#9,始まりの町
こんばんは!真理雪です~。
少しストックが出来たのでちょろっと投稿しておきます。感想とかくれたら嬉しいです~。
『こちらです!この森を抜けた先が始まりの町です!』
森で場違いな羽音が聞こえ茂みから珍しい白い鱗を持った仔竜が飛び出してくる。
「分かったのじゃっ。フィーナ!大丈夫か?」
「はっはい!わたくしは大丈夫ですっ。カエデ様こそ大丈夫ですかっ?」
彼女は少し肩で息をしながらもこちらを労い言葉を返してくる。彼女の心配も最もだった。そんな心配される当の本人、狐の女性カエデは息も切らさず、妹フィーネを片手で背負いもう一方で男性を引きずっていた。
「もがー!もがもがー!」
「煩いのじゃ。負け犬は静かにしておれ」
蔦で拘束され猿轡をされた男性は暴れるがカエデに軽く殴られ昏倒させられる。
「……えっと…その…」
「む?どうしたのじゃ?」
「あ、いえなんでもありません」
フィーナは何かを言いたそうに口ごもるが言わずに止めてしまう。そんな彼女にカエデは首を傾げるがまあいいかと前に向き直った。
──フィーネを助けたカエデたちは今、始まりの町へと急いでいた。あの後、この男性を縛り上げたカエデたちはフィーナが持っていた伝達石を介して天魔の動きが早まったことを知った。
「お父様っそれは本当ですか!?」
『ああ、そうだ。難しいことは分かっているが、急いでくれフィーナ。一刻も早く人族の協力を取り付けてほしい』
「分かりました。こちらはお任せください。お父様の方こそ無理をなさらないでくださいね…」
『ふっ…善処はしよう。では、失礼するぞ』
フィーナは仄かに光る石から耳を離し、表情を曇らせながらも俺にことのあらましを伝えてくれた。
フィーナのお父様もとい父親が伝えてきた情報は天魔の動きが突如活発化して速度が上がり接触が日没後ではなく日没ちょうどに早まってしまったことを伝えてきたようだった。エルフたちはどうにか撃退するため作戦を練り準備しているようだが…。天魔はエルフの天敵だ。そう易々と撃退できる相手ではなかった。
今は昼過ぎ。天に輝く太陽も少し傾き地に沈むのはもう時間の問題だ。今からギルドへ行っても到底間に合うとは思えなかった。
「それでも…わたくしは行かなければなりません…。諦めたくありませんから」
彼女は曇りのない瞳で俺を見つめそう言い切る。その時、撫でるように吹いたそよ風が彼女の金糸のような髪を靡かせる。真剣そのものだった彼女の双眸は決意の火で輝き、可愛らしくも美しい美貌がその陽光に照らされ神々しく映る。それはまさしく女神そのもの。俺の目には眩しく、網膜に焼き付くにはそれは十分過ぎるほどのものだった。
───なるほど。一目惚れってこう言うことを言うんだなと一人で肩をすくめ納得した俺は…。
「うむ、分かったのじゃ。ならば妾も協力しよう」
と快く頷いた。
そうして協力を申し出た俺は彼女らと一緒に始まりの町へと急ぐ事になった───
森が開け、やっとのことで町の近くへと到着するカエデたち。
しかし、そこでは長い行列が出来上がっていた。
「なんじゃあれは…もしやあれ全部入場待ちとか言わぬよな…?」
『入場…そうですね。始まりの町は検問が少し厳しいですから、検問待ちが多いのでしょうね』
始まりの町は誰でも入れる分検問が厳しくなっているようで、大名行列…まではいかないにしろなかなかの長さでいろんな職種の人間が並んでおり、検問も遅々として進んでいないようだ。これ本当に中に入れるのだろうか不安になってきた…。
『長い時は一泊しないといけない時もあるそうですね』
「そっそんな!それでは間に合わないです!」
ラタトスクの言葉にフィーナが悲痛な声を上げる。
「カエデおねぇちゃん…」
「えっと…妾に言われてもこれに関しては何も出来ないのじゃ…すまぬな。フィーネよ」
背負われていたフィーネも不穏な空気を感じ取ったのか心配そうな表情で声をかけてくる。しかし、流石にこれに関してはカエデにもラタトスクにもどうしようもなかった。検問を無視してまで町に入るわけにはいかないし、そもそも身元不明なカエデは検問も通らず町で見つかった場合、賊として引っ立てられても可笑しくない。検問を飛び越えて行ってしまえば賊と考えられるのは仕方がないことだった。
「……分かりました…。ここはわたくしがどうにかしましょう。いや、どうにかする番ですね」
フィーナは何かを決意した様に頷くと最後尾で監視していた兵士に向かって歩き出す。
