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葵と木瓜  作者: 響 恭也
19/64

どうしてこうなった

 年明け早々、なぜか戦場に立っていた。大和守信安殿が弾正忠家を頼ろうとしてきたことを感知した犬山方が、まだ築城途中の小牧山城に押し寄せてきたのである。

 犬山衆を中心に敵は2500余。吉殿の手勢はもと流民兵を入れても1500ほど。しかし、こちらもただ傍観していたわけではない。北に向けていくつかの防衛施設を構築していた。

 砦に本陣を置き、岩倉の本隊が敵の背後を突くか、清須からの増援が来るまで持ちこたえれば勝ちである。というか、敵は早々に小牧山を焼き払って戻るつもりだったようで、こちらの兵力と備えに驚いているようだった。

 情報収集、なにそれおいしいの? といった風情である。罠があれば食い破ればいいじゃないのとか脳筋にもほどがある。

 

「戦は戦いに臨む前にいかに多くの手を打っておくかによって決まる。ただ兵をぶつければよいと言うものではない!」

 吉殿がドヤ顔で言い放った。その通りだ。つい先ほど俺が言ったセリフ丸パクリだけどな。

「「はは!」」

 家臣たちが尊敬のまなざしで吉殿を見る。まあ、いいよ。吉殿の人望はそのまま俺たちの力で、俺が下手に目立つと勢力の分裂を招きかねない。

 吉殿を後ろ盾に岡崎を取り戻す。まずはそこからだ。その為には弾正忠家が尾張をまとめているくらいじゃないと、実効支配している今川に対抗するすべがない。


 敵が押してきた。土塁と柵に阻まれ足が止まるところに矢が降り注ぎ、なす術なく倒れてゆく。そんな敵兵も尾張の民だ。かといって手加減していてはこちらがやられる。そこはジレンマもあるが割り切るしかない。

 そして敵の背後に軍勢が現れた。岩倉の旗が上がっている。そしてそのまま突撃に移ろうとしていたところで……斎藤家の手勢が岩倉勢に攻撃を仕掛けた。


「マムシめ、油断も隙もない!」

 思わず口を突いて出た言葉に周囲の目が集まる。

「竹千代。お主の存念を述べよ」

「当家と、岩倉、犬山は敵対関係にあります。どうもそこを突かれたのでしょう。尾張北部を切り取ろうとしているのではないでしょうか」

「美濃はいま近江ともめているのではなかったか?」

「明らかに弱体化しながら小競り合いをしている敵が目の前にいたら、色気を出すものもいるかと」

「マムシ自身は後ろでけしかけているだけか」

「うまくいったら重畳程度の考えでしょうな。それで、うちの動きを見ているのではないでしょうか」

「小牧衆の力を測っているのだな?」

「それで、こちらが予想以上に力をつけていて、岩倉を含めて併呑すれば、おそらく後方支援だと言い張るでしょうね」

「ふん、理屈上は筋が通るな」

「この場合はその程度でいいということでしょう」

「であるか」

「ではひとまず……」

「犬山衆を蹴散らすとするか」

「聞いたか皆の者。出撃じゃ!」

 なぜか俺のあげた激に皆が応える。

 真っ先に槍を掴んで利家殿が走り出す。周囲を荒子衆が固めている。吉殿も旗本を率いて出陣した。砦の前に展開する。

 犬山衆はまさか打って出ると思っていなかったのかやや浮足立っている。

 俺は砦のやぐらの上から戦況を見ていた。さすがに数えで7才だし、体格も普通だし、まだ戦場に立てる身ではない。

  

 吉殿が采を振る。先陣は前田又左衛門利家。大身の槍を振りかざし血煙の中を突き進む。一振りのたびに断末魔が響き、敵は恐れをなして崩れる。

 ただ突き進むかと見えたが、敵が陣列を整え始めると、さっと兵をまとめて退く。そうして敵を誘い出したところで、滝川隊が弩の十字射撃で追撃してきた部隊を食い止め、さらに旗本衆がそのの側面を突く。救援にさらに一手繰り出されたが、その部隊を再び参戦した前田隊が攻撃して崩す。

 お互いの連携で敵を振り回し、劣勢になった敵がじりじりと下がり始めるころ合いで、吉殿が先陣に立って大音声で名乗りを上げた。


「我は上総介信長である! 者ども出会え! 出会ええええええええええい!!」

 その名乗りに鬨を上げて旗本衆が続く。もはや戦況は一方的だ。敵は崩れたってどんどん押し込まれる。

 というか、兵の練度とか敵の方が高いと思うが、指揮官の質が違い過ぎたのか。敵の攻勢はことごとく阻まれ、突出した部隊は包囲され、横槍を受け、十字砲火を浴びて損害を増やす。

 いくら数が多くても、その利を生かしきれずに各個撃破される。

 こちらが犬山衆を蹴散らすのを見て、斎藤の手の者は退き始めた。間もなく使者でも来て釈明してゆくのだろうと思っていると、一人の武士が現れ吉殿に面会を申し込んできた。


「拙者は山城守様の家臣、猪子兵介と申す。上総介様にお会いしたい」

 まあ、口上の内容も含め予想の範囲内でした。信清は犬山城に立て籠もり、信賢は降伏。同時に大和守家が臣従することとなった。

 ひとまず清須に報告を行う。信安殿はそのまま清須に出向き、信秀様に会うことになった。

 俺たちも留守居と犬山の監視を残して、清須に行くことになった。

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