53 温かい食卓
朝になり、兵士さんたちに朝食を出したのち出発した。
馬車の旅は順調で、なんの問題もなかったために三日で王都に到着できた。
王都に入り、馬車は高位貴族が住む地区へと向かい、侯爵家の館へと入った。
「シャーリー様。一旦館に向かいます。サンビレス王国の方々は別の馬車でお送りしますので」
ここまで来るとわたしに決定権はない。なので、アルジャードの指示に従った。
「ミニオさん。ガルズ様にはのちほどお礼の手紙を出させていただきます。おそらくザンバドリ侯爵様からもお手紙を出すと思うのでお伝えください」
「はい。そう主に伝えます」
アルジャードがどこからか用意してきた馬車でミニオさんと兵士さんたちが去っていった。
「ゆっくり休んでからにしたかったのだけれどね……」
まるで追い出すように送り出してしまったわ。
「そんなことしたらあちらは気を使いまくりでゆっくり休めませんよ。それどころか三食温かいものが食べれて酒も飲めた数日なのですから、誰も不満なんて持ってませんよ」
「それならいいのだけれど……」
落ち着いたらお酒やお菓子を贈りましょう。
視界から消えるまで見送り、ため息一つ吐いてから現実と向き合うべく振り返った。
……あーこれは怒られるやつだ……。
玄関前にはおば様と馴染みの侍女たちが勢揃い。こんな出迎えされたくない順位があったら断トツに一番だと思うわ……。
「ご心配おかけしました」
怒られる前に先に謝っておこうと直角に腰を曲げて謝った。
「……成長したわね……」
なんの成長かは気にしないでおきます。
「入りなさい」
「は、はい」
入りたくなかったけど、侍女たちに鞄を持たれ、両脇どころか背後にまで回られてしまい、館の中へと連行されてしまった。
……罪人ってこんな感じなのかしらね……?
この館には何度も来ているのでわたしを知る者は多く、廊下の端に並んで迎えてくれてる。
おば様の部屋へと通され、侍女長のメアリだけ残って他は出ていった。
「座りなさい」
「わたし、侍女として来たのでここで……」
そこはなにか斬首台に見えて座りたくないです。
「座りなさい」
「あ、はい」
諦めて長椅子に腰を下ろした。
「弁解することは?」
「……ないです……」
したからと言っておば様の怒りが静まることはないでしょうからね。
「はぁ~。まったく、あなたは嵐のような子だわ」
わたしは嵐を静めた(沈めた、かしら?)のであって、わたしが嵐になった覚えはありません。
「とにかく、よく来たわ。歓迎します」
これから長時間に渡る小言が始まるのかと思い気や、抱擁をされてしまった。
「えーと、はい。ありがとうございます」
なにがなんだかわからないけど、歓迎されていることはわかった。
「疲れてない? 体調は?」
怒りはどこかに去り、いつもより優しくわたしの頭を撫でるおば様。
……頭を撫でられるなんて何年振りかしらね……?
「はい。疲れてませんし、絶好調です」
なにをすることもなく馬車に揺られていた(いや、まったく揺れはしない造りなんだけどね)。やることもないからミニオさんやナターシャとおしゃべりしていたわ。
「今日はシャーリーでいなさい」
つまり、明日からはシャルロット・マルディックとなるのか。呼び名はシャルかしら?
「はい、おば様」
なにか、部屋に満ちる空気がわたしをムズムズさせる。
「旅の話を聞かせて」
城を追い出されてからのことはスマホで伝えていたけど、いろいろはしょって伝えていたので、細かく話した。
お茶やお菓子をつまみながら話しをしていると、おじ様が帰って来た。
「無事到着してなによりだ」
ホッと胸を撫で下ろし、優しく抱き締めてくれた。
「ごめんなさい、おじ様。迷惑かけちゃって」
「構わんよ。シャーリーが無事なら」
ウソでもそう言ってもらえると助かります。
「とりあえず、食事にしよう。いろいろ忙しくて朝食からなにも胃に入れてないのだ」
おば様のところの侍女は優秀なので、食堂に移ったら食卓に料理が並んでいた。
……どう言う伝達方法で伝わっているのかしらね……?
貴族は食事中に会話はしないものだけど、わたしは貴族ではなく、おしゃべりしながらの食事だった。
おば様も城に来たときは誰よりもしゃべり、楽しい食事を過ごした。
だから、この館は貴族の習わしではなく、会話をしながら食事をすることになっているわ。
「こうして誰かと食べるの、久しぶりです」
精霊は食事はせず、カードゥは森でしてくるから食事は一人だった。
一人が慣れて忘れていたけど、近い人と食事をともにするってこんなにいいものだったのね。
城を放り出されて、この温かさを思い出したことが一番の収穫だわ。




