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七章

 七章


 体育館の端に砂の小山が出来ていた。

「残り二人」

 ・・・・・・

「・・・お前の願いは何だ?」

「涼青高等学校の二年生を、四組までにすることです」

「俺を殺して自分も死ぬのか?」

「あなたを殺せば、どう足掻いても私は死にます」

 ・・・?

「どういうことだ?」

「あなたの耳には私が初日に、命を短くする代わりに強くなる契約などはできますか?、と言ったことが聞こえているはずです。

 私の寿命は、あなたを殺した瞬間に尽きることになっています」

 ・・・・・・

「いいのかよそれで。

 自分をいじめたやつらを皆殺しにして、それで気楽に逝けるのか?

 それを耐え抜いたほうが、よっぽどいいんじゃないのか?」

「あなたもいじめの辛さはわかっているはずです。

 ただ自分が他の人より違うだけ。

 ただ自分が他の人より違うだけで、罵られ、水をかけられ、肩をぶつけられ、集団リンチをうけ、金を巻き上げられる。

 私は、それが嫌なだけです」

「いじめたやつを全員殺せば、いじめはなくなるのか?

 罪を犯した者を全員殺せば、世界は平和になるのか?」

 疾風の頭の血は乾きはじめていた。

「・・・・・・」

「言い返せないじゃないか」

「あなたは何もしなくても、次のダーツが放たれたからわからないのです。

 もう次のダーツが放たれない者の気持ちが」

「放たれないのなら、もう持っているダーツが無いということじゃないのか?」

「どういう意味ですか?」

 日がかげってきた。

「次のターゲットは作られない。

 お前が終わったら、もう終わりなんだ」

「ゲームを楽しむ者にとって、ゲームの終わりは苦痛以外の何物でもないと思いますが」

「楽しみすぎた代償は苦痛で十分のはずだ。

 自業自得なんだからな」

 こんなことを言って、あきらめてもらおう、なんていう浅はかな考えは持っていない。

 しかし、そんなことはどうでもよかった。

「逆に聞き返しますが、あなたの願いは何ですか?」

「このクラス全員を生き返すことだ」

「馬鹿馬鹿しい」

 疾風が半ば反射的に言葉を返す。

「サバイバルをちゃらにする・・・ということですか?」

「そういうことだ」

「共通の体験をしていながら願いが正反対とは・・・思いませんでした」

 疾風が構える。

「願いをあなたに叶えてもらおうかと思いましたが、そううまくはいかないですね」

「本当か?」

「ええ。本当です」

 後悔先に立たず。

 俺は雷刃裂を構える。

「始めましょうか。さあ」

 その言葉が言い終わらないうちに、俺は天井の鉄骨へと飛び移る。

「能力に差があるのなら環境を利用しよう、ということですか」

「ご名答」

 不思議と戦う気が失せた。

「めんどくせぇ」

「戦うことが・・・ですか?」

「ああ。何もかも面倒くさくなった」

 疾風が俺の首元に神刀を当てる。

「今なら、楽に逝かせてあげますが」

「それは・・・拒否する!」

 一撃を食らわされる前に、疾風の神刀を薙ぎ払う。

 しかし、片手対両手にも関わらず、疾風の神刀は一ミリ足りとも動かなかった。

「神様より頂いた能力・・・侮るのですか?」

 その場から貫かれる前にバク転して立ち上がる。

 そこだけ鉄骨が落ちていた。

 風景を脳へと送る暇もなく、疾風の神刀が頬をかすめる。

「毒の能力が無いのが幸いでしたね」

 その言葉を言い切ったのを確かに聞いた後に、俺は鉄骨から飛び降りた。

「流れろ!」

 鉄骨は鉄である。

 多数の切れ込みがある体育館の床へと着地する。

 目を上げた瞬間に、神の力を思い知った。

「甘いです」

 疾風が神刀を横に振る。

 何もこない。

 だが、何かが来る、と強化されていない第六感が告げた。

 しゃがみこんだまま側転をすると後ろの壁に空の目ができた。

「避けましたか。やりますね」

 その言葉を言い始めた瞬間、既に俺は駆けていた。

 ここでは勝てない。

 それ以外の何も考えていなかった。

 後ろを振り向くことは出来ない。

 だが後ろに誰かがいることはわかっている。

 見えなくても、聞こえなくてもわかっている。

 等間隔で並ぶ若干灰色がかった白色のマスを駆ける。

