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三章

 三章


 次の日の目覚めは最悪だった。

 起きてそうそう、激臭が鼻を突く。

 いや、この激臭のせいで起きてしまったのかもしれない。

 匂いの元は案の定、昨日食べた物の中身だったものだった。

 適当に穴を掘って埋めてやるとすぐに消えたのが良かった。

「腹・・・減ったな」

 よくよく考えてみれば昨日はいろいろなことがありすぎて魚一匹しか食べていない。

 梓を・・・考えるだけよそう。

 それで食料を確保しているやつはいないはずだ。

 ・・・はずだ。

 とりあえず、昨日行った場所に行くしかないな。


 ・・・命中。

 しばらくは魚だけの生活が続きそうだが、まあ、いたしかたない。

 本当は塩と醤油が欲しいところだが、それもいたしかたない。

 流れてきたそれを掴もうとする。

 が、見事に指先をすり抜けていってしまう。

 今度は足を一歩前に出す。

 届かない。

 さらに足を一歩出すと、

 足が少し冷たくなった。

「うへっ!」

 奇声とともに前に出した足を陸地にあげようとすると左足が朝露で濡れた草で滑った。

 ああ。

 何考えてたんだろうな俺。

 近くから枝なり何なり拾ってきてえらと口に突っ込んで引き上げるか、

 もっと近くによってから捕ったらよかったのに。

 その後、

 俺の耳には夏休みにしか聞くことのない音が響いた。


「・・・・・・」

 ズボンまでしか濡れなかったからよかったものの、一枚だと下だけが異常に寒い。

 もちろん、貴重なガスコンロは食料を焼くためだけに使った。

 天日干し、というのがなんとも情けない。

 コインランドリー・・・それぐらいは大丈夫かな・・・・・・

 いや、それ以前にこの格好が問題か。

 この格好で襲われたら・・・どうしようか。

「よう。こんなところでどうしてる?」

 思わず振り向いた先には上総の姿があった。

「上総か」

「なんだよその殺気の無さは。

 せめてお前のやつを構えるぐらいしてみろよ」

 仕方なく構えてやる。

「せっかくズボンが干されてたから何事かと思ってやったのに。

 大丈夫だ。俺もそんな格好のやつ殺す気にもならないからな」

「そりゃ結構」

 上総が横に腰掛ける。

 見るとその手には神刀が無かった。

「お前、神刀は?」

「俺の神刀?これだ」

 そう言って手を俺の目の前に突きつける。

「何も無いじゃないか。それとも、目に見えないぐらい小さくなっているか、

 または見えないのか?」

「お前は考え方が一般的過ぎるんだよ。

 神刀は刀だけじゃないからな」

 もう一度上総の手を見る。

「その・・・手袋なのか?」

「正確に言えば『玉砕手』だな」

「なんでもかんでも玉砕ってわけか」

「そういうことだ。例えば・・・・・・」

 上総はガスコンロを上に放り投げた。

 口出しする暇も無く、ガスコンロが音をたてた。

「どうだ?」

「お前・・・何やってんだよ」

「何って、玉砕手のすごさを見せてやろうと――」

「馬鹿言え。

 俺はガスコンロをぶっ壊したことにキレてんだよ」

「ガスコンロ如きがどうかしたか」

 俺は上総にデコピンをくらわせた。

「何だよ」

「ガスコンロ・・・持ってこい」

「は?」

「持ってこい!粗大ゴミ置き場から」

 上総が破片を見て考え込む。

「そんなに重要な――」

「ものだ」

 俺は上総を蹴飛ばした。

「絶対拾って戻ってこい。

 でなければ俺はお前を生きかえさせない」

「わかったわかった」


「ほいよ」

 早速、ガスボンベを振ってみる。

 なかなかの手応えだった。

「・・・やるな」

「それじゃ、やるか」

「・・・二言三言ですることじゃないがな」

「それが『今』っていうもんだ」


「死場を求めて何とかはさまよう・・・か」

「どっちの死場になるかは決まったことだが」

「お前か」

「馬鹿言え」

 俺達は上総の提案により、電柱の上で向かい合っていた。

「まさか、バランス感覚まで良くなっているとはな」

「俺達は神に等しい存在なのかもな」

「あいつと同等に扱われたくはない」

「同感だ」

 風も吹いているというのに、俺の右足はしっかりと電柱の上についていた。

「お前・・・何人殺した?」

「一人・・・救った」

