陰キャラ 2
陰キャラくんは、メガネ男子だ。
縁の細いシンプルなメガネの下は、中性的な容姿をしている。
私より少し背が高く、陰キャラに不釣り合いな筋肉など見当たらない。
最近では私に対して、丁寧に頭を下げならがらお礼を言ってきてくれる。
もちろん私も、それ相応の返事をしている。
姿勢がよくて、とてもいい尻をしている彼は、まさに“陰キャラ受け”に間違いない。
背が高く、顔面偏差値がとても高い男性職員がいる。
とりあえず彼を“いけ男2”と名付けておくことにしよう。
いけ男2はあまり私と接点がない。
話す機会もなければ、すれ違うこともまれだ。
そんないけ男2とも、わずかではあるが仕事に関して接することが、少なからず発生した。
しかしどうしたことだろう。
彼の声を全く聞いたことがないのだ。
そう、一度も。
いけ男2の声はもう想像するしか、聞く手段はない。
当てはまりそうな男性声優の声を、勝手にアテレコして脳内で編集作業をするのだ。
しかし私は気が付いた。
聞いたことがないのではない。
聞けないのだ。
彼は私にだけ話しかけず、あえて避けているのだと。
私は陰キャラくんと仲良く仕事をしている。
同じオフィスにいるかぎり、その様子をいけ男2が見ていないわけがない。
陰キャラくんは、あまり他の男性職員と話をするタイプではない。
メガネの下に隠し持ったその顔は、心を許した相手にしか見せることはなく、見てしまえば異性であろうと同姓であろうと、落ちてしまうのは間違いないだろう。
そして同時に真面目で一途な性格は、心をひかれるものがあった。
それを偶然知ってしまったいけ男2。
陰キャラくんとは同僚だけあって、同じ部署内では唯一話をしやすい間柄だ。
しかし最近では、私と言う女職員が現れて、なかなか話し掛けることができなくなった。
そんないけ男2は、私のことを疎ましく思っていたに違いない。
彼は私がデスクから離れたのを見計らい、ここぞとばかりに陰キャラくんへ近づく。
そして陰キャラくんは、自分とは正反対のいけ男2の積極的なアプローチに心奪われる。
「モブ子と仲いいの?」
「え?モブ子さんはいろいろ分からないところを教えてくれるんだ」
「ふーん、そうなんだ」
モブ子はもちろん私だ。
この世界において、私はモブキャラにすぎない。
二人はだんだんと距離を縮めていき、ついに結ばれる。
(お幸せに。うちは、あんたらの幸せなBL生活を祈ってるで~~~!)
という妄想を、陰キャラくんを見掛けるたびにしている。
ちなみに先日いけ男2は、笑顔で私に会釈してくれた。