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わたしはタダの侍女ではありません  作者: タカハシあん


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75 経費

 侍女として働くためにおば様のところききたはずなのに、わたしには特定の仕事がなかった。


 いや、館の見回りを命令されたけど、これは侍女の仕事なのかしら? まあ、不寝番の見回りは侍女の仕事だから見回りも侍女の仕事と言えば仕事なんでしょうが、ただ見回りするのも暇でしょうがない。


「この花瓶の水、代えてください」


 見回りしてる途中で花瓶の水が濁っているのを発見。通りかかった下女に指示を出した。


「はい。畏まりました」


 本当なら自分でやってしまいたいのだけれど、下女の仕事を奪ってはいけませんと侍女長様からお叱りを受けてしまった。


 広い城をわたし一人でやっていた者としては分担を決めて掃除をすると言うのがもどかしすぎる。何度わたしがやる! と暴走しかけたか。なんだか精神修業をしているようだわ。


 見回り一周目が終わる頃にはお茶の時間となり、おば様つきの侍女たちがお茶とお菓子を用意して執務室へと運んでいく。


 その時間は侍女も一休みになる。もちろん、全員ではなく順番に一休みしていくそうよ。ちなみに侍女の間では一休みのことを化粧直しと呼ばれているみたいよ。


 ただ見回っているだけで一休みするのも申し訳ない気持ちになるけど、皆さんが休んでいるいるのに自分だけ働いているのは協調性に欠けるそうだ。


 人に合わせる。集団生活ではそれが大事だとは知っていたけど、これまでしてこなかったわたしにはなかなか辛いものがある。思い通りにできないことがこんなにももどかしいものだとは知らなかったわ。

 

「お疲れ様です」


 侍女の休憩室へと入り、先に休んでいた先輩侍女たちに挨拶する。


「お疲れ様です」


 部屋にいた先輩たちが一斉に立ち上がって一礼する。


 侍女としてわたしのほうが下だけど、存在としては上。しかも、わたしの正体は侍女の中では周知の事実だ。きっとやりずらいだろうな~。


「昨日焼いたクッキーです。皆さんで食べてください」


 食べ物で皆さんを懐柔する。


 ゲスいと言うことなかれ。身分ある世界で同等に付き合えることは難しいもの。ましてや侍女は貴族の娘だ。上に従うことは強く教育されてるでしょうよ。


 そんな社会で仲良くやっていくなら食べ物で懐柔することも手段の一つだ。って、おば様から教えられました。


「ありがとうございます」


「シャルロット様のお菓子が毎日の楽しみですわ」


 ニコニコしながら皆さんにクッキーをいただいてもらった。


 皆さん、伯爵や子爵のお嬢様だったからか、所作が綺麗だ。きっと苦労して身につけたんでしょうね。


「そう言えば、町で歌劇団が流行っているそうよ」


「ミレーダ歌劇団のことかしら?」


「そんな名前だったかしら? 従妹がいきたいと騒いでると手紙に書いてあったわ」


 先輩方がそんなことをしゃべっているのを聞きながら自分用のお茶を淹れる。自分が飲むものは自分で淹れるが決まりなので。


 歌劇団か。そう言えば昔に連れていかれた記憶があるわね。まあ、じっとしてられなくて眠っちゃったけどね。


「観にいくの?」


「ええ。連れていかないとうるさいですからね」


「大変ね。従妹孝行も」


「本当に。本家のご機嫌伺いは疲れるわ」


 貴族と言うのは家のことまで気を使わないといけないんだから大変よね~。


 わたしには親戚と呼べる存在はない。いえ、お父様の兄弟がいるみたいだけど、違う国だから会ったことはない。付き合いもなかったからいないも同然だわ。


 天涯孤独、と言っていいでしょうが、別に一人でいることは苦ではない。一人で楽しめることはたくさんあるからね。

 

 って言うのが悪いんでしょうね。貴族の付き合いとか面倒だと思って話しかけないでいるんだからね。


 それ以前にわたし、侍女たちの名前知らないのよね。


 侍女長様も自己紹介のとき名乗らせてくれたらいいのに。もう十日以上過ぎてるのに今さら尋ねられないわ。気まずいじゃないのよ。


 いや、待て。知らないのなら調べればいいじゃない。侍女の名簿はあるはずなんだから。


「お先に失礼します」


 休憩中の侍女たちに挨拶して休憩室を出た。


 スマホにはカメラ機能があるので、館で働く者を密かに撮っていく。


「……結構働いているのね……」


 一人一人撮っていくだけで三日もかかってしまったわ。


「シャーリー。あなたなにをしているの?」


 次に侍女名簿を手に入れようと考えていたらおば様に気づかれてしまった。


「なんのことでしょうか?」


「惚けても無駄よ。あなたが悪さしようとしてるときの顔は見飽きているんですからね。正直に言いなさい」


 すっとぼけたけど、おば様には無駄だった。


 しょうがないので侍女の名前を知ろうとしていたことを白状しました。ごめんなはい。


「ハァ~。だったら言いなさい。と言うか、写真付き名簿ね。できるの?」


「異次元屋のリュージさんに相談しましたので可能です。ただ、ポイントはかかりますが」


 バレてしまったのならおば様に出してもらいましょう。侯爵家としての仕事になりそうだからね。



「わかったわ。ポイントはわたしが出すから必要なものを買いなさい」


 おば様がスマホを操作して一千万ポイントがわたしのスマホに移された。


「こんなによろしいのですか?」


 百万ポイントもあれば充分揃えられるわよ。


「経費よ。なにを買ったか記録しておきなさい。あと、パソコンを買って使い方を覚えてちょうだい。もう手書きじゃ追いつかないのよ」


 文明の利器に頼るほど苦労してるのね。本当にご苦労様です。


「畏まりました。すぐに用意します」


 実はわたしもパソコンは欲しかったのよね。覚える用とおば様用で二台買えるわ。ウフフ。

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