#7,紅の符術士 3
おりゃ!二連投稿!!
「黒疫の魔女??」
俺は頓狂な声を出す。
俺の背中に背負われた少女がその涼やかな声で肯定を示す。
「はい。その魔女は禁術を扱い人を襲うと言われています。その禁術の効果に魔術無効があるのです」
フィーナは真剣な口調でそう説明する。
『こちらには魔女の情報が僅かしかありません。最初に調査し始めたのはエルフ族です。情報はそちらの方が多いはずですが』
「そっそうですね。確かに調査を開始するのは一番早かった筈なのですが…」
俺の横を滑空する様に飛ぶ仔竜は彼女の歯切れの悪い言葉に首を捻る。
「残念ながらわたくし達エルフ族もそれほど情報を得ている訳ではありません…。魔女はその禁術で姿を眩ましこちらに尻尾を掴ませません。魔術に長けている筈のわたくしたちが手も足も出ないのです…お恥ずかしい限りです…」
彼女は申し訳なさそうにうつむきそう答える。
「禁術か…」
俺はその言葉を呟き考える。
確か禁術なんてものはゲームではなかった筈だ。いや表舞台に出てこなかっただけかもしれないけど。…少なくとも魔女なんて言葉は一度も聞いたことがない。と言うことはこの五百年間で現れたと言うことだろう。
それにゲーム上、魔術無効と言うものはバフでもスキルでもありはしなかった。流石にそんなものがあればチート所での話ではない。唯一似たものと言えば、“天魔”が持っている魔術半減スキルだろうか…。
『魔女の件もそうですが。黒の森も警戒しておいた方が良いかと』
「そっそうでしたっ。森に入られる前に追いつかないといけませんっ」
「む…?何かあったかの?」
首を捻る俺に仔竜は答える。
『黒の森はエルフと対をなすダークエルフの領域。冷戦状態の今、エルフが侵入する訳にはいきません』
ダークエルフ。その名は聞いたことがあるだろう。精霊の力を受けたエルフに対し闇の力を受け継いだエルフ。それがこの世界で言うダークエルフだ。確かゲームの設定ではエルフとダークエルフは犬猿の仲で今でもいざこざが起こると言われていた。ゲームの終盤でもエルフしか力を貸してくれなかったし、ダークエルフは冷酷で冷徹な種族なのだと言うのが俺たちプレイヤーの見立てだった。
(てっ五百年たってるのにまだやってるのじゃな…懲りないやつらじゃのう…)
(仕方ありません。エルフやダークエルフたちのような長寿種族は新たな文化よりも古き文化を重視する傾向があります。それに人族の王国と帝国はあの出来事があったからこそ仲裁できましたがなければズルズルと引きずっていたでしょう。人間とはそういう生き物ですよ)
ラタトスクはそう言って口をつぐむ。
どこか納得出来ないところはあるが俺は否定はしなかった。地球でだって領土問題だったり人種差別だったりと大なり小なり国と国が争う問題は絶えることがない。そう考えるとやっぱりこの仔竜が言ったことが正しいように思える。
(それでも…平和に生きたいと思っているのが人間じゃがな…)
問題を解消しようと争いをなくそうとしている者たちはいる。しかし、それが足りないのか問題が多すぎるのか無くなることはない。それが今現在の現状だった。
──原因を突き止め、解決してほしいのです───
唐突にその言葉が脳裏に過る。
彼女──ラタトスクは俺にそう言った。『カエデ』の力をもってすれば解決出来ると信じて。
“こんな力を貰ったところで…俺は解決できるのかな……”
俺はそこら辺にいる人間と大差無いサラリーマンだった筈だ。少しゲームが好きだった只の一般人が…世界を股に掛けるかもしれない問題を解決なんて……────
「カエデ様…?どうかされましたか…?」
突然押し黙った俺に不思議に思ったのか彼女は声をかけてくる。
「え、あ…いやっ何もないのじゃ!…さて、ならば早く追いつかねばなっ。とばすぞ!」
「ひゃ!?ひゃわわっ!!?」
居たたまれなくなった俺は会話を打ち切る様にして速度を上げる。彼女は突然速度をあげられ可愛らしい悲鳴を上げている。仔竜は特に何も言わず俺のスピードについてくる。
考えてもどうしようもないことは分かっていた。しかしその悩みは凝りの様に俺自身に焦燥感を与え、どうしようない苛立ちを感じさせた。
◆◆◆
ドカッと苛立ちながら大きめの岩に腰をおろす。男は舌打ちをしてからめんどくさそうにため息をついた。
「くそっおせぇ…。あのおっさん失敗しやがったか。はぁ…あんなのと組むんじゃなかったぜ…」
