93 体質改善
「……またですか……」
侍女長様がやってきてため息をつかれてしまった。いやわたし、ため息をつかれるようなことしてませんよね?!
「あ、あの、運動しているだけなのですが」
侍女たちも休暇を与えられた者たち。仕事をサボっているのじゃないのだから問題ないはずよ。
「その運動が問題なのです。他の侍女たちがこのことを聞いたら陳情してくるのが目に見えています」
それはまた、わたしの仕事が増えると言うことでしょうか?
「シャルロット様の体型に憧れる者は多いですから」
「はい。あのように綺麗な体型になれるのならなりたいです」
「他の者も教えて欲しいと思います」
あーうん。教えろと侍女長様に陳情が上がるってことですね。シャワーのように。
「え、えーと、申し訳ありません」
とりあえず、謝っておきましょう。侍女長様にはなんの慰めにもならないでしょうけど。
「奥様に報告します」
はい。よろしくお願い致します。
侍女長様が消えてから深いため息を吐いてしまった。憂鬱な展開にならなきゃいいんだけどな……。
「シャルロット様。申し訳ありません。お手数ばかりかけて」
「いえ、構いませんよ」
想定できなかったわたしの落ち度。今度からは部屋でやりましょうっと。
「あの、シャルロット様が着ているお召し物、どこでご購入したものですか? わたしどもも買えますでしょうか?」
「買えないこともないですが、素材が特殊なものなので金貨八枚はかかると思います」
修練用だからと九百八十ポイントの安いやつを買ったけど、こちらの値段にしたらそのくらいになるんじゃないかな?
「動きやすいものでしたらマリッタのところでお願いするとよろしいですよ。布の値段からして銀貨三枚くらいで作れると思います」
女だけでやるなら腰と胸元を隠すくらいでいいでしょうし、動きやすくもある。わざわざ修練所を借りなくても部屋でやれるでしょうよ。
「マリッタ。家に手紙を出せる?」
「はい。出せますが、侍女長様に話を通してからのほうがよろしいと思います」
それもそうね。まだため息を吐かれても嫌だし。
「あの、布なら持っていますので、一着作ってもらえませんでしょうか? そう難しいものでないのならわたしたちで作ります」
「侍女は、縫い物もできるのですか?」
針仕事は下女の仕事ではなかったのではなかったっけ?
「針子ほど上手にはできませんが、寝巻きを作れるくらいの腕は皆持っています」
へー。そうなんだ。侍女って基礎的なことはできないとダメなのかな?
「まあ、そう難しいものではないので今日中に作っちゃいますね」
一着なら三十分もかからないわ。
「では、布を部屋にお持ちしますね」
「はい。お願いします」
運動を再開させ、部屋でできる伸縮運動を一通り教えた。
「……結構息が切れますね……」
「そ、そうですわね。汗も結構出ました」
まあ、侍女が息を切らせ汗をかくようなことって滅多にないわよね。
「汗を流すことは大切ですよ。体の血流がよくなりますし、代謝もよくなります。少々下品ではありますが、お通じもよくなりますからね」
魔法で解消させることも可能だけど、自らの体を鍛えたほうが健康と言うものだわ。
「そ、そうなのですか?」
一人の侍女が詰めよってきた。
「ちょっと失礼しますね」
詰めよってきた侍女の手をつかむと、ちょっと冷たかった。
「冷え性ですか。それならよく詰まるのではありませんか?」
「はい。薬湯を飲んでいるのですが、全然よくならなくて……」
どんな薬湯かはわからないけど、体質改善しないと効果はないでしょうね。
「魔法で多少なり改善はできますが、体を鍛えることで改善したほうがいいですね。まあ、今回は魔法で体を活性化しておきましょう」
この魔法はマッサージの一種。便秘って難病に匹敵するくらい厄介なものだからね。
「……か、体が熱いです……」
「ええ。今、体を活性化させたのでお通じもよくなると思います。ぬるま湯を飲んで備えててください」
これって加減を間違えるとトイレから出れなくなっちゃうのよね。
「は、はい。わかりました。失礼します」
お腹が活性化してきたのでしょう。急いで修練所を飛び出していってしまった。あれ? 加減が悪かったかしら?
「マリッタ。湯浴み場を使いたいから下女に話を通してちょうだい。着替えたらいくから」
「はい。畏まりました」
着替えてからでもいいのでしょうけど、先に話を通しておいたほうが湯浴み場の下女も心構えができていいでしょう。
「皆様もどうです? 就寝までベタついてては気持ち悪いでしょうし」
もう一人も三人も同じ。と言うか一緒のほうが楽だわ。皆でシャワーをあびましょう、だ。
「はい。お願いします」
と言うことで、レオタードから私服に着替え、湯浴み場へと皆で向かった。
村人転生コミック9巻、11月30日発売予定。よろしくです。




