六章
六章
・・・・・・
学校。
初日に考えていたことが、現実になるとは思わなかった。
廊下・・・誰もいない。
教室・・・誰もいない。
職員室・・・誰もいない。
消された・・・か。
生徒が次々と砂になって死んでいく。
そのせいで休校ということも無じゃないな。
気分的に、体育館に行ってみることにした。
空虚な巨大空間。
露出した骨組み。
色あせた校歌。
自分の足音だけが、無駄に響いた。
「どうかしたの?」
「逃げてるの?」
「誰から?」
「何人殺した?」
「何人・・・救った?」
その数、五人。
「残り七人」
残り一人は疾風か・・・・・・
「ねえ、聞いてる?」
「聞いてる」
「だったら答えてよ。ねえ」
今までの感じとは違う、何かが押し寄せる。
「お前ら、何者だ?」
「魅恋」
「理栄子」
「里奈」
「紫漣」
「莉沙」
「そういうことが聞きたいんじゃない」
空気が違った。
「涼青高等学校二年五組で神様主催のサバイバル参加者」
「違う」
「何が言いたいの?はっきり言ってよ」
答えをわかっているのに聞いている。
「お前達の服、一体どうしたって言ってるんだよ!」
赤く染められた服。 それにまだ、濡れたままだ。
「決まってるじゃん。
返り血と、
殺した人を食べたときの血だよ」
・・・は?
「お前何を」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
「くけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけけ」
壁に反響して、何百人に笑い者にされているように聞こえる。
「い、一体・・・何を・・・・・・」
「おかしいから、笑ったの。
それがどうかした?」
冗談じゃない。
「違うだろ・・・お前」
「何が?どう?わかんないよ?」
答えを知っている。
こいつらは。
「五対一ですか。卑怯にも程がありますね」
「はや・・・て・・・・・・」
まだ赤く塗られたまま先が不自然に曲がっている剣。
見れば頭からも出ていた。
「メガネ取ったら、顔だけはストライクね」
「ありがとう・・・とでも、言うと思いましたか?」
その目は血走っていた。
「いじめに参加する気はありませんから、られる側につくことにします」
「五対二で勝てるの?」
「勝たなきゃ、いけないんだろ?」
俺が構えると同時に五人が構える。
「近・中距離武器のオンパレード・・・か」
「やさしく・・・食べてあげる」
魅恋の舌なめずりと共に莉沙が襲い掛かってくる。
「こっちは一対一であっちは一対四・・・・・・
なめられたもんだな」
二メートル級の刃が頭部めがけて振り下ろされる。
受け止めた瞬間に、腕に電気が走る。
鞘の一撃を髪一重でかわす。
振り向きざまに一振り。
跳んでかわされると、雷刃裂を土台にして後ろへ跳び下がる。
二人同時に相手に向かって跳ぶと空中で鍔迫り合いをしながら下に落ちる。
「食べたいのか・・・俺を」
「食べたいよ。おいしそうだもん」
「成葉によると、俺の内臓はすごくきれいらしいからな。
どうせ食うなら、うまそうに食え」
「言われなくても・・・わかってる」
莉沙を一度薙ぎ払う。
全力で駆ける。
莉沙が神刀を一度鞘に収める。
駆ける。
莉沙が鞘ごと神刀を薙ぎ払うと、鞘と共に体育館の床がものすごい音をたてて切れていく。
真空波。
能力はそれだった。
側転をしてそれを避けると猛然と駆ける。
一本なら、勝ち目はある。
・・・意味は無かった。
二本が一本に減った。
それだけだった。
再び莉沙を薙ぎ払う。
壁に激突すると共に足の力が抜けていっている。
もらった。
左からの音。
バク転すると右の壁に槍が刺さっているのが見えた。
何かに引き寄せられるように槍が本人の手へと戻っていく。
・・・途中で落ちた。
「十分一人だけ構っていれば済んだものを」
莉沙が立ち上がる。
反射的に身構えるが、その目は俺を射ていなかった。
紫漣を、いや、食物を見ていた。
紫漣の顔が恐怖で歪む。
まだ、生きている。
「お願い・・・や、やめて・・・・・・」
懇願するその目は、
一番初めに食されることになった。
腹が切り裂かれ、見慣れた風景が目に映し出される。
血。
血。
血。
血。
血。
血。
血。
血。
血。
血。
血。
血。
血。
血。
血。
言葉で書き表せないほどに飛び散り、床と服をびっしりと染めていく。
・・・うまいのだろうか。
ふと、そんな疑問が浮かぶ。
しかしその顔は、とてもそんな風には見えなかった。
泣いている。
その顔は、確かに悲しみに泣いていた。
泣いている。
泣いている。
泣いているのに食べている。
わずかに残った正気が泣かせているのか、
現実に悲しんでいるのか・・・・・・
何もわからなかった。
別の場所から勢いよく噴き出した。
四ヶ所。
「始めようか。さあ」