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わたしはタダの侍女ではありません  作者: タカハシあん


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85 ロフロケーキ

「シャ、シャルロット様、わたしまでご一緒してよろしいのでしょうか?」


 席に座ったマリッタがオロオロしながら尋ねてきた。


「わたしの付き添いとしてきたのだから問題ないわよ」


 むしろ、横で立ってられるほうが迷惑。気になってしょうがないわ。


 小さい頃、おば様のところにきて大勢に囲まれての食事が嫌な思い出として残ってて、周りに人が立たれると落ち着かないのよ。


「落ち着きなさい。あなたも大きい商会の娘でザンバトリ侯爵家の下女。見苦しい姿を見せてはダメよ」


 下女は下女でも侯爵家の下女ともなれば伯爵家の侍女に匹敵する、と侍女長様が言っていたわ。


 伯爵家の侍女がどんなものか知らないけど、侯爵家の下女は皆礼儀作法に優れていた。街にある店でおたおたしてたら侯爵家の恥になってしまうくらいわたしにだってわかるわ。


「も、申し訳ありません」


「ふふ。そんな畏まらなくていいわよ。偉そうなこと言ったけど、わたしも侍女としての振る舞いはわかってないのだからね」


 今のわたしは他の侍女を真似てるだけ。下女とは言え、立派なことは言えないわ。


「今はあなたを見て学んでいるからお手本になってね」


「わ、わたしがお手本ですか!?」


「そうよ。わたし、こう言うところで食べたことないから作法がわからないのからね」


 まあ、街にあるお店でそう難しい作法はないとは思うけど、お手本がいてくれたら助かるし、勉強になるわ。


「お待たせしました。当店自慢アルーラ産の紅茶です」


 と、初老の男性がやってきた。


 アルーラ産がどこかはしらないけど、紅茶も一般的になったものよね。


 おばあ様が若い頃、この世界でも紅茶が飲みたいと、お茶の木を探し出して育てたらしいわ。


 出された紅茶をいただく。これは作法らしい作法はないからね。


「美味しい」


 おばあ様は紅茶派だったけど、わたしはコーヒー派なので自分で淹れて飲んだりはしない。ただ、おば様がきたときのために淹れ方は勉強したからそれなりに淹れられる自信はあるわ。


「はい。こんな美味しい紅茶、初めてです」


 どうやらマリッタも紅茶派みたいね。味がわかるみたい。


「ありがとうございます。甘さをお求めなら砂糖をお入れください」


「白い砂糖ですか。精製されたものが売っていたのですね」


 砂糖を白くするのはたくさんの工程が必要だ。産業革命も起きてないこの時代ではさぞや苦労していることでしょうね。


「お嬢様は博識でいらっしゃりますな」


「知識だけでは誇れませんわ」


 やってみてわかる大変さ。作るより買ったほうが楽ねと、異次元屋に買いにいった昔が懐かしいわ。


「ここのご主人で?」


 先ほどの従業員さん(仮)と顔立ちがなんとなく似ている。もし親子なら、モルティーヌの関係者と見るべきでしょう。なら、主の公算が強いわ。


「はい。モルティーヌ主、サイモン・ライオーでごさいます。どうぞお見知り置きを」


 上品よく一礼するサイモンさん。洗練された仕種だこと。


「わたしは、シャルロット・マルディックと申します。ザンバトリ侯爵家で侍女をしております。こちらは下女のマリッタです」


 立つのも行儀が悪いかなと、座ったまま名と身分を告げ、軽く一礼した。


「ザンバトリ侯爵家の侍女様でしたか。ザンバトリ侯爵家の侍女様方にはご贔屓にしていただいております」


「そうみたいですね。人気だとマリッタから聞きましたわ」


「お気に入りいただいてありがとうございます。職人たちも喜ぶでしょう」


 マリッタを見て一礼してみせるサイモンさん。接待は平等にするみたいね。


「お待たせしました。ロフロケーキです」


 従業員さん(仮)──サイモンさんの娘さんが台車でロフロケーキを運んできた。


「娘のレイナです。レイナ。こちらは、シャルロット・マルディック様だ」


「レイナと申します。よろしくお願い致します」


 父親と連携が取れてること。ちょっとした目線で理解し合っているわ。


「これがロフロケーキですか」


 シフォンケーキね、これ。


「はい。昔、祖父が賢者様に教えを受け、代々受け継いできたものです」


 旅の賢者? え? まさかそれ、おばあ様じゃないよね?


 おばあ様、若い頃はあっちこっち旅をしていて、いろいろはっちゃけたことをしていたと言っていたわ。


 ホールのシフォン──ではなく、ロフロケーキを四等分に切り分け、わたしとマリッタの皿に移した。


「ごゆるりとお楽しみください」


 サイモンさんとレイナさんが一礼した。あ、そこにいるのね……。


 下がってくださいとも言えないので、ロフロケーキをいただくことにする。


 マリッタに目配せし、どう食べるかやってみせと伝えた。


「美味しいそうですね」


 了解とばかりにフォークをつかんでロフロケーキに手をつけた。


 わたしもそれに習っていただいた。


 うん、美味しいわ。

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