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葵と木瓜  作者: 響 恭也
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蕭何と張良

 奥平、菅沼の連合軍は800余。隠れる気もなくまっすぐに突き進んでくる。というか物見くらい放てよお前ら。

 吉田城の兵は500ほど。こちらの兵力は2500で1500を迎撃に出している。むろん城方に見えるように兵を移動させた。さて引っかかるものやら……?

 背後で戦闘が始まった。おそらく小競り合い程度であろう。というか、こちらから突っかけた形だ。そして適当なところで下がる。押し込まれたように。

 あとは伏兵で包囲して詰みだ。陳腐だが効果的だから多用されるということだな。それも物見を放って地形を把握するなりしておけば伏兵が居そうなところなど事前に確認できるだろうに。

 さて、後方の兵を更に慌てたように走りださせる。後方から大軍が迫っていて迎撃する兵を慌てて出したようにだ。城方はこの誘いに乗るかどうか……うん、引っ掛かりやがった。

 

「城方、撃って出てきました!」

「正重、行け!」

「ははっ!」

 正重が手勢を率いて迎撃に向かう。もともと本多の兵を城門側に配置していたので、指揮系統はすぐに整う。

「槍立てよ! ……叩け!」

 立てた槍が真正面に向けて振り下ろされる。織田から仕入れた三間半槍は、敵兵の接近を許さず叩き伏せる。更に両翼に展開した弩兵が矢を放つ。

 弓隊であれば展開後に矢を引いて撃つという動作が必要になるが、弩兵であれば、あらかじめ弦を引いた状態にして置き、矢を置いて撃つので、素早い射撃が可能だ。ただし連射が利かない。

 よって弩兵のすぐ背後に弓兵を置き、入れ替わりで放たせる。弓兵の放つ矢は敵の後方に文字通り山なりで撃たせる。こうすることで動きを阻害できる。


「ふん、相当に焦っておったようだな」

「援軍が来ることをあらかじめ城方に知らせておいておびき寄せるとか危ない橋を渡りますな」

「一歩間違えば挟撃されて崩壊するか?」

「左様」

「後詰め戦で敵の野戦兵力をおびき出して叩くのは古典的な手であろうが?」

「奇襲の危険は?」

「保長率いる伊賀衆が目を光らせるところにか?」

「ええ、わかりますが……それ以上に諜報範囲が広すぎやしませんかねえ?」

 弥八郎の目がマジだ。仕方ないな……。

「尾張にいたころから河原者を手懐けておる。あ奴らの情報伝達速度は異常だからな」

「なんと……」

「彼らは安住の地を求める。故にそれを提供することで利害が一致する。尾張で商売の奨励と開墾を行ったのはそのため」

「先ず銭を稼ぎ、それで開墾をする。流民を引き込んで民とする。言うはたやすいですが……」

「弾正忠様の器量だ。虎とか呼ばれておるが本質は経世済民の手腕に優れたる方だ。戦もその一手にすぎぬ」

「では上総介殿は?」

「あまりに優れたる器量によって、考え方が人より数段先に飛ぶんだよ。常人が1,2,3と考えを組み立てるのに、あの方は1の次が一気に5にも10にも飛ぶ。それゆえに突飛な考えといわれうつけと呼ばれたのじゃ」

「そして殿と出会ってその考えを翻訳できたがゆえのあの飛躍にござるか」

「弥八郎よ、お前わかってて聞いただろう?」

「はて、何のことですやら。唯の童ならお仕えすることもありませんでしたが、今は一命をかけて奉公する所存」

「ふむ、なればそなたに命じることがある」

「……なんなりと」

「兵站の概念を学んでもらおう。あとは保長と組んで諜報もだ」

「畏まりました」

「これは武功とは全く縁の無い任になるが……よいのか?」

「殿が命じるのであればそれは必要なことでありましょう?」

「槍働きは戦場の、そして武士の華じゃ。それを望まぬと?」

「先に殿はおっしゃられた。槍働きができる武者は世にあふれておるが智をもって働くことができるものは居らぬと。そういうことでございましょう?」

「お前は我が子房よ」

「はは、そのような偉人に称されるとは何とももったいない。かの仁は間者を操り、敵の策を事前に看破したと聞きますな」

「うむ、そして俺は更に貪欲でな。蕭何の役も担ってもらいたい。兵站とはそういうことじゃ」

「それはまた……わかりました。高祖の両翼を一人でやれと言われるはちと厳しく思いますが、殿がやれと言うことはできるということなのでしょう」

「無論、協力は惜しまぬ。先日補給を軽視する戯けどもは砦に押し込めて骨の髄まで教え込んだからな……ケケケケケ」

 俺の笑みに弥八郎が顔を引きつらせる。

「殿、その笑みは私と要るときだけにしてくださいね?」

「……弥八郎、俺はそういう趣味はないのだが」

「違います! 私には妻がおりますし! ではなくて、腹黒狸の顔を見せられるなということです!」

「俺、そんなひどい顔してたかのう?」

「真っ黒です!」

 そうこうしているうちに、後方から勝鬨が上がった。ほぼ同時に正面では城兵が壊乱しており、城将の首を討ち取ったとの名乗りが聞こえてくる。

 後は降伏した援軍を包囲に加わらせて威圧し、城明け渡しの上で退去が妥当な線かな?


 吉田城を落とせば後は国境まで一気に押し出せばいい。もう一戦ありそうだが、朝比奈には先日大打撃を加えた。駿河から援軍を呼ぶにももう少しかかるだろう。何とか三河平定に目途が立ちそうだな。

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