五章
五章
「残り十人」
意味も無く検索した結果がそれだった。
すでになんらかの方法で二年五組の二十三人が死んだ。
死んだんだ。
残酷であるにもかかわらず、何も感じない自分がいた。
「十人・・・ですか」
「ところで、こんな状況になっても二人一緒とは驚きだな」
こいつら・・・健司と美奈は恋人同士である。
「大好きだもんねっ。私達っ」
「そうですね」
どう考えても吊り合わない二人である。
天真爛漫と冷静沈着。
どこに共通点が・・・・・・
逆に全く無いのかもな。
「とりあえず、どうやって成葉を殺った?」
「あれはね、美奈が――」
「奇しくも敵同士ですよ美奈さん」
「ごめんなさいっ」
反省の色が伺えない。
「とにもかくにも私達はアンフェアなことは嫌いですから麻酔が覚めるまでは待っています」
「句読点をつけろよ」
「そういう人だから健司くん」
二時間三十分経過。
いつになったら覚めるのだろうか?
・・・もしくは、体が覚めたくないのかもしれない。
「拷問をかけるのであればなぜ麻酔を施したのでしょうか成葉さんは」
「成葉がそんなことするなんて、信じられないよ・・・・・・」
「拷問をするのは罪を償わせるためか被験者の痛みを加害者が楽しむためのものでありどちらとも言えませんが・・・・・・」
美奈が健司を覗き込む。
「私の話、聞いてる?」
「すいません独り言に集中していたので聞こえませんでした」
「じゃあケーキ一つプラスね」
健司が何かを指折りで数え始める。
「もう一ホール買わなければいけなくなりましたね食べられますか?」
「洋菓子一家の娘をなめないでよねっ!」
いくらなんでも限度がある。
「・・・健司、日常茶飯事か?」
「はい一日最低三個は」
美奈に向き直る。
「・・・三食普通に食べるんだよな」
「そうだよっ」
「しかし美奈さんにとっての普通の食事はケーキですのであしからず」
美奈の体を動かしにくい首でなんとか見渡す。
「お前の家って――」
「学校から一キロも離れてないよ」
「朝は――」
「健司くんに起こしてもらってるよ。
もっ、もちろんまだそこまでいってないからねっ!」
・・・物理的にありえない。
「飽きないのか?」
「おいしいもん」
某朝日系列の某テレビ番組に出まくれるんじゃないかと。
「・・・ある程度の雑談が終了したところで寝てはいかがですか?私達が見てますから」
「頼む」
「美奈そんなに起きれないよ」
「大丈夫です美奈さんは寝ていてください私はもともと不眠症です」
美奈が驚きの表情をする。
「そうなの?じゃあ、美奈が毎晩子守唄歌ってあげるよ。家、隣だからいいでしょ?」
「・・・いろいろな面から勘弁願います」
「どういう面だよ」
「遅く起きた朝は・・・ですか」
「おはようっ!」
その二つの言葉には似合わない体勢だった。
「ごめんねっ。健司君がこうしてないと危ないって言ってるから」
俺の首には美奈の鉈がぴったりと当てられていた。
「とりあえずそのまま起きてくださいもちろん動けるはずです」
試しに手を動かそうとしたら手が動いた。
・・・当たり前か。
「ここでやるには狭すぎですので場所を移させていただきます」
町の中心地。
小規模ながらもオフィスが立ち並ぶ地帯である。
「こ――」
「心配はご無用ですこの町の大人達は下しか向いてませんから・・・ご存知かと思いますが」
二人がそれぞれの神刀を取り出す。
「まずは能力紹介といきましょうそちらからどうぞ」
「・・・信用していいのか?」
「別にしたくないのならばしなくてもいいですしかしこれは両者にとって得になる話だと思うのですが」
・・・・・・
「俺の神刀は雷刃――」
「名前は結構です能力だけどうぞ」
「本人が望むだけで人間に値すると即死級の雷を流すことができる」
「射程距離はどのくらいですか」
間髪いれずに聞いてくる。
「一メートル無いと思う」
「・・・・・・
私の神刀はこれです」
そう言って乱暴に大剣を取り出した。
「・・・能力は?」
「美奈に預けました」
能力の譲り渡し・・・か。
そんなことが可能だったのか。
「私のはコレッ!」
俺の顔の数センチメートル脇を、何か黒い物が通り抜けた。
「投げたらじどーせいせいされる二つの鉈と、健司君から譲ってもらったとーめいにんげんになれる能力」
そう言った瞬間に美奈の姿が消える。
「どう?」
その言葉は後ろから聞こえてきた。
「始めま・・・しょうか」
「ああ」
後ろを切り裂く風の音。
跳躍すると俺の立っていたところに砂煙があがる。
続けざまに放たれる「ソレ」は音によって判別がつく程度だった。
ワイヤーアクションでしか不可能な壁走り。
難無くこなせても、放たれる「ソレ」の音は無数のガラスを割りながら確実に近づいている。
視界が薄暗くなる。
気配を感じて道路へ跳躍すると付近の木が風と共に切り裂かれた。
速さと遅さ。
正反対だが、吊り合っている。
二人の関係もこんなものだろうか。
考える暇もなく、二人が弧を描いて両方から襲ってくる。
高く跳躍したところで無駄だった。
二人が同時に俺に向かって跳躍する。
その距離、零。
仕方なく美奈の体を蹴って反対側に跳ぶ。
「先・・・行って・・・・・・」
「・・・わかりました」
わずかにうめくその声もはっきりと聞こえた。
あの距離からの道路激突。
ましてや、強化された足での蹴り。
一本や二本では、済まされない。
・・・仕方ない。
健司の脇を通り抜ける。
「・・・済まない」
「サバイバルですから・・・仕方ないです」
事態を把握しながらも健司はそう言った。
中央車線を飛び越える。
唾を飲み込む音が、確かに聞こえた。
悲痛の表情で美奈の顔が歪む。
その確かな手応えを感じる暇も無く、すぐさま雷刃裂を後ろへ向ける。
手への確かな手応えと共に首筋に生温かいものがこびりつく。
見えてはいなくても、色はわかった。
あまり服が濡れないうちに二人の間から離れる。
「美・・・奈・・・さん・・・・・・」
「健司・・・君・・・・・・」
二人が死にかけの体で抱き合う。
「あなた・・・に・・・はぁ・・・出来・・・れば・・・私っ・・・はぁ・・・達の・・・願いを・・・叶え・・・て・・・
もらう・・・ため・・・に・・・はぁ・・・一つ・・・警告して・・・おきます・・・はぁ・・・・・・
がっ・・・こう・・・以外・・・の・・・はぁ・・・場所は・・・行っても・・・無意味です・・・・・・
残り・・・六・・・人・・・の生・・・存者は・・・私・・・はぁ・・・達よりも・・・ほぼ確実に強い・・・・・・」
ここで一回言葉を切った。
「学校・・・以外に・・・生き・・・残る・・・可能・・・性は・・・零・・・と言っ・・・ても・・・過言・・・では・・・ありません・・・・・・」
最後の言葉が俺に対しての警告とは思わなかった。
「・・・わかった。
苦しみながらもう少し生きるか?楽に早めに死ぬか?」
「もう・・・少し・・・生きるよ・・・・・・
健司・・・君・・・大好き・・・だよ・・・・・・」
「その・・・続き・・・は・・・生き・・・返っ・・・たら・・・言い・・・ま・・・しょう」
二人同時に一瞬で砂へと変わった。
昼下がりの午前。
二人は最後まで、二人だった。