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葵と木瓜  作者: 響 恭也
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求賢令と母衣衆

 吉田城に兵力を貼り付けておくことで東三河の情勢がある程度落ち着いた。忠次がにらみを利かせているし、ひとまず岡崎に戻る。

 今川は結局国境を越えて三河に侵入してこなかった。力を温存したのかもしれないがこちらとしてはありがたい。しかし時間は必ずしもこちらの味方とは言えない。尾張と三河を合わせてようやく互角、今川の底力は侮れない。

 そして武田と北条との同盟もあって、全力をこちらに注力できるわけである。総力戦となった場合、尾張からの援軍も呼ばねばなるまい。

 織田弾正忠家は北伊勢に侵攻を始めていた。といってもいきなり兵を送り込んだわけではなく、伊勢に伝手がある滝川殿を先鋒として徐々に蚕食を始めたというところである。

 理想は大湊の制圧であろうか。可能であれば伊勢神宮の保護を行えれば万全である。伊勢湾交易の利は伊勢神宮を起点とした座によって支配されているからだ。

 式年遷宮の費用を出すなど、織田家は伊勢神宮に接近している。熊野水軍とも接近しており、佐治水軍の伝手を利用している。また同盟を結んだ美濃とは大垣を中心に交易路を確保した。大垣から不破関を抜ければ近江である。東国から入ってきた荷が熱田や津島を経由して機内に流れる。こうなれば、その経路には銭が落ち、経済発展してゆく。

 今川を通り越して北条と交易の協定だけでも結べればいいのだが、すでに強固な同盟を結んでいることもあって難しいか。


 というのが現状である。さて、ここで子飼いの部下を増やすため、母衣衆の設立を宣言した。俺直属として、戦場において伝令の役割を果たす。これには高い能力を必要とする……ということにした。

 伝令が阿呆で命令を正しく伝えきれず、敗戦した戦いなどいくらでも出てきそうなので、命令を確実に伝えられること、乱戦の中を駆け抜けられる武勇、ほか、現地で臨機応変に対応できる機転などである。

 そのためには軍学を修めないといけないし、部下を掌握できる器量も必要になってくる。

 要するに士官候補生である。黄母衣衆と青母衣衆を編成することとし、各々定員は50名とした。出自は問わず、才があれば登用すると告知したところ……えらいことになった。


「殿、魏武の唯才を倣ったのでしょうが、尾張からも続々と来てますよ?」

「おかしいな。家中の者か、新たに降った国人辺りからくればいいかと思ったんだが」

「出自問わず、能力があれば召し抱えると宣言しちゃいましたからね。私の部下にも農民出身の兄弟がいるじゃないですか」

「マテ弥八郎、貴様まさか……」

「ええ、もちろんそのことを事例として告知したに決まってるじゃないですか。はっはっは」

「そうか、気が利くな。わはははははは」

 二人して現実逃避のために笑ってみるが、それで応募者が減るわけもなく、武芸は平八郎と正重に試験を頼んだ。彼ら相手にある程度戦えれば母衣衆は無理でも兵として召し抱えてもいい。

 弥八郎には学問は兵法の試験官を丸投げした。というかだ、100の席に3000も来るとかどういうことか?

 まあ、使えそうなのは片っ端から雇おう。尾張に送ってもいいしな。おっと、面接時点で、尾張織田家に仕える可能性があると伝えてもらおうか。

 

 とまれ阿鼻叫喚の一月が終了した。端にも棒にもかからんのはとりあえず尾張との国境地帯の農地に送り込んだ。綿花栽培をしているあたりだ。

 ほか、大きな網を作って数隻の船で引っ張る、いわゆる地引網漁によって大量の魚肥を確保する。これによって作物の生育を改善させることができた。

 様々に起こした事業に大量に投入できたのはある意味収穫になった気がする。あとは武人の募集であったが、食い詰めてダメもとでやってきた連中も多かった。そういう者には農地や漁労で仕事を振ることができたのはこれも結果オーライか。

 兵も即戦力を増やすことができた。母衣衆以外の枠で雇った兵は岡崎に常駐させ常備兵としての訓練をさせる。適正に合わせて兵科を割り振り、複数の兵種をこなせるものには給料アップや士官候補生のへの道を開いておいた。

 能力があれば出世できる。譜代の家臣もうかうかとはできず、新参は働きを認めてもらおうと励む。これがうまく回れば当家は発展してゆくだろう。

 

 とかやってたら、同じようなことを弾正忠家でもやり始めた。まあ、別に俺の特許ってわけじゃないからいいんだけど。

 集まった人間からうわさを拾い上げ、織田の情報をもってまた離散する、これを利用して情報を統制して見せたのが吉殿だ。そう考えるとあの人って天才なんだよね。


 うん、人件費で財政がまずいと小竹君が涙目で帳簿を持ってきた。弥八郎の差し金か。しかし、ここで無理をしておいて後で回収する、すなわち投資である、

 この投資がリターンになるころ、うちはもっと発展しているのだろうか。

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