表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしはタダの侍女ではありません  作者: タカハシあん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/107

60 ミアリアナ

 チョコレートケーキが完成した。


 長い包丁で八等分に切り、試食する。


「……いまいちね」


 城なら設備もしっかりしてるから完璧に近いものが作れるのだけれど、ここではいまいちなものしか作れなかったわ。


「このオーブンじゃダメね」


 火が一定じゃないから焼きむらが起こったのでしょう。


「そうなんですか? 凄く美味しいと思うのですけど」


 ミゴリにも試食してもらったが、ミゴリ的には問題なさそうね。

 

「わたし的には六点かしらね」


 十点満点評価で言えばそのくらいのできだわ。


「シャルロット様は向上心に満ちているんですね」


「ふふ。そんな大したものではないわ。ただの凝り性なだけよ」


 誰かより優れたいと言うより自分を満足させたい気持ちでやってるからね。


「ミゴリ。スポンジ生地を作ってくれる? このオーブンを見極めたいから」


 材料はある。試食してくれる方々もいる。侍女長様も文句は言わないでしょう。たぶん……。


「お、おれでいいんですか?」


「ん? 構わないわよ。スポンジ生地作りは人力が必要だからね」


 撹拌機──撹拌魔道具を使わずひたすらかき混ぜるのはわたしでも辟易してしまう。助手がいるならやってもらいましょう。これも修行です。


 できたスポンジ生地をオーブンに入れ、焼き具合を観察する。


 何度目かでこのオーブンの癖がわかり、自分でスポンジ生地を作り、オーブンで焼いた。


「うん。いい感じだわ」


 次にチョコレートを湯煎してスポンジ生地に塗り、ブランデー漬けした果物を飾った。


「今度は果物を添えたいわね」


 ここではこれが精一杯だけど、奥様の舌を満足させるには充分だわ。


「侍女長様を呼んでください。ケーキができたと」


 わたし自ら呼びにいってもいいのだけれど、連絡をする呼び出し下女がいる。その人の仕事を奪うわけにはいからないからね。


 なんとも手間のかかる連絡だが、それが高位貴族と言うもの。わたしがどうこう言える立場ではないわ。


「シャルロット様。わたしも試食してよろしいですか?」


 メイズラさん以下、厨房の方々もチョコレートケーキを試食したいようなので、切り分けて皆さんに配った。


「甘いですな」


「男性にはそうでしょうね。奥様は大の甘党ですから」


 魔力を使ったり頭を働かせたりすると甘いものが欲しくなるようで、人より甘いものを要求するのよね。


「奥様に頼まれたらこのくらいが満足されますよ。また、あまり頻繁に頼まれたら侍従長様にご相談されるとよいかと」


 美味しいものの魔力はおば様でも堪えられないからね。


「シャルロット様。チョコレートは手に入りますか?」


「手には入りますけど、奥様と相談ですね。かなり高価なものですから」


 わたしが買うくらいなら安いものだけど、魔力がない者からすれば高価だ。一口チョコでも金貨一枚くらいの価値でしょうね。


「チョコレートではなく果物で代用するといいでしょう。ジャムにするのもいいですよ」


 ジャムの作り方は昔、おばあ様が伝えてある。メイズラさんなら美味しいものを作れるでしょうよ。


「シャルロット様。侍女長様がお越しになりました」


 下女さんがやってきた。侍女長様は厨房に入れないのかしら?


「ミゴリ。ケーキを台車に積んでちょうだい」


「わかりました!」


 わたしは、厨房の外へと向かった。


「遅くなりました。奥様好みのチョコレートケーキができました」


 にっこり報告すると、なぜか眉間にしわを寄せてしまった。わたし、なにかしましたか?


「わかりました。奥様に取次ます。あなたはケーキを運んでください」


「畏まりました。ミゴリ。ついてきてください」


 せっかくだからミゴリをおば様に紹介しておきましょう。どうせわたしの代わりにケーキを作るはめになるでしょうからね。


「は、はい!」


「侍女長、よろしいですか?」


 あ、ちゃんと許可はいただいておかないとね。


「わかりました。それも伝えておきます」


 許可が出たのでミゴリを連れて館へと向かいました。


 裏から館に出ると、なにやら騒がしかった。と言っても騒いでいるわけではなく、侍女や下女、侍従さんたちの気配がピリピリしていたのだ。


 侍女長様からの説明がないので、そのままおば様のところに向かい、部屋に入って納得できた。


「シャーリーねえ様!」


 おば様の娘、ミアリアナがいたのだ。


 確か十五歳になったかしら? 去年から貴族の子女が集まって学問や社交を身につける蕾の会(そこは学園じゃない?)に通い、寄宿舎に入っているはず。


「もー! くるなら教えてくださいませ! お母様もお父様も教えてくれないんだから、酷いです!」


 それはあなたの背後で愛想笑いしているお母様に言ってくださいな……。


「お嬢様。お久しぶりです。お元気そうでなによりです」


 今のわたしは侍女なので、仕える者として応じた。


「あのシャーリーねえ様が変われば変わるものなんですね」


 四、五年前から落ち着いたのに、ミアの中ではお猿だったときのわたしで固定されてるのね……。


「はい。わたしも大人になりましたから」


 おば様と侍女長様がなにか言いたそうな顔をしていますが、昔と比べたら大人になりましたから!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