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葵と木瓜  作者: 響 恭也
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喜六郎の嫁取り話

 さて、本多平八郎家のごたごたが終わったかと思えば次の難題がやってきた。彼の庶子である娘を俺の側室にしようと言い出したのである。

「この子の将来のためにも!」

「ふむ、良縁であると言いたいわけだな?」

 平八郎が必死に言い募る。普段は涼しい顔で戦場を駆け抜ける豪傑が冷や汗をかいているようだ。

「無論です! 殿のおそばに仕えるものが他国からの姫だけでは!」

「ほう、当家と織田家の誼に何か含むところがあると?」

「そうは申しませぬが……」

「まあ、そう考える者もいるということだな?」

 あまり追い詰めてもあれだしな、とりあえず助け舟を出すことにした。

「左様にございます。けっして妻にこの子の将来を考えて最高の婿を探すように言われたからではありませぬ!」

「うん、本音駄々漏れだからな? まあ、最高の婿と考えて真っ先に俺を思いつくあたりお前も相当だな……」

「いやあ、拙者が思いつく最高の武士は殿にございますからな!」

「お前の最高の武士とやらを聞いてみたい気がするが、さっきからずっと睨まれているんだがな?」

「これ、彩! 殿にご挨拶せぬか!」

「彩殿と申されるか。松平蔵人長康だ」

 一応名乗る。この娘を側室にするかどうかも含め一度考えないといけないと思いつつ様子を見ると……俺が睨まれていたのではなく、俺の姿に焦点が合っていない? どこを見ているのかと思ったら俺の背後に控える喜六郎だった。

「父上、私嫁ぐならあの方がいいです」

 ズビシッと喜六郎を指さして宣言した。

「はいいいい!?」

 喜六郎がひっくり返った声を上げる。そして目が合うと彩殿はぽっと頬を赤らめた。無骨ものの平八郎に似ずほっそりとした娘だ。俺の好みはきょぬーだしな。お市は土田御前に似るのであれば将来はさぞや……ゲフンゲフン。

「ふむ、これもこれで良縁かもしれぬ。当家と織田の誼はより深くなろう」

「いや、ですが娘を尾張に嫁がせるのは……」

「喜六は当家の家臣だぞ? 形式上は、だが」

「弾正忠こと父上から蔵人殿がやらかさないように見張れと言われてます」

「そうそう……っておい!?」

「それはさておき、この話は父上にも報告が必要ですね」

「おい、お前実はすっごく乗り気じゃないのか?」

「いやだって、すごい美少女じゃないですか……」

 などと言うやり取りをひそひそとしていたはずだが、当人には聞こえていたようで、再び頬を赤らめる。まあ、確かに可愛い。

 そしてなぜか地団太を踏む平八郎。

「認めぬ、認めんぞおおおおお!」

「父上、きらい!」

 その一言でずるべしゃあっと崩れ落ちる松平一の勇将(笑)。

「あ、彩ああああああああ!!」

「わたくしのお婿さんは最高の者を見つけるって昨日言ってくれましたよね?」

「だからそなたは殿に嫁ぐのだ!」

「喜六郎さまの方がイケメンです!」

 おい待て、この子今なんつった?

「殿、まさかですが……」

「そのまさか、だな。喜六郎、お前これで断るって選択肢は無くなったぞ」

「我々のお仲間、ですな」

「うむ、えらいことになった」

 などとひそひそ話していると再び彼女が割り込んできた。

「お仲間って、どういうことですかあ?」

「そうだな、喜六郎はイケメンか」

「ですよ、織田家の人って美形ぞろいって聞いてましたけど、こんなのモノにするしかありませんよね!」

「で、どっちが受けだ?」

「それはもちろん喜六郎さまのヘタレ責めなんかどうでしょう……ってえ?」

「おい、俺にそういう趣味はないからな?」

「えー、戦国武将の嗜みでしょ!?」

「やかましい、いやなもんは嫌なのだ!」

 話の流れについて行けない平八郎はぽかんとこっちを見ている。そして喜六郎は尻に手を当てながら後ずさっていた。

「おい待てこら!」

「いや、掘られるのも掘るのもちょっと……よく考えたらそういう文化の時代だったんですよね」

「まあな、利家なんかは吉殿にって……。おい、いやなもん想像しちまったじゃねえか」

「そうそう、前田家家譜で自慢げに書いてあったんですよね。自分が一番長い期間掘られたって!」

 そこまで直接的には書いてなかったはずだが……? まあ、意訳したらそうなるのか。

 とりあえずこの彩を外に出すわけには行かなくなった。とりあえず喜六郎の嫁、しかないなあ。吉殿経由で信秀様に話を通すか。

 ただまあ、現代知識がある人間が増えたことはある意味心強いかも知れん。ただやたら知識が偏ってそうだがな。さてどうしたものか……。

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