表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしはタダの侍女ではありません  作者: タカハシあん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/107

48 *アルジャード*

 姫様が城を放り出された。


 そうロバート様から言われたときはすぐに理解できなかった。


 姫様──シャーリー様は、霧の森と呼ばれる魔境に住んでいる。


 年に何度かはアリューナ様の元へと来るが、基本、城に引き籠っている。


 昔はそうではなく、お転婆……と言う域ではなかったが、まあ、当時の守り役が泣いているのを見習いながら哀れに思っていたものだ。


 ……そのあと、自分も守り役に任命されたときは泣いたがな……。


 あの頃のことを思い出すと胃が痛くなるが、いつの間にか真逆な性格になったときは泣いて喜んだものだし、引き籠るようなってからは安らかに騎士を続けられたものだ。


 それが、姫様が城を放り出されただと?


 聖賢者譲りの強大な魔力と周りをかえりみない行動力。何事もなくやって来るとは思えない。


 一瞬の悟りは正しく、なぜかサンビラス王国の大使団と一緒と言うではないか。あの方の引きは本当に凄まじすぎる。きっとロバート様の髪を減らすことをしているだろう。


「アルジャード様! 道を外れましたよ!」


 後輩の女騎士──ナタージャが叫ぶが馬の速度は落とさない。一秒たりと無駄にはできんのだ。


「アルベイグに向かう!」


 それだけ言い放ち、全神経を前にだけ向けた。


 アルベイグはロバート様の息がかかった砦があり、カルビラス王国の情報員の拠点の一つとなっている。


 強い力は強い力を引き寄せる。


 守り役としての勘が言っている。なにか災いが近づいていると。


 ……あの方の魔力は魔物にとって恐怖に感じるのだ……。

 

 馬を代え、二日かけてアルベイグへと到着。ロバート様の名を告げ、情報員と面会する。


「嵐鳥の目撃情報があります」


 なにか王国に害になりそうなことらないかと訊いたら情報員から嵐鳥の情報を聞かされた。


 災害級魔物ではあるが、姫様の力を考えればまだマシなほうだろう。城には超災害級のフェンリルがいるのだから嘆くほどではないさ。


「嵐鳥はハールメイヤ伯爵領付近に現れる。近隣領に警告を。ロバート・ザンバドリ侯爵様より許可は得ている」


 書状を情報員に見せる。情報員を仕切るのは宰相のロバート様だ。文字と魔法印を見間違えることはないだろう。


 上が優秀なら下も優秀で、すぐに行動してくれた。


「ナタージャ。我らは先行するぞ」


「先輩、少し休ませてくださいよ! 二日も馬に跨がってたんですよ」


「泣き言を言うな。お前は姫様の守り役に任命されたのだからな」


 騎士は基本、男だけが選ばれる。他の国でもそうだろう。だが、カルビラス王国には姫様がいる。一国を簡単に揺るがせるだけの方だ。


 その方の守り役を男だけで固めるわけにはいかない。女性も入れなければ隙を見て逃げられる。


 ……昔はいなくて侍女たちが泣いていたものだ……。


 それから女も騎士に叙任するようにし、姫様対策として育てるようになった。


 まだ数年なので一人前には育ってないが、ナタージャはその中でも上位であり、男爵令嬢でもある。姫様につけるにはもってこいだろう。おれから見れば不運なヤツとしか見えないがな……。


 アルベイグから兵士三十人を借り、ハールメイヤ伯爵領へと続く街道をひた走る。


 暗くなるまで走り、夜は魔法の光で走る。兵士何人かが脱落したが、十人も残れば御の字だ。


 霞む意識を回復薬で癒し、王都を出て数日。晴れていた空が突然陰った。


 ……フフ。嫌な予感とは当たるものなのだな……。


 なんて諦めにも似た悟りに笑いが漏れてしまった。


「先輩! 嵐鳥ですっ!?」


 ああ、言われなくてもわかっているよ。


「恐れるな! 嵐鳥などただのデカい鳥だ!」


 炎や雷を吐かないだけ断然マシ。嵐鳥など騎士団の三つでも投入すれば勝てるわ! 被害は甚大だろうがな!


 とは言え、姫様は大丈夫だろうか? いや、身を案じているわけではない。姫様なら倒せる。問題は、その倒し方だ。爆裂魔法などしようものなら近隣の山が火炎地獄となるだろうよ。


 ……齢九歳で森を一つ灰にしたお方だからな……。


 それからしばし。前方に馬車が見えた。豪華な外装からしてザンバドリ王国の大使団だろう。


 他国の者とは言え、大使を蔑ろにしたらカルビラス王国の恥。それ相応の儀礼は果たさなくてはならん。しかも、姫様がお世話になったのだ。礼を欠くことはできんだろう。


 馬を止め、全員を馬から降りるよう命令する。


「我らはザンバドリ侯爵家の騎士である! 大使団とお見受けする! 急ぎ故、このまま通りすぎる無礼をお許しくださいませ!」


 先導していた騎士も馬から降り、拳を胸に当てて騎士の礼をした。


「我らはザンバドリ王国バンドゥーリ子爵家に仕えるルイドフィーと申します。恥ずかしながらシャーリー嬢に嵐鳥を押しつけてしまいました。罰はのちほど受けます。どうかシャーリー嬢をお願いします!」


 あー貧乏くじを引かされたか。


「気になさらず。姫──シャーリー嬢はタダの娘ではありませんので。大使殿に咎を受けることはありません。それどころかシャーリー嬢を保護していただき感謝致します。いずれ主より礼をさせていただきます」


 こちらも騎士の礼を取り、馬を引いて大使団の横を通りすぎ、すぐに馬へ跨がり走らせた。


「姫様は近い! 遅れるな!」


 あぁ、姫様。どうか被害は小さく、無辜な民を巻き込まないでくださいませ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