95 変更
「もう知っているでしょうけど、自己紹介させてね」
未だに侍女たちの名前を知らなければ下女の名前すら知らないわたし。最初から自己紹介として聞いておけばと後悔する日々を送っています。
「わたしは、シャルロット・マルディック。湯浴み場の改築の間、よろしくお願いしますね」
目下の者への挨拶は、軽く頷くだけ、だったけど、にっこり笑いも足しておいた。
「ハーティム・ライマです。湯浴み場の下女長を任されております」
十九歳くらいかしら? 栗毛なんて珍しいわね。違う土地からきたのかな?
「カルミラです。よろしくお願い致します」
家名はなしか。どこかの家からの紹介なのかな?
「ミホ・ライダルです。よろしくお願い致します」
銀髪か。家名もあるし下位貴族の子かな?
「いつも三人で仕事をしているの?」
ここを利用してからこの三人しか見てないけど。
「はい。わたしは、火の管理をしていますので館の暖炉も担当しております」
とは、ハーティム。
へー。暖炉も下女の仕事なんだ。まだ時期じゃないから考えもいかなかったわ。
「これから湯浴み場を改築するから人を入れないようにお願いね。あと、埃っぽくなるから脱衣所のものは外に移動させてちょうだい」
「畏まりました」
「あ、あの、シャルロット様お一人でやるのですか?」
「ええ。湯浴み場が石を使っててくれて助かったわ。煉瓦だと強度的に不安だからね」
岩を組み、間に接着として灰泥を使っているみたい。これなら土魔法で形を変えられるわ。
下女たちは不思議そうにしたけど、魔法は素質がないと説明しても理解できないもの。魔法と言う力を理解する仕組みが体に刻まれてないと使うこともできないのよね。
「さて。やりますか」
まずは土魔法で湯浴み場の構造や強度を確かめる。
……意外と強度が弱いわね……。
見た目はしっかりと造られている感じだったけど、水を貯めるタンクを載せるとなると、シャワーが二つしか設置できなくなるわね。
シャワーは四つは付けないと混雑すること間違いなしでしょうね。
「ん~。これは困ったわね」
シャワーを四つにするなら一度解体してから造り直したほうが早いわ。けど、そうなる五日はかかる。それだと材料費が増えてしまうし、五日も入れないと侍女たちも困るでしょうよ。
「シャワーでなくお風呂にしたほうがいいかな?」
すぐに浴びれるシャワーのほうがいいんでしょうけど、この造りではシャワーは二ヶ所。お風呂にすれば五から六人は入れるでしょう。
「誰か侍女長様を呼んできてもらえる? わたしが湯浴み場のことで相談したいと」
「畏まりました」
侍女長様がくるまでにどう言う配置にするか考える。
しばらくして侍女長様がやってきた。
「どうかしましたか?」
「はい。湯浴み場の造りが思っていたより弱くてシャワーにすると二つしか取りつけられないのです。それでは混雑して不平が上がると思うので、お風呂に切り替えようと思うのですが、ご意見をお聞かせください」
「あなたはお風呂にするほうがよいと?」
「正直に言えばすべてを解体して一から造りたいのですが、さすがにそれは大事ですし、今日中に終わらせるならお風呂がよろしいかと思います」
「お湯はどうするのです?」
「沸かし湯ですね。元々釜でお湯を沸かしているのですから下女の仕事にも変わりはありませんし、外から焚けば水を入れるのも薪を運ぶのも楽でしょう」
王都は水道橋が走っており、館には三ヶ所から流している。湯浴み場の外にも排出口がある。それを改造すれば湯船に水を流せれば下女の仕事も楽になるでしょうよ。
「簡単に言えば館の小型版ですね」
あちらも大まかに言えば釜湯。沸かした湯を湯船に流している構造だわ。
「一日で造れるのですか?」
「そうですね。夜には使えると思います」
湯船はそう難しくないけど、水を流す機構が時間がかかると思うわ。
「……わかりました。変更を認めます」
「ありがとうございます」
「予算は大丈夫なのですか?」
「問題ありません。あ、掃除道具の予算はいただけますでしょうか? お風呂となれば髪や垢が浮いたりしますし、排水口に異物を取るフィルター──取り替え用のゴミ取り幕を設置したいので」
「いくらですか?」
「定期的に取り替えますので、五千もあれば問題ないかと」
フィルターって意外と高いのよね。纏めて買えば少しは安くなるでしょうよ。
「わかりました。奥様に伝えておきます」
「ありがとうございます。館のお風呂を改築するときは職人を呼んでいただければ予算も減らせると思います」
あちらはわたし一人では無理だ。いや、やれと言うならやれるけど、侍女が土木作業はさすがに不味いでしょう。偽装を兼ねて職人は呼ぶべきでしょう。
「わかりました。それも伝えておきます」
「では、お風呂にします。なにか要望がありましたらおっしゃってください」
やりすぎたら注意してくださいってことね。
「わかりました。時々見にきます」
ため息一つ残して立ち去っていった。
まあ、侍女長様としてもなにか言いたいのでしょうが、下女がいる手前、ため息一つでがまんしたのでしょう。
簡素に。でも使いやすいよう造りますかね。




