち上がり


「ありがとう、婚約破棄してくれて本当にありがとうっ!」


と言って、涙を流しながらマリアンヌに抱きつこうとしたのだが、突然現れた男子生徒によって何処かに連れ去られて行ってしまった。


今だに状況がよく分からず呆然と立ちすくむマリアンヌを学園の生徒たちは何事もなかったかのように温かく迎えられた。




こうしてマリアンヌとカイル王子の婚約は無事に破棄されたのだった。







その後マリアンヌは2歳年下のオネット第二王子改め、オネット第一王子からの猛アタックを受け、王妃となり幸せに暮らしたとさ。




お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 思わず遠い目をしたW え~~見守りたいに国王や王妃が居るんかい~~。 どんだけ可愛がられてるんやW
[一言] 双方の合意なく、一方的に契約(婚約含め)を破れば「破棄」で。 逆に話し合い等で納得し解決したなら「解消」になります。 「お前なんかと結婚するものか!」なら破棄。 「婚約をやめましょう」なら…
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