「フィーナ?何を──」
と止める間もなく彼女は兵士に近づくと口を開く。
「少しよろしいでしょうか?」
「? ああ、旅人の方でしょうか?こちらが最後尾になっていますのでこちらへどうぞ──」
「申し訳ありません。わたくしたちは先を急いでいるのです。どうか貴方様の上司に取り次いでもらえませんか?──エルフ族の王族が来たと」
彼女は兵士の言葉を最後まで聞かず低姿勢でしかし、しっかりとした口調で話す。
「え…えっと…?今なんと?」
「エルフ族の王族が来たとここの責任者に伝えてくださいっ。急いでいるのです!」
フィーナは遂にはフードで隠していたにも関わらず取り払い素顔を見せる。対して兵士は呆気に囚われたように呆然とし、彼女の美貌を見た彼はフリーズしてしまった。
「あーごほんっ。そこの兵士よ。見とれるのは分かるが早くするのじゃ」
「え?あっはい!少々お待ちを!」
凍結していた兵士はカエデの言葉で我に返り、慌てて早足で駆けていく。
「カエデ様…申し訳ありません…」
「いや別に良いぞ。フィーナは悪くないじゃろう」
と助け船を出したカエデに謝るフィーナだったが、カエデは“まあフィーナの美貌では仕方ないだろうな”とあのフリーズしていた兵士に心の中だけで謝っておいた。
それから数分した後に兵士が駆け戻って来ると後ろからもう一人の男性が着いてくる。白髪混じりの初老の男性だがどっしりと構えた歩みにがっしりとした体格。年齢はいってそうだがまだまだ現役で活躍してくれそうなそんな男性だった。
「なんだ。お前らか?エルフの王族とやらは。一人獣人じゃねぇか」
その男性はカエデたちを見ると疑わしそうに声に出す。
「貴方様がここの責任者ですか?」
「ああ、そうだ。で?ほぉう可愛らしい嬢ちゃんだがアンタが王族なのかい?エルフの王族といやぁ国から出てこないで有名なんだがな」
「確かにそうですね。わたくしたちは繋がりを最小限に抑えるため国から出ることは致しません。ですが今回はそう言ってはいられないのですっ」
フィーナはその男性に怯むことなく言い放つ。
「信用できないのは分かります。ならばこれで信用してもらえないでしょうか?」
彼女は自身の懐から何かを出す。それは銀色のペンダント。表には何やら刻印のようなものが描かれ、裏面には文字が刻まれている。
「こっこれは…王家の紋章か!まさか…本物だとは…」
それを見た途端男性は驚き刺々しい雰囲気から一転、和やかな雰囲気へと変化した。
「ゴホンッ…申し訳ない嬢ちゃん…。いや、王女殿下。何用でこんな辺鄙な所に…?」
「ここには天魔と戦う者達が集まっていると聞きました。そこへ案内してもらえますか?」
「天魔と戦う…だとぅ!?もしかして冒険者ギルドのことを言っているのか?」
「はい!それです!案内して頂けますか??」
その初老の男性は顎に手を当て少し考え込むとわかったと頷き肯定を示す。
「だが、案内できるのは王女殿下だけだ。それ以外は待っていてもらうぞ」
「えっ!?そんなっ」
男性が言った言葉にフィーナは驚き不満を訴える。
「ダメだダメだ。これでも譲歩してるんだ諦めてくれ」
「うう…カエデ様…」
男は首を振り、どうしてもとせがむフィーナを拒む。彼女は少し涙ぐみながらカエデにも助けを求め視線を向けてきた。
「まあ、仕方ないのう…。ほれフィーネよ。そなたも王女なのじゃから着いて行け。妾はここで素直に並んでおこう」
「カエデ様まで…」
「仕方なかろう…。そなただけでも行けるなら儲けものじゃ。ほれ、遠慮せず行ってくるのじゃ」
ぽんっとフィーネの背中を叩きカエデは送り出す。しかし───
「カエデおねぇちゃん!!」
ひしっとカエデのおみ足に引っ付く小さな存在。
「フィーネっ」
「やだもんっ。フィーネっカエデおねぇちゃんとはなれたくないっ」
フィーネは駄々をこねる子供の様にカエデの足に取りつき姉たるフィーナの言葉をも無視する。
カエデとしてはこんなに可愛らしい子に引っ付かれ“離れたくない!”とか言われてしまえばものすごく嬉しいのだが…ここはぐっと我慢しなければっ。
「むむ…ふぃっフィーネよ。しっしし仕方ないのじゃ、…アキラメテクレ」
「あの…カエデ様??」
フィーナはカエデの違和感バリバリな言葉に首を傾げ、男性はなんだこいつら…と言う視線を向けてくる。
(尻尾が残像が出るほど荒ぶってますよ。カエデさん)
(え!?あ!)
