Ⅴ
「今日こそ契約してもらうからな。」
最悪だ。見送る時に、鍵を閉めなかったあの時の自分に怒りを感じる。というか、普通見送るのに鍵をかける人なんていないだろう。
この男は気配もなくどこから家に入ったのだろうか。
「おいおい、また考え事か?」
昨日フランはなんていってたっけ?
異能力者とか言ってたよね。
あと、契約とか、
なんか、戦いとか……
何回考えてもやっぱり、非現実的だし
信じられない。
「やっぱり、私はあなたの存在も信じられないし、昨日言っていたことの意味も分からない。」
「そうか。どの部分が信じられないんだ?」
「そうね、存在自体だけど異能力ってなんなの。」
「異能力のことか?そうか、見せてなかったな。」
ソファーに座っていたフランが立ち上がった。
「展開」
フランがそう発した瞬間、身体が動かなくなった。腕を動かそうにもピクリともしない。
「何をしたの!?」
「オレの能力は影を操るんだ。展開した空間の中の影に限るんだけどな。だから今、お前の影をオレが支配してるんだ。どうだ、身体の自由が効かないだろ?俺が右手を挙げると、お前の影の右手が挙がり、お前の右手も挙がる。」
確かに、私の意思に反して右手が挙がっている。
フランが手を下げると、勿論私の手も下がった。
自分の身を持って体験したのだから、異能力というのは信じるしかない。
なんで、そんなものがこの世にあるのかとか考え始めると頭が痛くなりそうだから、やめておく。
「今は契約していないから、展開できる空間がいつもの半分以下だったが、まぁ、こんな感じだ。ただオレの能力はあまり持続時間が長くない。」
「へぇー。」
「あっ、お前、興味無いな。その返事の感じは。」