王城にて 5
およそ1000年前、
もともとこの世界の魔力は、風・火・水・光の4つの属性だけだったのだが、ある時1人の少女が闇属性の魔力を持ってこの世に生を受け、その魔力を核に数多の魔族、魔獣を生み出した。
魔族や魔獣は、人間のみならずエルフや獣人、有翼人など、もともとこの世界にいた全ての生ある者を襲い、大地を血で染めていった。
そして、世界のほとんどが闇に飲まれたが、突如戦場に現れた1人の男が絶大な魔力で次々と魔族、魔獣を倒して、遂には元凶の少女を大陸から追い出すことに成功した。
その功績が称えられて、男は国王から『賢者』の称号を授けられたが、男は数日しないうちに消えてしまう。
小さな宝石の埋め込まれた指輪を残して・・・・・
という話をエリアーデがしてくれた。
「・・・・・なるほど。 で、俺の付けてるこの指輪がその男が残していった指輪で、それを身に着けている俺が次の『賢者』っていう事か」
「・・・・・まぁ、そういう事になるわね」
アリアが心底嫌そうに答える。
「・・・・・俺、強いの?」
「たぶんね~~」
エリアーデが、能天気に答える。
キターーーーーーーーーーーー!!
これは『俺TUEEEE!!』主人公確定だ!!
はよ、魔法覚えて異世界無双してぇ!!
待っていろ魔族や魔獣ども!!
皆まとめて俺様の経験値にシテヤル!!
まぁ、もう既に俺様は最強だからぁ~~~~~~~、お前らの経験値なんて必要ないがなっ!!
ガハハハハハハハハッ!!
「そういえば、ユウキさんをアリアの家で養子にする話はどうなったの?」
「グフフフフッ・・・・・・・あっ、そういや、その話はまだ途中だったな」
賢者についての話に夢中になっててすっかり忘れていたが、こっちの話も今後の異世界生活に大きく関わってくる。
まぁ、最初のうちはアリアの家の馬小屋に住まわせてもらって、鳴りを潜めるのも悪くはない。
魔法を覚えてアリアよりも強くなったら、自分が『賢者』であることを利用して、もっと待遇の良い貴族の養子にして貰おう。
あ、養子になる条件としてカワユスなメイドは譲れない。最低2人は用意してほしい。(レ〇とラ〇みたいなメイドならよりGOOD!!)
・・・・・・・・・・・・・・いや待てよ
いっそのこと、この国を乗っ取ってやるのも悪くない・・・・・・。
異世界主人公というものは、優しくて可愛いヒロインを守るついでに世界を救う・・・・・(異世界ファンタジーの第三法則)
つまりは優しくて可愛いヒロインがいない世界なんて、そんなのわざわざ救ってやる必要もない!!
見ろ!! アリアを!!
確かに見た目は良い、大変良い!!
その長くて艶やかな銀髪に鼻を擦りつけて、フンフンしたい・・・・・なんて思っていた頃もあった!!
・・・・・いや、今でもしたい。
その白く輝く美しい肌をヴゥエ~ロヴェロ舐めまわしたい・・・・・なんて思っていた頃もあった!!
(省略)
その青く透き通った瞳を『ゼロ距離』で観察したい・・・・・なんて思っていた頃もあった!!
(省略)
声高らかに叫んでやるよ!! 『お前の美しさはメインヒロイン級だ!! 誇っていい!!』とな!!
まぁ美しさだけだけどな!!
性格がまるでなっちゃいねぇ!! ヒロイン舐めてんのか!!
まず、主人公を殺そうとすな!! 物語が終わる!!
次に、少しくらいデレろ!! 三次元の妹じゃあるまいし、頬が赤く染まった笑顔の一つや二つポンポン出さんか!!
あとは~~~・・・・・・・・いやもう特にないけど、とりあえずアニメのDVD、おれが持っているやつ全部貸してやるからヒロインが何たるものかちゃんと予習してこい!!
はぁ・・・・・はぁ・・・・・結局、何が言いたいかと言うと・・・・・
俺の物語のタイトルは、
『世界を守る『賢者』になるよう言われたけど、こんな世界イヤだから『魔王』になってこの世界の全てを我が物とし、気の赴くままにハーレム人生を送ってやる (R18)』
に決定だ!!
「・・・・・やっぱり、養子云々の話は全て白紙よ。 今すぐにでも殺して指輪を回収した方がいいわ」
「私も賛成ぃ~~~~~~~」
アリアとエリアーデの周りに青白い光の玉が無数に現れた次の瞬間、大量の水がどこからともなく光の玉を核にして集まりだし、光が形を変えるのに合わせて水も形を変え、無数の槍になった。
自分の世界に埋没していたユウキも、アリアとエリアーデの殺気+目の前の幻想的?な光景によって無理やり現実に連れ戻される。
「イヒヒヒヒヒヒヒヒッ・・・・・、って二人とも何やってんの!?」
「「魔法を放つ準備をしてるの」」
「ちょ、ちょまっ、ちょっと待ってほしい!! アリア殿、エリアーデ殿、いや様!!」
クッ!! 俺の考えてることがバレたのか!?
