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わたしはタダの侍女ではありません  作者: タカハシあん


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26 御水所(トイレ)

 馬車の旅と言うのは過酷とは聞いてたけど、想像してた以上に過酷だった。


 国と国を繋ぐ街道がこれとはね。異世界の文明文化を知っているだけに落胆が激しいわ……。


 馬にもガードゥにも乗ってるのでこのくらいの揺れは耐えられるけど、少しでも体調が悪ければ最悪にまで悪くなりそうだわ。


 一緒に乗っている侍女さんたちも顔色は悪い。口を押さえて吐くのを我慢してる感じだ。


 ……まだお昼にもなってないのに、これじゃ王都に辿り着く前に倒れてしまうんじゃないかしら……?


 気丈なナタリーさんは平然としてるけど、顔色は正直だ。必死に堪えているのがバレバレだわ。


「領域回復」


 小さめの領域回復で侍女さんたちを回復させる。車内で吐るかれても困るしね。


「……シャーリー様……」


「気休めです。気にしないでください」


 馬車酔いは病気とは違う。少しの気休めでしかない。馬車に乗っている限りどうしようもないわ。


「シャーリー様は、平気なのですか?」


「平気ではありませんが、このくらいなら我慢はできます」


 全身運動かと思えば耐えられるわね。おしりが堅くなるのは容認できないけど。


「馬車がこれほど酷いとは思いませんでした」


 おば様の馬車は異世界の技術で造られ、魔法によって揺れすら感じない仕上がりとなった。


 天馬に引かせることで空も飛べ、数時間で城まで来れたりする。まあ、魔力が大量に必要なので非常時にしかやらないけどね。


「領域回復は微々たるものなので気にしないでください。気持ち悪くなったら遠慮なくおっしゃってください。我慢して体調が悪くなると回復によけいな体力を消費しますので」


 と、にっこり笑って見せた。皆様との壁があったのでね。


 侍女さんたちと同じ馬車に乗ってるけど、わたしの存在が異質だ。お客様な立場のわたしをどう接していいのかわからないのでしょうよ。


 ……身分がある外の世界は面倒よね……。


 大陽が真上に来た頃、馬車が停止した。


「休憩します。ミニオ。あとをお願いしますね」


 ナタリーさんがミニオと呼んだわたしと同じ年齢の侍女さん以外が速やかに降り出した。え、なに!?


「シャーリー様。花摘はなつみはいかがなさいますか?」


 花摘み、とは確かトイレのことだったはず。


 城のトイレは異世界産のもので造ってあるから、御水所ごすいじょとは言わない。ましてや外でなんてしない。外でなんか無理! と言うおばあ様が異空間トイレを作ってくれたからね。


「はい。花摘みをします」


 わたしも馬車を降り、異空間トイレのドアを呼び出した。


 ドアを開いて中へ。用を済ませて出た。ふぅ~。


「…………」


 ミニオさんが目を丸くしてわたしを見ている。うん、まあ、それはそうよね……。


「トイレ──じゃなく、魔法で作った御水所です。よかったらどうぞ」


 朝からいってないんだから遠慮は無用ですよ~。


 戸惑うミニオさんに異空間トイレの使い方を二度教え、ドアを閉めた。さあ、すっきりするがよい。


 出て来たミニオさんは、なにか頬を染めている。未知の経験はさぞや気持ちよかったでしょうよ。感想は聞かないけど。


「あ、あの、奥様に報告してもよろしいでしょうか?」


「わたしは構いませんが、兵士さんたちの手間が……」


 無駄に終わる、とは口にできない。なかなか立派な天幕ですし。


「いえ、問題ありません!」


 あ、ないんだ。じゃあ、しょうがないですね。どうぞ~。との意味を込めて微笑んだ。


 ミニオさんは、ナタリーさんのところへ駆け出し、あれやこれやと身振り手振りで異空間トイレのことを説明した。


 ……通じてるのかしら、あれ……?


 と思ったけど、なにか通じたみたいで奥様に説明しているわ。ナタリーさん、優秀すぎる。


「シャーリー嬢。御水所を貸していただけるとか」


「はい。外国の仕様となってますが、お好きにお使いください」


 奥様に使い方を教え、ドアを閉めた。


「あの、これはシャーリー様にしか扱えないものなんでしょうか?」


「呼び出し登録すれば誰でも呼び出せますよ」


 我慢できない! ってときのために異空間トイレは自立式にしてあります。


「勝手なお願いとは重々承知しておりますが、わたしたちにも使わせていただけませんでしょうか?」


「構いませんよ。同じ女性として、あの天幕を使うのには抵抗がありますので」


 抵抗どころか断固拒否させてもらいます。


「ありがとうございます」


「いえいえ。では、ここにいる女性を登録しますね。使いたいときは「トイレ」と言葉にしてください。出れば勝手に消えますから」


 トイレが一般的になってれば言葉にするのも恥ずかしいでしょうが、誰も知らないのだから恥ずかしいもないわ。


「使う度に呼び出すのですか?」


「はい。御水所はいくつかあり、使用毎に清浄の魔法がかけられます。誰か使ったあとには抵抗があるでしょうからね」


 あ、ミニオさんに使わせたときはわたしが清浄の魔法をかけましたよ。


「あ、これは女性用なので男性はご遠慮くださいね」


 申し訳ありませんが、男性はご遠慮くださいませ。異空間トイレは女の花園です。


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