【禁帯出】綾瀬父子猟奇(サイコパス)殺害事件
――これは、ある事件に関連する音声記録の部分集合である。現場で何が起こったかは、閲覧諸君の想像力に委任する。
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Rec.1
ヤスカ「今日は、ハンバーグを作るわよ。たっくんも、お手伝いしてね」
タクミ「はい、ママ」
ヤスカ「パン粉にお皿のお水をかけて、柔らかくしておいてね。ママは、玉葱を微塵切りにして、フライパンで炒めるわ。包丁と火元は危ないから、近づかないようにね」
タクミ「はい。これで良いの?」
ヤスカ「はい、良いわよ。そうしたら、そこに小鉢の卵と、バットのお肉を入れてね」
タクミ「入れたよ、ママ」
ヤスカ「はい。そこに、今ママが炒めた玉葱を入れて、お塩をふります。たっくんは、粘土遊びが好きよね」
タクミ「大好き」
ヤスカ「このボウルの中身を、きれいに捏ね合わせてくれるかな? 混ざったら、お肉を置いてたバットの上に、いつも食べてるハンバーグの形にして並べてね」
タクミ「いいよ」
ヤスカ「ママは、お庭でルッコラを摘んでくるわね」
タクミ「レッド、ブルー、グリーン。三人合わせて、ジャスティス・ソルジャー・エックス。ねぇ、ママ。これで良いの?」
ヤスカ「はい、良くできました。そうしたら、ママが、フライパンで焼いていくわね。油が跳ねるから、ちょっと離れていてね。フォークをテーブルに出して、先に座っておいてちょうだい」
タクミ「はい、ママ」
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Rec.2
タクミ「ごちそうさま」
ヤスカ「きれいに食べたわね」
タクミ「トマトとロッコリも食べたよ」
ヤスカ「偉い、偉い。でも、たっくん。ロッコリじゃなくてルッコラよ」
タクミ「えへへ。ねぇ、どうしてママは食べなかったの?」
ヤスカ「ママは、これから食べるのよ」
タクミ「一緒に食べれば良かったのに」
ヤスカ「そういう訳には、いかないのよ、たっくん」
タクミ「ママ? ちょっと、ママ。何するの、離して」
ヤスカ「苦しいでしょう。でも、すぐ楽になるわ」
タクミ「ゆる、し、て」
ヤスカ「もうすぐ、パパに会えるわ。会いたがってたものね、たっくん」
タクミ「どう、し、て」
ヤスカ「たっくんがパパを食べたように、今度はママが、たっくんを食べる番よ……さぁて。解体して、加工して。食べられない部分は、細かく砕いて、バイオ式生ごみ処理機ね」
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Rec.3
――取り調べ中の容疑者には奇行が目立っており、警察では、容疑者に刑事責任問えるかを視野に入れつつ、近く身柄を送検する見通しであると発表しています。
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Rec.4
タクミ「さっぱり、さっぱり、ほっかほか」
アタル「逃げるな、タクミ。パジャマを着ないか」
タクミ「暑いから、着たくない」
アタル「駄目だ。ちゃんと着なさい」
タクミ「嫌だ」
ヤスカ「駄目、嫌、駄目、嫌。ナイン、ドッホのエンドレス・ループね」
タクミ「ママ。パパが、たっくんの言うことを聞いてくれない」
アタル「言うことを聞かないのは、タクミのほうだろうが。よし、捕まえた。大人しくパジャマを着ろ。風邪を引いても知らないぞ?」
ヤスカ「たっくん。風邪を引いて、この前みたいにお外で遊べなくなっても良いの?」
タクミ「むっ。それも嫌だ」
アタル「嫌でも、どっちかを選べ」
ヤスカ「フフフ。たっくんは、むくれても可愛いわね」
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Rec.5
ヤスカ『フフフ。フフフフフ』
神田「よう、鶯谷」
上野「私は上野ですよ、秋葉原先輩」
神田「私は神田だ。まぁ、いつものお約束も済んだところで、四十三番の様子を聞こうか」
上野「収容されてから、相変わらずですよ。コンクリートの壁に向かって、現実逃避してます」
神田「四十三番の頭の中では、今でも庭付き一戸建てに住んでるんだろうな」
上野「妄想と現実の区別が付かないんでしょうね」
神田「あんな無機質な部屋に閉じ込められたら、犯罪者じゃなくても正気を保てないだろうけどな」
上野「言えてますね」
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――狭い水槽に数多くの金魚を投入したままにすると、そのうち鰭や尻尾を攻撃するようになり、最後には共食いを始めるのだとか。くわばら、くわばら。