何故だ!? 確かに自分でも驚くほど気持ち悪い笑い声を出していたが、それだけで何を考えていたかバレるはずがない!!
なんだ!! 気持ち悪い笑い声をしていただけで人を殺そうとするのか? この悪魔め!!
「自分はただ、『これから『賢者』として世界を守っていくんだ!! 腕がなるぞぉ~~!!』って思っていただけです!! 邪悪な考えなんて何一つな―――――」
「あなた、『グヘヘ・・・・・今に見ていろアリア、俺が魔法を覚えてお前よりも強くなった時が、お前の最後だ、ついでに世界もな・・・・・フヒヒッ』って言っていたわよ」
「ファッ!?」
アリアの口から衝撃の事実が明かされた。
どうやらユウキは、気づかないうちに壮大な失態を犯していたらしい。
「・・・・・ぼ、僕そんなこと言ってないお」
「言ってたわよ」
「言ってたわねぇ」
アリアだけでなく、エリアーデも肯定する。
ふぅ・・・・・まったく、俺としたことがついついドジを踏んじまったぜ。しょうがねぇ。アレ、行っとくか。
「・・・・・・・・すみませんでしたぁ!!」
ズサーーーーーーッ!!
――――やっぱり、悪いことをした時には土下座が一番だと思うの。
「「・・・・・何やってるの(ぉ)?」」
「え? ・・・・・何って土下座ですけど?」
ユウキが放った最終奥義:土下座
自分を守るすべを持っていないユウキができる最高の護身術。
しかしながら、この世界に土下座という文化は存在しない。
アリアやエリアーデからすると、「何やってんだコイツは・・・・・?」といった感じで、二人にはユウキのこの行動の意味がまったく通じていないのだ。
「土下座というものは、俺の故郷で感謝や深い謝罪をするときに使われる礼式の一つでして――――」
「別に聞いてないわよ」
「ですよねぇぇぇ!! すみませぇぇぇぇん!!」
ユウキはさらに深く土下座をする。
アリアとエリアーデはさらに鋭い視線を向けた。
しかし、それとは対照的に水でできた槍は形を変えて鋭さを失った、そして殺気も次第に弱くなっていく。
そして、ため息をついた。
「・・・・・はぁ、なんだか殺す気が失せたわ」
「・・・・・そうねぇ」
・・・・・お? またまたセーフか?
いや~~~~~~、やっぱり土下座は素晴らしいなっ!!
もう、どんな世界でも通用する最強の防御魔法と言っても過言じゃない。
「エリアーデ、アレを貰える?」
「アレってぇ?」
「首輪」
「あ~~~~~~、おうけぃ、ちょっと待っててねぇ」
ん? 首輪って何?
なんか嫌な予感するんだけど・・・・・
エリアーデは、タンスから茶色い革製の小さな首輪を持ってきて、アリアに渡した。
アリアは首輪を受け取った瞬間少しだけ口角を上げたが、すぐにまたいつものムスッとした表情に戻った。
・・・・・イヤな予感しかしない。
「ユウキ」
「は、はい!?」
初めてアリアに名前を呼ばれた。
・・・・・なぜだか、全然うれしいと感じない。
「これ・・・・・つけて」
「・・・・・『だが断る』と言ったら?」
「つけろ」
「 yes sir !!」
ユウキはものすごい速さで首輪を身に着けた。
怖い!! なんでそんなに低い声が出せるの!?
「つけたわね・・・・・次は、これから私が言う言葉を復唱して」
「了解です!!」
「私、小松ユウキは賢者として人々を救い」
「(復唱)」
「そしてまた、アリア様の奴隷として日々アリア様のために身を粉にして働くことを誓います」
「それ必要なく――――」
「なんか言った」
「(復唱)」
どうせアレだろ?
約束を破ったら、首輪が縮まって窒息死するっていう魔道具だろ?
チクショウ!! なんでこんなことになってしまったんだ!!
「よし、オッケーだわ。あ、言っとくけどいま復唱した約束を破ったら、首輪が縮んで死ぬ寸前の苦しい状態を12時間味わった後、また徐々に縮まって最終的には・・・・・ってなるから気を付けてね」
「想像してたよりもタチの悪い首輪だった!?」
「じゃあ、もう暗くなってきたから帰るわ、じゃあねエリアーデ。 ほら、あんたも一緒に来なさい」
「・・・・・はい」
外はいつの間にか夕日で赤く染まっていた。
普段だったら「きれいだな」と思わず言ってしまうような異世界の夕日も、今は「血の色や」としか思わない、思えない。
「じゃあねぇ~~~~~アリアァ~~~~~~、とユウキくんW」
「今笑ったよね!? チクショウ!!」
「うるさい」
「・・・・・すみませんでした」
こうして、ユウキの輝かしい異世界生活が幕を開ける!!
「いや、そういうのマジいらないんで早く元の世界に返してください」