 階段の一段目を踏み切り板代わりにして、二階の手すりを軸にして二階へと上がる。

 それでもついてくる。

 駆けても、駆けても、駆けても、駆けても。

 見えも聞こえもしない存在。

 存在という名の疾風。

 恐れを覚えていた。

 理科室。

 ここなら決着をつける術はある。

 床より少し灰色な柱に左手をかけ、扉を蹴破る。

「移動しても変わりないと思いますが」

 少しも驚かなかった。

 見えない真空波。

 第六感のみで避けるのも限界がある。

 肩が、腕が、足が、少しずつ切れていく。

「寄せ付けてはもらえない・・・か」

「能力が分かった以上、そうするのが懸命でしょう」

 傷が少しずつ深くなっていくたびに痛みが滲むように無くなってくる。

 神経までは切れていないはずだが・・・なぜだ?

 これが・・・能力?

 ・・・だいぶ匂ってきたな。頃合いか。

 俺は雷刃裂を掲示されているセピア色にあせたポスターへと向ける。

「流れろ!」

 念じた瞬間に爆風で吹き飛ばされる。

 散乱したガラス片が傷に食い込んだ。

「くっ・・・・・・」

 後ろに降り立つ音。

「策などお見通しです。

 ガスと火など、子供でも思いつくではありませんか」

「子供だからな」

「精神年齢で十分です」

 痛がる足もろとも引きずりながら、俺はなおも駆ける。

 はっきり言って今の俺の頭では、答えは二つしか導き出せない。

 一つは次にすること。

 もう一つは最後にやるべきことだ。

 ガラスを蹴破って外へ出る。

 一つ一つの破片が、場違いにまぶしかった。

 二階のベランダへと到達する。

 調理室。

 ドアを蹴り飛ばすと、床にガラス片が散らばった。

 その中に、彼の顔が映った。

「何をしているのですか?」

 痛んだ体に鞭打って、第六感が示すがままに動く。

 そのまま準備室へと突撃する。

 あった。

「くらえ!」

 見つかったら銃刀法違反になるであろうものが彼の額に向けて飛んでいく。

 ・・・当たった。

 刺さった、ではなく、当たった。

「・・・・・・」

 軽い音が響いた。

「・・・・・・」

 疾風の額には少し瘤が出来ていた。

「・・・正直言って、この展開にそれは無いと思いますが」

「・・・せめてグサッといったほうが、お前としてもまだよかっただろうな」

 予想外。

 実際、映画とかではよくこうはならないものだ。

 二の舞をしないように、ダーツのように投げる。

 片手で全て防がれてしまった。

「ギャグもそこそこに終わりですか?」

「・・・・・・」

 残るは最後の案。

 ここからならすぐだ。

 問題はどうやって近づくか。

「そこからは、もう逃げられませんよ?」

 準備室に扉は一つしかない。

 窓も何も無い仕切られた空間。

 生徒を危険にあわせないための工夫なのだろうか。

 疾風が少しずつ歩み寄ってくる。

「最後ぐらい、堪忍したらどうですか?」

 疾風の足がもう一方のベランダのドアへと差し掛かった。

 今だ。

 少しの距離を駆ける。

 考えていることは一つだけ。

 疾風の神刀が刺さる。

 考えていることは一つだけ。

 ドアに向かって駆ける。

 考えていることは一つだけ。

 疾風を神刀ごと抱えたまま飛び降りる。

 考えていることは一つだけ。

 プールの水が勢いよく跳ねる。

 考えていることは一つだけ。

「流れろ!」


 ・・・・・・


「終わりましたねぇ。神様」

「死へと追い詰められた人間。その生き様と足掻こうとする力、全て見せてもらった」

「で、生き返した後にどうするつもりですかぁ?」

「0.1上げる」

「太っ腹ですねぇ」

「あれほどのことをやってもらったのだから、仕方が無いと言えば仕方が無い」

「で、引退・・・みたいなものですかぁ?」

「お前にも見えない存在になる、というだけだ」

「寂しくなりますねぇ」

「お前には補佐がいるだろ?」

「・・・あれですかぁ?」

「辛抱しろ」

「・・・はぁい」

「ではな」

「・・・最後に聞きたいんですけどぉ」

「何だ?」

「続き・・・やっていいですか?」

「・・・好きにしろ。だが、必ず0.1上げろ」

「わかりましたぁ」


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