32 朝ですよ~!
清々しい朝が来た。
馬車旅での疲れもなく、体の痛みもない。寝る前に異次元屋に売った魔力も七~八割は回復している。旅の下ではまあまあって感じね。
城にいるときも似たようなときはあったから平常と言ってもいいでしょう。
ベッドから起き上がり、軽い運動。血の巡りをよくする。よし!
朝のシャワー──ではなく、お湯玉を作り出して朝の……なに? ん? ま、まあ、面倒だから朝風呂でいいわね。わたししか知らないのだから。
目覚めるくらいの朝風呂なので五分くらいで終わり、髪を乾かして整える。
新しい下着をつけて旅の服に着替える。着替えた下着は洗濯。している間に胃を目覚めさせるために紅茶を淹れて、まったりと過ごす。
洗濯が終わり、下着を鞄に仕舞う。
「ん? 領事館が起き出したみたいね」
内緒であちらこちらに仕掛けた結界に人が動く反応があった。
懐中時計を出して時刻を見ると、朝の五時半。領事館の朝は早いのね。
そう言うわたしも早いのだけれど、大して疲れてもなければ八時間も眠れば充分だわ。
「皆起きられるかしら?」
ナタリーさんたちにも回復マッサージを施した。旅慣れしておらず、疲労が溜まってたところに回復マッサージでは一日目覚めなくても不思議ではないわ。
……わかっててやるわたし、酷い女ね。フフ……。
部屋を完璧に掃除してから鞄をつかんで部屋を出た。
この建物は宿泊施設なようで、人の往来はなく、管理の人もまだ起きてない。誰にも会うことなくナタリーさんの部屋へと到着。ドアをノックした。
「聞こえないほど深く眠っているようね」
まあ、一番疲れが溜まっていたし、一番回復マッサージをかけたしね、自力では起きられないでしょうよ。
ドアに鍵はかかってないのでお邪魔します。
「フムフム。血行はよさそうね。目の下の隈も消えてるし」
回復マッサージの練習台にしたのは申し訳ないけど、綺麗になったのだからお許しくださいませ。
「ナタリーさ~ん。朝ですよ~」
肩をトントンと叩いてナタリーさんを起こすが、眠りが深いようで覚醒はしない。やりすぎちゃったかな?
「起こす魔法も考えないとダメね」
やはり他の人にやると問題点が出て来ていいわね。
城にいると試行錯誤できないことがわかっただけで城から追い出された意味はあったわね。と思っておきましょう。うん。
「──っ!?」
何度かの呼びかけてナタリーさんが飛び起きた。
「寝過ごした!?」
「大丈夫ですよ。落ち着いてください」
我を忘れているナタリーを鎮静の魔法で落ち着かせた。
……眠らせたり、静めたりする魔法はたくさんあるのにね……。
「いつもより早い時間なので慌てなくても大丈夫ですよ。寝起きに興奮すると体に悪いですからね」
そう宥めて小さなお湯玉を作り出し、顔を洗ってもらう。
「……え、えーと、いったいなにが……?」
顔を洗い、タオルで拭いたけど、まだ頭が働いてくれてないようだ。鎮静させすぎたかな?
改善点を考えながらナタリーさんを椅子に座らせて髪をとかし、後ろで結んだ。
髪質も一日では回復されないか。結びがいまいちだわ~。
「え? あれ? え?」
ナタリーさんの頭が働く前に寝巻きを剥いで侍女服に着替えさせた。
「では、他の方も起こして来ますね。ナタリーさんは、奥様の仕度をお願いします」
「え? はあ? え?」
ゆっくり紅茶でも飲まして落ち着かせたいけど、今日も出発は早いとのこと。まだ眠っている奥様を起こして仕度では余裕がないでしょうよ。
他の四人は二人部屋なのでミニーさんとミニオさんの姉妹の部屋へ突入。お湯玉を二つ作り出して頭に合体。一秒で外す。
「はびゃっ!?」
「ぶひゃっ!?」
淑女にはあるまじき声を上げる姉妹。血かしら?
「さあ! 朝ですよ!」
二人も頭が働いてないようで、ミニーさんから取りかかった。
「……シャーリー様……?」
ミニオさんが覚醒したようで、ミニーさんの髪を結んでいるわたしに戸惑いの顔を見せていた。
「おはようございます。すみませんが、着替えていてください」
ミニーさんの髪も回復してなく、結びがいまいち。トリートメントすればよかったわ。
「あ、あの、シャーリー様。御水所、出せますか?」
「はい、出せますよ。トイレ、オープン」
で、トイレのドアが現れる。どうぞごゆっくり~。
ミニーさんの髪を結い終わり、トイレから出て来たミニオさんの髪を結んだ。うん。結びは完璧ね。
「ミニーさん。ナタリーさんのお手伝いをお願いします。おそらく苦労していると思うので」
「え、あ、はい。わかりました」
「ミニオさんは、ナタリーさんの部屋の掃除をお願いします」
越権行為(?)だけど、頭が働いてない状態では出発が遅れてしまう。怒られたら誠心誠意、謝らせていただきます。
「わたしは、タリオラさんとササラさんを起こして来ますね」
部屋を出て二人の部屋に突入。ぐっすり眠る二人を叩き──じゃないわね。お湯攻めで起こした。
「さあ、清々しい朝ですよ~!」




