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わたしはタダの侍女ではありません  作者: タカハシあん


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22 女の矜持

 おしゃべりは仲良くなる早道。そうおばあ様が言っていたっけ。


 それは正しく、最初、壁があったナタリーさんも一時間も過ぎれば態度が柔らかくなり、個人的なことも教えてくれるようになった。


 ナタリーさんは、二十八歳。十四歳から子爵家の侍女として働いているそうよ。


 個人的な話をしてくれるのはわたしの信用を得るため、とはわかるけど、家のためにそこまでできるんだから凄い忠誠心よね。それだけでガルズ様の人柄が見えるわ。


「シャーリー様は、ご兄弟様はいらっしゃるのですか?」


 ナタリーさんのご兄弟の話に移り、その流れでわたしに兄弟がいるかを訊いて来た。


「姉と妹がいますよ」


 シャルロット・マルディックの立場として、だけどね。


 「姉は遠くの国に嫁いで、妹はカルビラス国のライゼライ学園に通ってます」


 細かい設定はあるけど、ちょっと忘れてしまいました。あとでおば様に確認しておかないと。


「妹様は、ライゼライ学園ですか。それは優秀な方なのですね」


 優秀? ライゼライ学園、そう言うところだったっけ? 貴族の子が通うところとしか認識してなかったわ。


「そうですね。元気でやってるといいのですけれど……」


 つい、明後日のほうを向いてしまった。


 一応、マルディック男爵の娘としてライゼライ学園に送り込んでいるらしいけど、会ったことはない。現状把握の手紙も最近読んでないなぁ……。


「会ってないのですか?」


「ええ。一年ほど国外にいましたので」


 なので深く追及しないでもらえると助かります。


「い、一年!? そんなにですか?!」


「ええ。長い日々でした」


 なにをしてたかも追及しないでもらえると助かります。


「疲れていたのでしょうね。ちょっとした油断から荷物一式を失くしてしまい、ガルズ様には助けていただいて感謝しかありません」


 ガルズ様に会わなければまだあの汚い宿に泊まっていることだったでしょうよ。考えるだけでゾッとするわ。


「その割には荷物があるように見えますが……」


「ポケットに入れていたものです。念のために収納魔法をかけて助かりました」


「シャーリー様は収納魔法まで使えるのですか!?」


「はい。昔、役に立つからと祖母に教えられました」


 エプロンドレスの右ポケットからミルクキャラメル(十八個入り)を二つ、取り出した。


「侍女の皆様とお食べください。あ、殿方には内緒ですよ」


 人差し指を口につけてウインクする。これ、おばあ様がよくやっていたのよね。


「……よ、よろしいのですか? なにか、高価なものに見えますが……」


「お気になさらず。これからお世話になるのですから、そのお礼ですよ」


 ミルクキャラメル二箱で人間関係がよくなるなら安いもの。必要経費、ってやつね。


「お礼だなんて、わたしはわたしの仕事をしているまです」


「侍女のわたしが言うのもおこがましいですが、感謝し、態度で示してくれる主にはさらなる忠誠を捧げたくなるもの。それは、友人に対しても同じです。よくしてくれたらなにかお返しをしたくなるものですわ。まあ、物で返すのははしたないですけどね」


 ペロッと舌を出す。


「……ありがたくいただきます……」


 ミルクキャラメルをナタリーさんの手に収める。これで返すことはできないでしょう。もらったものを返すのは失礼な行為だからね。


 恐縮するナタリーさんに笑顔を見せ、話題を変えることにする。


「あ、夕食のあと、また厨房を借りたいのですが、料理長さんにお話を通していただけませんか? クッキーを焼きたいんです」


 せっかく立派な窯があるのだからクッキーを大量に焼きたいわ。


「シャーリー様は、料理が好きなのですね」


「料理が好きと言うより、食べるのが好きな感じですね。わたし、魔力が多いので、たくさん使うとお腹が空くんですよ」


 魔力は使わないと循環が悪くなり、体を蝕み、下手をすると死にいたる。


 まあ、弱い人ならそうでもないのだけれど、わたしくらいになると魔力は毒になる。毎日使わないとダメななのですよ。


「そうなのですか。女性としては大変ですね」


「ふふ。大食らいは男性に疎まれますからね」


 昔、たくさん食べて男の子たちにドン引きされたっけ。


「シャーリー様も男性を気になされるのですか?」


「なんですか、それ。わたしも立派な女ですよ。男性の目は気にしますよ~」


 城暮らしだと男性の目を忘れがちだけど、女の矜持を忘れたときが女の死。女ならば死すとも女を守れ。それが我が家の家訓です。


「そうでしか。それはよかったです」


 はい? なにがです? と尋ねようとしたらドアがノックされた。


 わたしが答える前にナタリーさんが素早く席を立ってドアへと向かった。


 ドアを開けると、男爵家の侍女さんがいた。


 あ、ちなみに子爵家と男爵家の侍女さんは服装が違います。


「夕食の準備が調いましたので、食堂へお越しくださいませ」


 あら、もう夕食か。おしゃべりしてるとあっと言う間ね。


「わかりました。今いきます」


 服装と髪を整え、部屋を出た。


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