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葵と木瓜  作者: 響 恭也
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今川元康

 吉田城を取り巻いた。少しでも前線を押し上げないといけない。城を囲んで敵が音を上げるのを待つ。実際の目的は後詰めをおびき出して野戦で叩くことである。そうすることで、三河と遠江国境辺りの兵力を枯渇させるのが目的だ。今は敵の動きを待つ、そんなさなか、武田と北条に対する今川元康の所業はえげつないの一言だった。


 三国同盟の会盟の場。雪斎の供としてその場にいた竹千代は、北条と武田から差し向けられた無理難題を全て論破してのけたそうだ。

 そもそも現在知識が魂を分けたときに共有されていたようで、晴信の耳元で何かをつぶやくと、いきなり血相を変えて立ち上がったらしい。たぶんだが、小姓同士の寵愛争いの手紙の事でもつぶやいたんだろうなあ。

 当主の身の回りを世話するような身分は、重臣の子弟であってもそれほど高くない。見習いとか幹部候補生の意味合いはあるが、戦場にまだ立っていないような子供の名前とかいい当てられたらそりゃ驚くだろう。他には温泉の場所とかいい当てたんじゃないかなあ。素っ裸で入浴している最中に間者とか差し向けら

れたらたまったものじゃない。

 まあ、晩年の信玄であったならばすっとぼけるくらいのことはしただろうが、まだ若いということか。

 北条は河東の地の割譲を要求されたそうだ。で、氏政の食事の時の叱責エピソードと、伊豆の地図を差し出したら氏康も顔色が変わったと。

 そりゃあそうだ。大名一家の食事の際のエピソードなんぞ外に漏れるはずがない。まあ、この話自体は後世の創作であろうが、氏政の優柔不断な性格は事実で、そのことが外に漏れている。そう考える。

 ではどこから漏れたか。小田原城の大名自身が住む居住区にまで人が入り込んだと考えるだろう。

 今頃風魔は大わらわだろう。ありもしない小田原城の侵入経路を探し、裏切り者を探す。家中の動揺も計り知れないだろう。

 そしてこういった情報を持っている今川に対し畏怖を抱く。ここまで情報が筒抜けになっているとなれば、武田、北条で同盟して今川を叩くという選択肢も難しい。それこそ、互いを信用して兵を進めたら、もう片方が今川と通じていてということになりかねない。

 結局、今川サイドから提示されたメリットをそのまま受け入れて、対等の同盟を結ぶに至ったわけだ。現代知識悪用しすぎだろ…‥。

 ついでに、二人相手に碁を打って、両方から勝利をもぎ取ったらしい。いきなりやらかしているだけに二人ともかなり本気で容赦のない手を打っていたそうだが、それを上回る老練な手でコテンパンにしたと。

 晩年の家康の知略は天下に冠たると証明したようなものだな。ただ、この二人の晩年となると別の意味で経験を積んだ怖さがある。その時に改めて勝てるかと言われると疑問符が付くのだが。


 で、なんでそれを俺が知っているかというと、魂を分かった者だけが使える念話。あれがいきなりつながったのだ。どうも敵情視察と称して三河に入っているらしい。とりあえず吉田城を囲んだ意図は把握されているようだ。

 雪斎と相談して、奥三河の豪族に援軍を命じたと連絡も入った。「来る相手と方角がわかってればまず負けないよね?」まあ、そりゃそうだが、いいのかそれで?

 あ、そうそう、なんでこの話を俺が知ってるかというと、念話で教えてもらったからだ。それも、元康の資格情報まで共有できるとかスゲーな。これ上手く使えば、二人が離れた場所にいてもリアルタイムで間隔が共有できる。戦国の技術だととんでもないアドバンテージだ。

 とりあえず今川乗っ取ってそっち合流するからよろしくって軽く言われた。おいおい……。

 三河くらいは自力で切り取れ。織田にも2~3国は切り取れって無茶ぶりが過ぎるだろ。まあ、でないと力の釣り合いが取れないってそれはそうだけどさ。

 

 などと、内心のボヤキを押えつつ、周囲に放っていた物見からの報告が届いた。

「奥平、菅沼らの兵がこちらに向かっております!」

「ご苦労」

 いわゆる山家三方衆と言った連中だ。後背常ならないが、忠義のために玉砕するなんて言うのは後世の創作で、家の存続が至上命題であった豪族は常にあっちに付き、こっちに靡きとやっていた。

 ここで叩くにしても、吉田を落とせば彼らはこちらに付くだろう。追い払うだけでいい。下手に大打撃を与えれば恨みが残る。ただし、配下に付いた後はきっちりと上下関係を叩き込むがね……クックック。

 使い番がひきつった顔で走り出す。何か怖いことでもあったのだろうか?

 などと疑問を胸に秘めつつ、吉田城包囲の指揮を執るのだった。

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