50 謝罪したい
久しぶりの野宿は結構快適だった。
昔は樹洞や洞窟で爆睡してたから今さら地面で寝ることくらいなんともないし、たまにガードゥを枕にして外で寝てた。毛布一枚あれば熟睡できるわ。
とまあ、わたしは問題なくてもミニオさんには問題ありまくりだったみたい。一睡もできなかった顔をしているわ。
……安全のためにわたしの横で結界を張ると説明したのだけれどね……。
「睡眠回復」
で、眠りへとつかしてあげる。朝食前には快適に起きられるでしょう。
大きく伸びをして縮こまった体を目覚めさせ、軽く運動をしてから朝食作りを開始した。
「シャーリー様! 申し訳ありません!」
お湯玉を作っていると、起きて来たナタージャに謝られた。
「え? 突然なに?」
わたし、あなたになにかされたっけ? 昨日が初対面よね。
「シャーリー様の守り役ながら寝過ごしてしまいました」
正直な人ね。まあ、その性格だからわたしの守り役に選ばれたんでしょうけど。
「そう。なら、まだ休んでなさい。アルジャードもそうしてるでしょう」
ここに来てないと言うことは眠っているのでしょう。これから起きることを想定して。いや、わたしは平和に事を進めようと思ってるからね。
「ですが……」
「わたしはなにもできないお姫様でなく、貴人らの世話をする侍女なの。あなたの誇りと矜持は尊重するわ。けど、わたしの行動を阻害するのは止めてね」
ナタージャの肩をポンポンと叩いてお湯玉作りを再開させた。
もっと言葉を増やしてあげて支えてあげたいけど、人数がいるので用意することがたくさん。ナタージャにだけ構ってられないのよ。でも、アルジャードに支えてくれるよう言っておきましょう。
カルビラス王国の兵士が起きて来たら見張りをお願いしていた兵士さんたちにお湯玉に使ってもらい、朝食を食べてもらい休んでもらった。
「シャーリー様、おはようございます」
ぐっすり眠ったようで顔に生気が戻り、朝食もガツガツ食べて体調を万全とさせた。
……きっと昔のわたしが今のアルジャードを作ったんでしょうね……。
「はい、おはよう。それで、嵐鳥はどうしましょうか?」
放置できないから国に連絡するのはわかる。わからないのは嵐鳥の処置だ。魔石があればいただきたいのだけれど。
「ハールメイヤ伯爵に兵を走らせたので今日中に来ると思います。どうなるかはロバート様のご判断によるかと」
だよね~。嵐鳥は災害認定されて迷惑な存在だけけど、素材としては引く手数多だ。いろんなところが騒ぐだろうな~。
「そうよね。下らないことを訊いたわ。ごめんなさい」
「いえ、お気になさらず」
はぁ~。本当に面倒だわ~。
「成長しましたな。昔でしたらさっさと逃げ出してますのに」
ほんと、昔を知られているとやりずらいわ。
「わたしも十八よ。いつまでも子どもみたいなことはしてられないわよ」
昔のわたしを子どもと片付けていいかわからないけど、今のわたしは淑女……とは言えないまでも大人しい女性になりました!
「それはなによりです。わたしも若い頃のように動けませんからな」
昔のわたしについて来れた数少ない一人だった。今も衰えた感じはしないから謙遜でしょう。剣で勝負したら絶対負けるでしょうね。
「じゃあ、今の年齢にできる働きをお願いね」
「……大人しくはなりましたが、性格は昔のままですな……」
「昔とは見違えるように変わったと思うのだけれど」
今、黒虫を見たら卒倒する自信があるわ。昔は「食べれるかな?」とか思ってたのに。あ、周りに全力で止められてたので食べてませんからね。
「訂正します。本質は昔のままです」
そう言われたら黙るしかない。自分でも昔のまだな~って思うからね。
「ところで、ナタージャになにか仰いましたか? 気落ちしているのですが」
「真面目ねって話しただけよ。あなたの部下からちゃんとあなたが教育しなさい」
わたしが教育したら騎士じゃないものになりそうだしね。
「はい。これからシャーリー様を理解させていきます」
本っ当に昔のわたしを知る人は厄介たわ! なにも言えないじゃないのよ!
「……黒歴史だわ……」
異世界の知識だけど、まさに黒歴史としか言いようがないよ……。
「ふふ。シャーリー様が昔を恥じるとは時間とは偉大ですな」
「……今、記憶消失の魔法が欲しいと切に願うわ……」
手に入れたら知ってるすべての人からわたしの記憶を消して回るわ。
「過ぎればいい想い出ですよ。まあ、悪夢になっている方々もいますがな」
その方にお会いできたら誠心誠意謝罪させていただきます。




