81 習うより慣れろ
店内はそれほど広くはなかったけど、品数は多かった。
「いろんな柄があるのね」
「はい。国内はもちろん、外国からも仕入れております」
外国からもなんだ。ミリエイラ商会、思っている以上に大きな店っぽいわね。
「シャルロット様」
おっと。いろいろありすぎて意識を持っていかれてたわ。今日は薬の材料を買いにきたのを忘れちゃダメでしょう、わたしよ。
マリッタのあとに続き奥へと向かった。
店の奥は倉庫のようで、ここにも織物が積まれていた。そんなに需要があるのかしら?
階段を上がって二階へ。ここは人が住む造りとなっており、客間っぽいところへと通された。
「支店長を呼んでまいります」
ロックと呼ばれた男性が下がり、入れ違うように違う男性がお茶を運んできた。
「ごめんなさい。手間をかけさせてしまって」
「いいえ。シャルロット様にお越しいただいてもらうなんてミリエイラ商会としては誇らしい限りです」
下女にわたしがどう伝わってるかわからないけど、おば様となんらかの太い関係があることくらい見抜いていることでしょう。侍女長様からもなにか言われているんだろうからね。
そして、商会の娘たるマリッタの態度からわたしのほうが地位が高いことは察せれたはずだ。お茶もいいもの出しているみたいだしね。
……淹れ方はいまいちだけど、コレ、美味しいわね……。
「──失礼します」
と、白髪の男性が部屋に入ってきた。
この場合、立ったほうがよかったんだっけ? いや、身分的にわたしが上だから座ったままのほうがいいのか?
「この支店を預かっておりますロイドと申します」
右手をお腹に当てて一礼した。
「初めまして。シャルロット・マルディックと申します。ザンバドリ侯爵家で侍女をしております」
座ったままお辞儀をした。
「突然の訪問、失礼しました。マリッタの言葉に甘えてお邪魔させていただきました」
と、ロイドさんへの説明をマリッタに任せた。
「シャルロット様のお休みの案内を任されたのですが、わたしはあまり詳しくないのでロイドさんを頼りに参りました」
「そうでしたか。シャルロット様はなにかお求めで?」
マリッタの説明でなにかを察したのか、柔らかい口調で、庶民のお嬢さんを相手にするような態度を見せた。
「薬の材料を求めております。髪や体の汚れを落とす石鹸液を作ろうと思いまして」
石鹸は何百年も前に発明され、材料さえあれば素人でも作れるでしょう。けど、侍女が作るのはおかしいでしょう。ロイドさんも表情が一瞬だけ固まった──けど、すぐに柔らかい表情に戻った。
……商人って凄いものよね。感情を一瞬で操作できるんだから……。
「石鹸を作らなくても侯爵家なら最高級の石鹸を仕入れられるのでは?」
素朴な疑問って感じで尋ねてきた。
「わたしの髪は他と違うので専用の石鹸でないと髪を痛めてしまうのです」
後ろで団子のように纏めた薄紫の髪を見せた。
「王都では珍しい髪色ですね」
「先祖に外国の者がいたようで、その血が出たようです」
と言うマルディック男爵家の設定です。
「そうですか。外国にはそのような髪色があるのですね」
「ええ。お陰で自分で作らないといけないのです。お力添えいただけませんか? お礼はさせていただきます」
「いえいえ、侯爵様にはお世話になっております。案内するくらい造作もないこと。喜んでお手伝いさせていただきますとも」
「シャルロット様。ご遠慮なさらず。侍女長様よりなにかあれば家の力を借りなさいと指示されておりますので」
他所の力を借りてもいいからわたしにバカさせるなってことなんでしょうね。わたし、まったく信用されてない。いやまあ、常識知らずなところあるからしょうがないんだけど!
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますわ」
あとでマリッタの父親にお礼状でも書いておきましょう。お金じゃ失礼に当たるでしょうからね。
「ロック」
「はい。失礼します」
ロイドさんが呼ぶと、ロックさんがサッと部屋に入ってきた。
「このロックならサナッタ地区の隅から隅で知っております。伝手もあるのでご安心ください」
「ロックと申します。僭越ながらシャルロット様のお手伝いさせていただきます」
「よろしくお願いしますね」
椅子から立ち上がり、ロックさんに軽くお辞儀した。
「マリッタもお願いしますね」
お辞儀はせずにっこり笑みを浮かべてみせた。
「はい。お任せください」
と言うことで、ロックさん先導で支店をあとにした。
ふぅ~。買い物に出るだけでこんなに手間がかかるって、本当、侍女って大変な位置にいるのね。これなら下女になったほうがよかったわ。ってまあ、おば様が許してくれないでしょうけどね。
……ハァ~。慣れるしかないかないわね……。
「シャルロット様。とりあえず知り合いの薬問屋に向かいます」
「はい。わかりました」
習うより慣れろ。買い物をして慣れていきましょう。
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