「んっん~ん!そのなんだ。仕方ないのじゃフィーネよ。な?な?」
カエデはフィーネと視線を合わすようにしゃがみ込み、彼女の頭を撫でる。
「カエデおねぇちゃん…」
「大丈夫じゃ。そう心配せずともまた会える。じゃから行ってこい。な?」
カエデは精一杯の笑顔で彼女を慰め、フィーネは少し泣きそうになりながらもしっかりと頷いてくれる。
「うむ。よく頷いてくれたな。偉いぞ~」
カエデはなんだかんだ納得してくれたフィーネを誉めるように頭を撫でる。彼女はそれが嬉しくもくすぐったそうにはにかみ笑顔を作った。それがまたなんとも可愛らしくフィーナをそのまま小さくしたような彼女の為、屈託のない笑顔を見せると天使のように可愛らしかった。
「えーと、なんだ…。邪魔して悪いんだが…」
それを見ていた男性は何故だが凄く申し訳なさそうに言葉をかけてくる。
「あ…。ごほんっ。すまぬな忘れておった訳ではないぞ?こちらはそれで良い。妾はいいからこの二人を案内してやってくれ」
「ああ…それもあるんだが…。狐の嬢ちゃん、アンタが引き摺ってるそいつはなんだ?」
男性はカエデの右手から伸びる蔦。その先で拘束されているそれを指差し尋ねてきた。
「ん??ああ…これは捕まえた賊じゃな。確か闇ギルドの者だった筈じゃ」
「なんっ!?闇ギルドだと!?それは本当か!」
「む…?そうじゃが…どうかしたのか?」
カエデは突然大声を出した男性に若干戸惑いつつも肯定を示す。
「どういう経緯で捕らえたんだ??狐の嬢ちゃんが捕らえたのか??」
「えーと…フィーナたちが狙われていたからの。妾が助けに入ったのじゃ。あ、因みに捕らえたのはフィーナじゃ」
「え!?カエデ様!?」
カエデは説明すると男性は額に皺を寄らせ考え込むように黙ってしまう。つい、捕らえたのはフィーナだと説明してしまい、彼女は不満そうな視線でこちらを見やる。カエデは唇に人差し指を当て仕草だけで言わないで欲しいと伝える。それを見たフィーナは仕方ないと言う風に小さく頷いてくれた。
「いいだろう。特例だ。そいつを連れてギルドへ行け。闇ギルドの者を捕らえてそのままほっておける訳ねぇからな」
「え?良いのか?」
「ああ、闇ギルドの奴等は捕まえられないで有名だからな。まさかエルフ族が捕らえるとは思わなかったが…。おら、こうしちゃおられねぇ。行くぞ嬢ちゃんたち」
手のひらを返したように簡単に意見を覆した男性にカエデたちは不思議そうに顔を見合わしとにもかくにも着いていく。
一先ず、どうにか入れそうになったことで胸を撫で下ろすカエデたちだったが難関はまだこの後も続くことをまだこの時は考えてもいなかった。
・伝達石─エルフ族のみが作ることが可能な貴重なアイテム。その名の通り石を介して声を伝達してくれるもので今はエルフ族のみしか作り方を知らない代物。エルフ族は良く使っているアイテムだが人族などにはなかなか出回らない代物の為、ギルド本部や騎士団などの主要な設備にしか置いていない。