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王城にて 4

「へぇ、この頭のおかしい子がねぇ・・・・・」


「とりあえず、王子派閥や他国より先に見つけることは出来たけれど、人間性が終わっているし、賢者のはずなのに魔法をまったく使えないようだし、正直扱いに困るわね・・・・・」


ユウキはもう、彼女たちの中傷に反応しないよう心に誓った、というか疲れた。

確かに「異世界が好き」とは言ったが、いきなり知らないおじいさんに異世界送りにされ、優しさが一瞬たりとも垣間見えないヒロインを与えられたり、疾走する馬車たちに轢かれそうになったり、臣民を愛し、淑女のお手本とならなければならない王女様が、すぐに処刑したがる悪役令嬢ならぬ悪役王女だったり・・・・・、もうヤダ、とりあえず異世界の雰囲気は体感できたから、帰って小説の続きを書きたい。


「ヤッちゃうぅ?」


「色々と困ることもあるけど、他国に懐柔されたり殺されて指輪を奪われるよりはいっそのこと・・・・・」


「ヤッちゃうぅぅぅぅぅぅぅ?」


「そろそろ俺を殺そうとするの止めて貰えます!?」


ムリでした!! このままだとバッドエンドに突入してしまう!!

エリアーデ王女はともかく、アリアの方は真剣にユウキの生殺与奪を決定しようとしている。


「冗談よ、冗談。ウフフッ、久しぶりに楽しい会話ができてうれしいわ~~」


王女様はとても上機嫌だ。まるで飼い主に遊んで貰っている犬のしっぽのように、体を左右に揺らしながら輝く太陽のような笑顔で喜んでいる。

王城の堅苦しい生活は、人間の性格や感性といったものを破壊するのだろうか?


「あ、そう言えばあなたの名前聞きそびれたままだったわね。教えてもらえるかしら?」


喜んでいたエリアーデ王女は、急に思いついたようにユウキに質問をした。


「えーと、小松ユウキ・・・・・いや、どちらかというとユウキ小松なのかな? じゃあ、ユウキ小松でよろしくお願いします」


異世界とはいえ、町並みはヨーロッパの中世風だから苗字と名前の順番を変えた方がいいのだろう。

まぁ、クッソどうでもいいのだけれど。


「ふぅん、変わった名前ね。コマツなんて家名聞いたことないわ、どこから来たの?」


(おいおい、異世界召喚された主人公にどこから来たのか質問するのはNGってそれ――)


「えーと、説明するのはむずか――」


「この男はナイール山脈の麓に住んでる少数民族の族長の息子よ、頭がおかしいっていう理由で勘当されて王都に出稼ぎに来たの」


横からアリアが良く分からない設定をぶち込んでくる。


「さっきも思ったけど、勝手に俺の出で立ちをねつ造しないでもらえる!?」


「王都のことや指輪のこともまったく知らないようだし、これからのことを考えたらこのくらいの設定で生きていった方がいいと思うわ。品性も教養もないし、どうせロクな家系じゃないんでしょ?」


「え?」


色々と腑に落ちない点はあったが、ユウキはアリアのこの発言が少しうれしかった。

出会ってから今までずっと、ユウキに対してネガティブな発言と行動しかしてこなかったアリアの口から初めて、「生きていく」というポジティブな単語が出てきた。

なんか、この世界で生きていく決心が固まる気がした。


「で、でもどうせなら『勘当されて王都に出稼ぎ』ってよりも、さっき門番に説明してたように、『魔法学校の同級生』って設定にして貰えるとうれしいんだけどなぁ」


「あなた、『同級生』って年でもないでしょ。私とエリアーデは14歳だけれど、見た感じあなた20歳後半じゃない」


(スマン、俺はまだ18歳だ)


