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わたしはタダの侍女ではありません  作者: タカハシあん


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37 *ヨシア視点*

「ヨシア。お前、大使団に混ざってみるか?」


 それは尋ねているようで命令に近いものだった。


 おれは、子爵家に雇われた兵士だ。なんて言えばまだ聞こえはいいが、十七歳の身では雑用係でしかない。きっと先輩方の荷物持ちをやらされるのだろう。


「はっ! 是非、お願いします!」


 まだ新兵の身分ではそう答えるしかない。逆らってもいいことはないし、学のないおれには他の仕事ができないのだからだ。


 ……冒険者になるしかない幼馴染みに比べたら、おれは遥かにマシだぜ……。


 おれの主たるガルズ様は、子爵ながらサンビレス王国では地位の高いところにいて、国王派の一員とされる。今回の大使も国王からの勅命らしい。


 政治とかはまったくわからんが、隣のカルビラス王国は大国で、サンビレス王国より頭二つ抜けているとかで、大使に任命される者は実力がないといけないとは聞いたことがあるな。


 そうなると連れていく兵士や騎士様は多くなり、夫婦同伴だから奥様つきの侍女も連れていくしかなく、出発するのに二月もかかってしまった。


 やっとのことで出発したら、今度は魔物の集団に襲われ、ギャレーの町に足止めを食らってしまった。


 雑用のおれも槍を振るって戦い、膝に怪我を負ってしまった。


 ……齢十七にして人生終了かよ……!


 悔しさと悲しさで泣いていると、薄紫の髪をした女神かと思うかのような女が現れた。


 ──領域回復。


 聖女が人々を助ける物語は子どもでも知る。その中で領域回復は最上級回復魔法だ。


 物語の中の奇跡を我が身で体験する。自分は本当に現実の人間かと疑いたくなる出来事だった。


「……完全に治っている……」


 それどころか、ガキの頃についた腹の傷まで治っていた。


 一番酷い傷を負った隊長まで完全回復して、薄かった髪まで回復していた。領域回復マジスゲー!


 回復したことに喜ぶ暇なく出発の準備に取りかかることになり、薄紫の髪をした女神が誰かなのかわからなかった。


「あの女性、カルビラス王国の者らしいぜ」


「侍女らしいぜ」


「名前は、シャーリーと言うそうだ」


 忙しいながらも先輩や騎士様、サンドラ男爵家側の者からの情報がおれの耳に入って来る。


「シャーリー様は我々に同行してカルビラス王国に向かう。決して不埒なことはするな。した場合は首がなくなると思え」


 やっとこさ準備が調い、遅めの夕食を食っていると、ガルズ様が現れ、おれらにそう告げた。


「ナジルさん。どう言うことですか?」


 ガルズ様の配下とは言え、おれは下っぱ。直接話したこともない。だから、ガルズ様が言ったことがよくわからず、十年先輩のナジルさんに尋ねた。


「重要人物だから悪さするなってことだよ」


「重要人物、ですか?」


「なんでもカルビラス王国の侯爵に仕える侍女らしい。しかも、あの回復魔法だ。ただの侍女ではないだろう。だから、悪さしてガルズ様の名を汚すことは許されないってことさ」


 な、なるほど。確かにあんな回復魔法をする女がただの侍女と言われても納得はできないか。しかも、女一人でいるとか不自然(異常か?)でしかないわな……。


 カルビラス王国に出発する日、奥様や奥様つきの侍女が変わっていた。


 いや、別人になったわけじゃなく、なんと言うか、輝いていたのだ。


「な、なにがあったんだ!?」


 兵士たちだけではなく、騎士様たちも目を丸くして驚いていた。


 奥様つきの侍女は誰もが美人だ。あ、奥様も。若い頃は青薔薇の方と呼ばれ、何人もの男に求婚されたとか。まあ、平民出の兵士には理解できない世界だが、今も綺麗なことから真実なんだろう。


「いったいどうしたんだ?」


 なんて疑問を口にするが、誰も答えてはくれなかった。


「貴族の御令嬢より綺麗になってないか?」


「お前、貴族の御令嬢なんて見たことあるのかよ?」


「男爵の御令嬢ならあるぞ」


 おれも奥様のお友達が来たとき見たことあるが、あれ以上に綺麗だ。ってか、服も綺麗になってるな。前はくすんだ色してたのに。


「……女って、あそこまで綺麗になるんだな……」


 娼館のねーさんたちの美しさに目も心も奪われたものだが、あれとは段違いにもほどがある美しさに心臓がバクバクである。


 ……あんな彼女欲しいもんだぜ……。


 高嶺の華ってのはわかってるが、あんな綺麗な女を見たら欲しくなるのが男なのだからしょうがない。夢を見させてくれよな。


 見てるしかないが、見ているだけでもいいと思えるくらい侍女たちが美しい。苦痛しかない旅が楽しくなった。やっぱり女がいるっていいよな~。


 そんなこんなでカルビラス王国に到着し、ゆっくりしていたら侍女のタリオラさんに呼ばれた。なんでも聖女様が髭を剃る練習台になれと。


 はあ? となったが、隊長からもやれと命令され、断るなどできないおれと髭を生やした先輩が聖女様の前に出された。


 先に先輩らの髭を剃る聖女様。やっぱり聖女様が一番綺麗だなぁ~。


 なんて見とれていたらおれの番となり、土の椅子に寝かされ髭を剃られた。


 ……聖女様の手、スッゲー柔らけー。それにいい匂いがする……。


 泡の石鹸(?)の匂いにも負けず、なんとも不思議な匂いがする。娼婦がつける香水がドブ川の臭いに感じるぜ。


 至福の時はあっと言う間に過ぎ去り、聖女様の手がおれの顔から離れてしまった。


 ぽやぽやとしていると、先輩に頭を殴られ、宿舎へと連れていかれてしまった。


「羨ましい。おれも髭伸ばしておくんだったぜ!」


 先輩方が悔しがる中、おれは聖女様の手の柔らかさと匂いを思い出していた。


 また、聖女様に髭を剃ってもらいたいな~。へへっ。


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