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葵と木瓜  作者: 響 恭也
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三国同盟

 さて、西三河はほぼ平定できた。鵜殿は上之郷城の維持に遠江より援軍を呼び寄せる羽目になりその発言力は低下している。さらに長照が負傷し陣頭に立てなくなったことで、鵜殿宗家以外の家がこちらになびいた。

 どうやら今川の後ろ盾をかさに着て分家をかなり搾取していたようだ。下之郷城が内通し、こちらに寝返った。これにより三河中央部の趨勢もかなりこちらに傾いた。ここで一度手勢を休ませる。急いては事を仕損じるというわけだ。

 そうしてじわじわと上之郷を締め上げると、しばらくして駿河への退去を申し出てきたため受け入れた。こうして蒲郡がこちらに手に落ちる。

 となれば吉田城は目の前である。そしてここで非常に重要な報告が入った。


「武田、北条、今川の間に同盟が結ばれたと?」

「はっ! 太原雪斎の主導により、駿河にて三家の当主が会盟。互いに婚姻を結びそのつながりを強めております」

 なんということだ。しかし、史実に比べれば今川の勢力は大きく落ちている。同盟を結ぶとなれば相当に足元を見られるはずである。

 しかし話を聞く限りではほぼ対等の同盟であった。詳細を確認するととんでもないことが判明する。同盟を裏で主導していたのは竹千代こと、松平元康。そして今川にゆかりの瀬名姫を娶り、今川の姓を名乗った。さらに、北条には嫡子たる氏真を人質として差し出している。

 氏真自身は北条預かりで、婚姻は結ばれたが、事実上の放逐であった。

 さらに、武田には塩を格安で譲るとの条件で譲歩を引き出している。というか、これまでどんだけぼったくってたのやら……。

 そして北条相手の交渉が非常にえげつない。伊豆国内の鉱山の位置を記した地図を送りつけたそうだ。鉱山の位置はトップシークレットで、非常に厳重な警戒がされているはずである。それを詳細な地図と一緒に送り付けられたのだからたまらない。

 北条家の内部は一時狂乱状態に陥ったそうだ。そして、氏真を人質に差し出すという硬軟織り交ぜた対応で同盟を結ぶに至ったのである。はじめは河東を要求していたらしく、その返答が地図とかもうね。

 明らかに後世の家康の知識である。伊豆はかなり詳細に検地をしていたからなあ。しかも鉄に金銀などきっちり開発すれば宝の山だ。その情報が筒抜けになっている恐怖は想像を絶する。

 風魔による内部の情報洗い直しが始まっており、当分外部に目を向ける余裕はなさそうだ。同時に武田も塩を押えられていることを再確認した。それにより今川と争うべきではないと判断し、さらに嫁を迎え入れることで押さえも聞く状態となったと判断し、北上の軍を編成している。


「要するにだ。今川の兵力は分散されず、こっちに向かってくるってことか」

「左様にござるな」

「まだ三河半国だ。太刀打ちは厳しいな」

「織田の援軍頼みですな」

「しかし参った。これまで行ってきた調略が一気に水泡に帰したわ」

「今川の威信が揺らいでおりましたが、北条、武田との同盟で三河への圧力が増すは自明の理ゆえに」

「だが逆に好機でもある。今川軍を叩くことができれば今度こそあ奴らの権威は地に堕ちるであろうよ。北条、武田どちらにも人質を出しているしな」

「いざとなれば見捨てる選択肢もありますが、そうなっても外聞がよろしくありませんしなあ」

「そういうことじゃな。にしても思い切った手を打って来たもんだ」

「というか、今川の養子に入った竹千代とやらは、織田と今川の間で本物偽物と言い争っていた彼の御仁ですか?」

「まあ、今更であるが、双子の兄というわけでな」

「……なんとまあ。世の中にはいろいろと思いもかけないことが隠れておりますな」

「うん、弥八郎よ。それだけで済ますお主の胆力も大したものだと思うぞ」

「というか、事実上、今川を乗っ取り掛けてるわけですからな。この殿の双子ということであれば……考えたくはござらぬなあ」

「……どういう意味じゃ?」

「や、腹黒狸は二頭と要らぬと思うておりましたが、なかなかどうして。同格以上の大ダヌキがあちらにもおるとか」

「誰が狸だって? で、腹黒ってのは俺の事か?」

「おや、自覚がありましたか?」

「弥八郎。今夜は支給されている酒は無いものと思え」

「なっ!? 殿、それは殺生にござる!」

「うるさい、誰の伝手で尾張から酒を仕入れられていると思っておる?」

「それは三河一の弓取りたる殿のおかげですな」

「急に態度が変わるとかもうね。まあ、いいや」

「まあ、どちらも本音でござるよ? 殿の知略と雄略。共に東海を制す器にござる」

「ふん、東海というあたりはあれか? 遠慮か?」

「もう少し背丈があれば天下一の弓取りと呼んで差し上げますよ」

「どやかましいわ! これから伸びるんだ!」


 深刻な話し合いのはずだったが、なぜか弥八郎のペースに飲み込まれていた。今川の全力攻撃が来る。しかも、家康の半身たる竹千代が雪斎すらも超えた知略でだ。

 あいつがどういうつもりかはわからぬが、受けて立つしかないようだ。実に困った状況である。

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