男はその苛立ちを隠そうとはせず、むしろ見せ付けるようにして悪態をつく。
それを見つめる一つの視線。岩の影に無造作に転がされている女の子。金に輝く長い髪に長い特徴的な耳。その幼さが残る整った顔立ちには恐怖が張り付き、美しい髪は乱れ深緑のローブは所々に穴が開き白い肌はいろんな所から痛々しく血が垂れていた。
「何だその目は?亜人種が調子にのってんじゃねぇ…よっ」
「ふにゅっ!!?」
手と脚を拘束され猿轡を噛まされている彼女は勢いよくお腹を足蹴りにされ声にならない声を出す。
「ちっ。そもそも亜人種が何で国から出てきたんだって話だよな。目障りなんだよ本当に。獣人もそうだが何であんなのが人間何だか」
男は再度舌打ちをしながら彼女を見下し、返事をしない彼女に興味を失ったのか自分の定位置に戻っていく。
この場所に着いてから何度目だろうか。先ほどのようなことがループするように幾度と無く続いていた。
男はいたぶるだけいたぶって殺さずに止める。命だけはとるなと言われているのだろうと幼い子供のフィーネにでもそれは分かった。だから、耐えることが出来さえすれば姉フィーナが助けてくれる。それだけを心の支えとし、彼女は幼いながらも耐えてきた。しかし────
(いたいよぅ…。お姉ちゃん…)
彼女はまだ幼い女の子だ。幾度と無く続く暴力で彼女の精神は限界に近づいていた。
「ちっ。やっぱり気に食わねぇな…。エルフだからってあのおっさんが失敗するのか…?腕だけは確かだと思って組んだのに、これじゃあ俺がバカみたいじゃねぇか。使えねぇ」
男性はイライラしたようにその場を行ったり来たりと歩き回り、この場にいないもう一人の人物に向けて罵声を浴びせる。
何度も舌打ちをしながら男は不機嫌そうに当たり散らす。そんな様子を見ていたのがいけなかったのか、フィーネと彼の視線が合ってしまった。
(あっ…)
しまったと思った時はもう遅かった。さっと視線を外したのもいけなかったのだろう。男はストレスの捌け口に彼女を見つけてしまった。
「何だよ。何か文句あるか亜人が」
彼は彼女に近づき脅す様に目をギラつかして言う。
(まっまたくるっ……)
フィーネは怯えるように小さな身体を一層縮み込まし、現状から逃げるように目を閉じる。
こういう事が何度もあった。また蹴られる。また殴られる。それが恐怖となりフィーネの心を精神をすり減らして行く。
(…………あれ…??)
しかし、フィーネを殴り付ける衝撃が一向に来ない。不審に思ったフィーネは恐る恐る目を開く。そして驚愕にそのエメラルド色の瞳を大きく見開いた。そこには──
一振りの曲剣───仄かに赤く輝くその剣はフィーネを守るように目の前の地面に突き立てられていた。
「こんないたいけない幼女を足蹴りにするとは…大人の風上にもおけぬ奴じゃな」
凛っとした高い声、特徴的な口調。
すとんっと音もなく着地した赤いヒラヒラとした服装の女性はフィーネを背にして立ち上がる。
「良く我慢したの、もう大丈夫じゃ。すぐにそなたの姉に会わしてやるからのフィーネよ」
彼女は優しい笑みでこちらを見つめ励ますように言う。
「ちぃ。何だ獣のなりそこないが。何者か知らねぇが邪魔するんじゃねぇよ」
男は警戒し一定の距離を保ちながら女性を睨み付け罵声を飛ばす。
「ふむ…。なるほどの…反亜人論者と言うのはそういうことか」
「ああ?無視するじゃねぇよ獣人っ!」
「あーはいはい。煩い奴じゃのぅ…まるで子供の様じゃ…。この頃の子供の方が遥かに大人じゃな」
「てめぇ…。獣の癖にいい気になりやがって…」
男は額に青筋をたて苛つきと相まって目をギラつかせる。
それを見た彼女は面倒くさそうに刺さっていた剣を抜き放ち、その剣でトントンと肩を数回叩く。
「剣を抜くのじゃ。それぐらいは待ってやるぞ」
「ぬかせ…」
獣人の女性は剣を持っていない左手でちょいちょいと挑発する。
「殺してやる亜人ども」
「やれるものならやってみるのじゃな」
一瞬の静寂。───刹那、両者が動いた。
目にも留まらないほどの速度で駆け出す両者。
片や闇ギルドの高レベル冒険者の男性。
片や特徴的な雰囲気の美しい狐の女性。
そんな彼らの、戦いの火蓋が今…切って落とされた。
今回はここまでです。あまり書けませんでしたね…読んでくれてありがとうございました。また切りのいいところまで書けましたら投稿させていただきます!
次回も良かったら見てくれると嬉しいです!では、また!