29 お湯玉
「は、裸になるのですか?」
そりゃ、お風呂に入るのだから裸になるでしょう。とは言えないか。こんな部屋の中で言われたらね。
「はい。恥ずかしいのでしたら見えないようにしますよ」
異次元屋から温泉の素も買ってある。まあ、まったく見えなくなるほどではないけど、透明よりはマシでしょう。
「あ、いえ、大丈夫よ。ナタリー。お願い」
おば様も服を脱ぐときは侍女の手を借りてたけど、子爵の奥様もそうなんだ。と言うか、服が一人で着れるものじゃないか。
「では、お湯を用意しますね」
奥様はナタリーさんに任せてわたしはお湯を用意する。
火と水の指輪でお湯の玉を二つ作る。一つは洗い用でもう一人は温まる用だ。あ、床には結界を張っておかないとね。
敷きマットを四枚置き、バスタオルを何枚か出す。
本当ならボディーソープも出して洗いたいところだけど、今日は空気玉で体をほぐしましょう。
裸になった奥様を温めのお湯玉へと誘い、ゆっくりと入ってもらう。あ、顔は出してます。
お湯玉は魔力で維持してるので奥様に合わせて強度を下げ、お湯が漏れないように調整する。
「体を洗うために温めにしましたが、冷たくはありませんか?」
「え、ええ。大丈夫よ。ところで、これ、どうなっているの?」
戸惑う奥様。魔法がある世界でもこれは珍しいでしょうね。
「魔力操作の一種ですね。極めるといろいろ便利ですよ」
まあ、魔法師級にならないと無理っぽいらしいけどね。わたしは、小さい頃から日常的にやらされていたから自由自在です。
「お湯に空気の粒を大量に出して体を洗いますね。最初はゆっくり。徐々に増やしていきます。くすぐったいかもしれませんが、そのうち慣れますから堪えてください」
慣れないとくすぐったいのよね。まあ、慣れたら癖になるけど。
魔力でお湯をかき回し、まずは拳大の空気泡を作り出し、空気の逃げ出し口から出した。
「……ふ、不思議な感覚ね……」
「ふふ。徐々に気持ちよくなりますよ」
空気の泡を少しずつ小さくしていき、沸騰したかのように空気の泡を渦回させる。
「ナタリーさん。これで奥様の体を洗ってください」
体を洗う用のブラシをナタリーさんに渡した。
「わ、割れたりしませんか?」
「大丈夫ですよ。ほら」
と、腕をお湯玉に突っ込ませた。ねっ。大丈夫でしょう。
「奥様。髪を洗いますね」
これは魔力操作をしながらじゃないとお湯が弾いちゃうからわたしがやります。
頭の後ろで纏めていた奥様の髪を解き、小さなお湯玉を作り出して髪の先から入れて頭皮まで浸からせる。
髪を纏めるためになにかの油を使ってるようで、お湯だけでは汚れは落ちない。しかたがないのでお湯玉を外して、結界を作り出してシャンプーを使うことにした。
……汚れが酷いわね。もう一回シャンプーするしかないか……。
結界内にお湯を入れて泡を流し、汚れは別の結界へと流す。汚れたお湯は異空間へポイ。あとで人様の迷惑にかからない場所に捨てさせていただきます。
一回ではダメで二回のシャンプーでやっと汚れを退治できたわ。ふぅ~。
「奥様。体も綺麗になったので一旦出てください」
二十分近く入ってたからお湯も冷めちゃったか。これは魔力にも熱を持たせるよう改善しないとね。
「体は火照ってますか?」
「そうね。少し……」
「では、少し涼んでいてください。ナタリーさん。これを奥様に」
バスローブを出して奥様に羽織ってもらった。
「これは、とても肌に気持ちいいものね」
「はい。侯爵夫人もお気に入りのものです。奥様も気にいったならそれをお使いください。お世話になっているお礼です」
思惑があって誘ってくれたんでしょうけど、お世話になっているのだからお礼はしなくちゃ。一方的ってのは不味いでしょうしね。
「お湯がもったいないですし、皆さんも使ってください。疲れが取れますよ」
お湯を循環させながら浄化させ、汚れは膜で取っている。ほぼ綺麗なお湯と言っていいわ。
「で、ですが……」
「遠慮しなくていいですよ。手間じゃないですし」
改善点を探したいし、いろんな人に試してもらいたいわ。わたし、拘る癖があるんです。まあ、興味があることだけ、なんですけどね。
「使わせてもらいなさい。シャーリー嬢の御厚意なんですから」
奥様の許可が出たことで、まずはナタリーさん──と思ったけど、奥様の髪をとかすそうで、ミニーさんから入ってもらうことにした。
「せっかくだから服を洗濯しましょうか」
なにか香水のようなもので臭いを誤魔化しているけど、汗の臭いが染みついている。きっと何日と洗ってないのでしょう。この分では下着も酷いことになってるはずよ。
「拒否は許しません。女は綺麗にしてこそ価値があるんですから」
他の皆の服を強制的に剥いて、新たにお湯玉を二つ作り出し、服と下着に分けて洗濯する。異世界の洗剤はよく落ちるのよね。
「……シャ、シャーリー様。なにか羽織るものをお願いします……」
豊満な胸を隠すタリオラさんが泣きそうな声を出した。寒いのかしら?
まあ、風邪を引かれても大変なのでバスタオルを人数分出してあげた。
「順番に入って体を洗ってください。わたしは洗濯しちゃいますから」
なにか城にいるような気分になり、お風呂を忘れて洗濯に集中してしまった。




