王城にて 1
「俺が助けてやったんだ。感謝しな」
「あ、ありがとうございました・・・・・」
「・・・ったく、凡人だったら遠回りしてでも歩道橋渡れよな」
翼の生えたこの少年が、風を操って助けてくれたようだ。
正直、年下に助けられたのは腑に落ちないが、それでも感謝の言葉は言わないといけない。
あと、言葉遣いも腑に落ちない。
「って、え? 歩道橋?」
「あ? ほら、あそこにあるじゃん」
少年が指さした方を見ると、200メートルくらい向こう側に石でできた歩道橋が馬車の通りの上にかかっていた。大勢の人々が橋を利用している。
「いや、歩道橋あるんくぁーーーーーーい!!」
少女があまりにも流暢に馬車の群れを搔い潜っていたので、てっきり異世界ではそうするもんだと勘違いしてしまった。そうだよな、普通はそんなことしないよな。なんなんだ、あの少女は。
「なんだ、王都は初めてなのか? ・・・・・って、やべぇ!! こんなことしてる場合じゃねぇ!!」
「ど、どうした!?」
「『ケーキ屋:シフォンヌ』で数量限定で販売される『超激うまンブラン』が無くなっちまう!! じゃあな兄ちゃん、命は大切にしろよ~」
そう言って少年は羽ばたいて、すごい速さでどっかに、いや『ケーキ屋:シフォンヌ』に行ってしまった。
なんで店の名前が『シフォンヌ』なのに限定商品がモンブランなんだよ!!
・・・・・『超おいしフォンケーキ』とか作ればいいのに。
まぁ、いろいろあったけどなんとか渡り切った。
次は、・・・・・・・少女の待っている門だけど、その向こう側ってたぶん王城なんだよなぁ。
門の向こう側にある大きな白い城を囲むように城壁が連なり、その上に複数の衛兵が配置されているのが見える。ここからだとあまり良く分からないが、白いコートを着た騎士風の衛兵と、黒いコートを着て杖を持った魔術師風の衛兵?がいた。
城壁の中は丘のようになっていて中心に主塔が高くそびえたち、その周りに複数の側塔や館が建てられている。塔の屋根には旗が立っているがあいにく今日は晴天で、風もないので旗もしなびている。
「まだ異世界に来て1時間ぐらいしか経っていないんだけどなぁ・・・・・。しょっぱなから王城ってやっぱりダメだと思うんだよなぁ・・・・・。まずは冒険者組合とかギルドとかそういう場所で名を馳せて、そのあとに『王様から直々に~』みたいな感じで王城に呼ばれたかったなぁ・・・・・。」
「なにブツブツ言ってるのよ。遅いのよ。轢かれるなら轢かれるで早く轢かれなさいよ。」
「バッチシ生還してますけど!! 遅いってそういうこと!?」
「フンッ・・・・・」
少女の表情は、冷笑から不快感が若干見え隠れしている疎ましそうな表情に、今までの表情に戻っていた。
理由は分からないが、少女はユウキを王城に連れてこなければならない事情があり、とりあえずユウキをここまで連れてきた。しかし、これまた理由は分からないが、少女はユウキのことをよく思っていなく、死んでほしいと思っているらしい。
たぶん馬車の一件もユウキに危険が及ぶようにわざと歩道橋を使わなかったのだろう。
きれいな女の子だったから、『なるほど、この子がメインヒロインか・・・・・あっ(冊子)』とか思っていたけれど、どうやら違ったようだ。
主人公が死ぬことを願っているメインヒロインがいてたまるか!!
もう逆に『ハハハハハッ!! 実は私が魔王だったのだ!!』とか言われても、『あ、やっぱりそうだったんですか』と言い返せる気がする。
あまりこの少女には近づかないようにしよっと・・・・・。
「アリア様、この奇怪な男を王女様に謁見させるのですか?」
「素性の分からない者を王城にいれることなど出来ません。ましてや王女様に会わせることなど・・・・・。」
筋肉質な2人の門番が不信感を持った目でユウキを見つめる。城壁の上の衛兵とは異なりチェインメイルのような鎧を身に着けて、なんの装飾もない素朴なハルバートを持っている。華やかさは欠片もないが、だからこそ際立つ威圧感がある。
(アリアって名前なんだな・・・・・、王女に会うの!?)
「今日はエリアーデと一緒に勉強する約束をしていたの。この男はナイール山脈の麓に住んでる少数民族の族長の息子で、魔法学校の同級生よ。変な民族っていう理由もあるけれど、もともと頭もおかしいから見た目も言動も逝っているけれど気にしないで。」
「なるほど、そういうことですか」
「サクッと悪口いうのやめてね!?」
門番は門の向こう側に入ることを許可してくれました。
(こんな簡単に入城できていいの!? ガバガバすぎね!?)
門をくぐり、城を囲むように張り巡らされた水路(水は意外にも透き通っていた)に架かる跳ね橋を渡り、宮殿の中に入った。
宮殿の廊下は、高校の世界史の教科書で見た『鏡の回廊』とまではいかないものの、金や銀、様々な色で飾りつけられたり、見事な彫刻が彫られていた。
蠟燭もないのに、左右の壁に取り付けられたガラスのような装飾品や天井に吊り下げられたシャンデリアが光り輝いていたのには異世界を感じた。なにか特殊な鉱石でも使っているのだろう。
「この部屋よ」
アリアはひと際豪華な扉の前で立ち止まった。他の扉と同様木材でできてはいるが、大きさと彫刻が違う。
この先にエリアーデ王女がいるのだろう。
「入るわよ」
アリアが扉を開けた。
しかし、部屋の中には誰もいなかった。