「それに魔法学校はそれなりの身分がないと入学できないのよ。たまに魔法の才をもった平民が、貴族の養子になって入学する場合があるけど―――」


「じゃあぁ、アリアの家で養子にすればいいんじゃないぃ?」


アリアの話が終わらないうちに、エリアーデが微妙な提案を挟んできた。

ユウキ的には、魔法学校に入学して魔法を習いつつ優しくて可愛いメインヒロイン探しに没頭したい。

しかも、自分は『賢者』らしいので、きっと『俺TUEEEE!!』主人公として学校でめっちゃ活躍できる!!・・・・・気がする。

だが、アリアの家で養子はダメだ!! アリアのことだから些細なことで怒って、食事に毒盛ったり、寝込みを襲ってくるに違いない、死亡ルート確定だ。


「養子にしてやってもいいけど、屋敷の中には絶対入れないわよ。馬小屋なら貸してあげるわ。動物同士、仲良くやっていけるでしょ」


「アリアさんはなんで俺を毛嫌いするの!? 他の貴族の養子でお願いします!!」


「屋敷に入れたら絶対、下着とか盗むに決まっているわ。 あと、気安く私の名前を口にしないで」


「(変態)紳士な俺はそんなことしねえよ!!」


『この〇ば』のクズマさんみたく冒険者だったなら、馬小屋生活も最初のうちは悪くないと思うが、ユウキがなろうとしているのは貴族が通う魔法学校の生徒だ。

貴族のお坊ちゃま達に、「どこに住んでるの~?」と聞かれて「馬小屋~W」と答えたくはない。


「アリアのためにもそうしてあげたいけれど、王位継承争い中の私としてはアリアの家、ヘイブン家以外の貴族にみすみす『賢者』を奪われるのは困るのよね」


なるほど、さっきアリアが『王子派閥』とか言っていたが、現在エリアーデは一王女として王位継承争いの渦中にいる。

そして、何人候補者がいるかは分からないが、『賢者』を味方につけることは候補者として有利に立てる。だから、ユウキには友達であるアリアの家、ヘイブン家の養子になって欲しい―――といった所だろう。


というか―――――


「さっきから気になってたんですけど、『賢者』ってなに?」


「・・・・・この人、本当に何も知らないようだけれどぉ、説明とかしてあげなかったのぉ?」


エリアーデとユウキの視線が、責めるように銀髪の少女に集中する。

この世界に来て、アリアに教えて貰ったことと言えば、『エリアーデはかくれんぼが好き』という事だけだ――。


「何よその目は、なんか文句でもあるの?」


「・・・・・あるっていうか、ありすぎるっていうか」


「なんか言った?」


「ヒッ!!」


蛇のような鋭い目をユウキに向け、魔法を使うそぶりを見せる。


(チクショウ!! 俺がまだ魔法を使えないからって、これ見よがしに!!)


「まぁまぁ、そう怒らずにぃ。 ちょっと待っててね」


エリアーデはそう言うと、ベッドの隣にあった本棚から一冊の本を持ってきてユウキに見せた。

古びた赤い本で、表紙には本の題名みたいなのが書いてあるが、例のごとくまったく読めない。一応、本を開いてみたが、やっぱり読めない。


(話は通じるけど、使われている文字は違う・・・・・なるほど、異世界や)


「これは?」


「私が子供の頃読んでいた歴史の本よ。 かなりボロボロだけど、賢者について書かれているからユウキさんにあげる、大切にしてね」


エリアーデは少し頬を赤らめている。なんだかんだ言って、やさしい一面もあるようだ。

しかし、ユウキはこの世界の文字が読めない。せっかくプレゼントしてくれたのだから黙って受け取ろう、とも思ったが後で読んだか聞かれた時に、実は字が読めなくてまだ読んでません、なんて言えない。


「―――王女様から直々に本を貰えるなんてすごくうれしいんですけど・・・・・」


「けど?」


「字がまったく読めません・・・・・」


「・・・・・どうしよう、アリアァ? ユウキさんが無学なせいで、私の善意が無に帰しちゃったぁ」


「死刑ね」


「スミマセェェェン!!」


「もう、しょうがないから私が教えてあげる」







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