表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
葵と木瓜  作者: 響 恭也
10/64

人材を集めましょう

 正式に俺は吉殿の小姓とされた。人質の身としては破格の待遇である。この時代の常識に照らせば、父が織田に降ることを拒んだ時点で磔にされても仕方ないのである。物騒な世の中だよね全く。


「竹千代、弩の生産量はどうじゃ?」

「職人たちが頑張ってくれております。五百ほどが完成しておりますな」

「見事。順次訓練用に配備させよう」

「ほか、流民から雇い入れた兵で、見込みがある者は士分への取り立ても行いましょう」

「うむ、そういえば鉄砲の心得があると申した者がおったな」

「ほう、なんという者です?」

「滝川左近と名乗っておったか」

「直臣にしましょう」

「そなたの知る名か?」

「古今の名将と言って差しさわりありませぬ。織田が天下に届くほどになっても五指に入りましょう」

「ちと迎えてくる。後は頼む」

 吉殿はすっ飛んでいった。まあ、彼の琴線にも触れていたのだろう。

 滝川左近将監一益。いわゆる織田四天王の一人だ。守るも攻めるも滝川の異名を持ち、各地で抜群の武功を上げていた。

 攻防にバランスの取れた名将であり、甲賀に伝手を持つ。吉殿の諜報を担わせるのもいいな。

 ほか、斯波氏の家臣であった丹羽五郎左殿の引き抜きに成功した。米五郎左の異名を持つ万能人間だ。柴田権六と並ぶ猛将としても知られるが、米のように不可欠な人と言う意味合いと、兵站などの軍政にも力を発揮した。

 また、近江から流れてきた村井貞勝殿も吉殿の配下に迎え入れることができた。平手殿が目を剥くほどの能吏であり、今は彼の下で奉行見習いをしている。

 また、与力としてつけられた森三左衛門殿は、攻めの三左と呼ばれる猛将であった。

 吉殿は那古野衆の旗頭として、ある程度の権限を任されているが、実務面は平手殿の補佐を受ける部分が大きい。いくら天才でも経験は必要なものだ。そして、若い天才が老練な熟練者に敗れたことなど枚挙に暇が無いのである。


「もどったぞ!」

 吉殿が息を切らせて駆け込んできた。外に出迎えると、吉殿の隣には鋭い眼光と隙の無い身のこなしをした武士が立っている。目がぎらぎらを光り、常に得物を探す肉食獣のようだった。

「滝川左近と申す。よしなにお頼み申し上げる」

「松平竹千代です。若の小姓を勤めております」

「ほう。その幼さでこの若君の相手が勤まるか。先行き楽しみにござるのう」

「竹千代は麒麟児故な」

「若殿、あまり持ち上げないでくださいね」

 このやり取りを見て滝川殿は少しこちらを探るような視線を向けてくる。ただ、それだけで、すぐに元に戻ったが、やはり新たに使える主についての情報を集めようとしているのだろう。


「左近よ。貴様の一族を呼び寄せよ。それにふさわしい禄をつかわす」

「殿は忍びを大事にされると聞き及んでおります。その一環と考えてよろしいか?」

「その通りじゃ。孫子に曰く、間者なくば、闇夜を目隠しして行軍するに等しいと思うておる」

「孫六は拙者の弟のようなものでござってな」

「そうか、なれば貴様の配下に就けようか?」

「よろしいので?」

「そもそも忍びについては貴様に任せる予定だったからな。我が耳目となれ」

「新参の拙者をそこまで信じるゆえんは何でしょうか?」

 さすがに疑いの目を向けてくる。言いように言いくるめて使い捨てにされてはかなわないと言ったところか。

「我は間者を重視しておる。そして貴様はそれをまとめ上げる技量を持つ。あとは……我の勘かの?」

「勘、そんなものに殿は身を任せるのですか?」

「悪いか? どんな理由をつけても最後にはそこに頼るしかなくなろうが。二つに一つであれば我は直感を信ずる」

「くくく、実に面白い。承知いたしましたぞ。なれば、殿の耳目を尾張全土に張り巡らせましょう」

「足らぬ。伊勢守家、大和守家は最低限の監視で良い」

「なれば松平ですか?」

「それと背後におる今川じゃな」

「弾正忠家の兵力はかき集めて三千が良いところでしたか」

「今川は総動員すれば二万は集めるだろう」

「武田相手の警戒もあれば、それでも一万はかたいですな」

「そういうことじゃ。貴様の集める情報はまさに死命を制する。そしてそう決めた相手を疑っておる時間すらもったいない」

「これより拙者、三郎さまに生涯お仕えすることをここで決め申したので、いかようにも召しつこうてくだされ。必ずお役に立って見せまするほどに」

「いいだろう。我も貴様ほどの男が仕えるに足る主となろうぞ」

「それは頼もしい。いや楽しみにござる」

 

 人材スカウトは上手く行きつつあるようだ。滝川一益と六郎に繋がりがあったことは意外だったが、それであれほどの将を迎えられたことは大きい。

 気前がいい、間者を差別しない。これで流民の集まりが変わったしな。

 やはり情報は死命を制する。それがよく分かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