 上総はいかにも、あきれた、という仕草をした。

「お前はもうネジが外れやがったか」

「そうなのかもな」

 俺は雷刃裂を構えなおした。

 それに続いて上総も姿勢を変える。

「ところでこれ、見られないか?誰かに」

「見られたところで、サツに『電柱の上に人が立っていました』と言っても信じないだろうしな。

 第一、立っていたところで何も罪はない」

 珍しく、まともなことを言う。

「ところでお前、玉砕手の威力はどのくらいなんだ?

 剣だと想像しやすいだろうが、軍手はな・・・・・・」

「軍手じゃない。玉砕手だ。

 殺った後にそいつをかっ割いてみたら、上一郎より遥かに悲惨なことになっていた」

「破裂・・・か」

「破裂、なんていうちんけな言葉で済むもんじゃないぜあれは。

 殺ったやつの腹の中にいるやつまでかき混ぜられてて、

 ただでさえでかい腹が三つ子じゃないか、っていうぐらいに膨らんでたな」

 ・・・・・・

「・・・今までに殺したやつは何人だ」

「一人」

「戦闘経験、運動能力共に同じ。

 違うのは精神と脳と運・・・か」

 俺達の意思を示唆することなく、戦闘ははじめられた。

 二人ほぼ同時に電柱を蹴る。

 電柱が傾いでたてた不思議な音が耳に入ったころにはすでに上総が目の前にいた。

 二人の重さに耐え切れずに電線が音を出してしなる。

 上総は雷刃裂を掴んでいた。

 またもやほぼ二人同時にお互いの武器を退ける。

 上総の体が一気に電柱三本分遠ざかった。

 今度は上総が先手を取る。

 受け止めきれずに後ろに倒れる。

 電線に辛うじて左手でつかまるが、それが真逆の意味になってしまった。

 左手を玉砕手が掴む。

「残念だったな」

 脳に今まで感じたことの無い、止め処ない感覚が押し寄せる。

「あああぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

 足から地面につけたからまだよかったものの、俺の体はそんなところじゃなかった。

「痛い!痛い!!痛い!!!痛い!!!!痛い!!!!!」

 うずくまりながら必死に叫んだ。

 左手の間接からは白い物と赤い物が顔を出していた。

「いくら感覚と力が強くても、体は元のままだからな。

 どうだ?殺して欲しいだろ?痛くて痛くて仕方がないんだろ?」

「・・・まれよ・・・・・・」

「は?」

「黙れって言ってるのがわからないのかよ!!」

「おー怖」

 シリアスな展開に拍子抜けする声が浮いていた。

 後ろから少しずつ、にじり寄ってくる。

「人はたかだが指一本でも無くなると戦えなくなってしまう弱すぎる生き物だからな」

 わかっているのに・・・わかっているのに何もできない。

 痛い。

 それしか無かった。

「やれやれ。あっけないぜ。

 あっけなさすぎるぜ。

 せっかく死ぬんなら、せいぜい無様に命乞いぐらいしろよな」

「・・・お前、そんなに殺人欲が強いやつだったのかよ」

「死ぬ最後まで突っ込むか。

 俺達、漫才組んでもよかったかもな」

 上総が後ろを向いた。

「さてと、記念すべき二人目ということでどうやってこ・・・・・・」

 上総が背中を向けたまま俺の方を向いた。

 顔がゆがんでいた。

 ゆっくりと視線を下へと落とす。

 背中へと突き刺さる刃。

 雷刃裂に他ならなかった。

「どうやって・・・殺すんだ?俺を」

 一気に首元まで切り上げる。

 赤い雨と共に崩れ落ちるように様々な物体が中から出てくる。

「・・・き・・・・・・」

 最後の言葉はたった一文字だった。

 シャツが見る間に赤色に濡れていく。

「くっ・・・くっ・・・・・・」

 髪の色も染まっていく。

「くっ・・・くっ・・・くっ・・・・・・」

 俺という空間そのものが同じ色に染められていく。

「くはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 わからない。

「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 わからないが、

「あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

 ただただ、狂気に笑っていた。


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