#40,リティ
やっと書けた…。眠いです。
「───で、リティ。貴女は何をしにここへ? わたしは貴女を呼んだ覚えはないわ」
表情を改め、高圧的な口調に戻った王妃様はリティシアに向けてそう尋ねる。
「ん~そうですねぇ。フィーナちゃんが苦戦しているようなので手助けしに来たんですよ」
彼女は人差し指を頬に当て、のほほんとした口調で答える。
「手助け…? もしかして貴女…獣人、異種族を国に入れるのに賛成だとでも言うのかしら。貴女だって今の状況は分かっている筈よね」
「ええ、承知していますよ。確かに今の情勢下で他種族を招き入れるのは得策ではありません。ですが、それとこれとでは話が違うのではと言いたいのです」
「なにが違うと言うのかしら。わたしはこの国を担う王妃よ? そして、フィーナの実の母親。間違いを正すのはわたしの務めよ」
「───ならば、それが間違いではなかったらどうしますか?」
その言葉で一瞬、王妃様は言葉を詰まらせた。一泊置いてから彼女は目を細め、慎重そうに口を開く。
「…どういう意味よ」
「そのままの意味ですよ」
「分からないから聞いてるのだけど?」
「貴女なら薄々分かっているのではありませんか?」
「…あの獣人族を信用しろと?」
「そうですね…。それが難しいのならば貴女の愛娘たちを信じてみてどうでしょう?」
「だからそれが出来ないと…」
「勘違いしてもらっては困ります。貴女にはもう一人可愛い愛娘がいるではありませんか♪」
リティシアはにこやかにそう言うと唐突にパンっと手を打った。それが合図だったのだろう。部屋に「失礼します」と一人の使用人が入ってきたのだ。そして、連れられて入ってくるもう一つ小さな影。
「お待たせしましたリティシア様。フィーネ・フルール・アストリア姫殿下をお連れして参りました」
「はい。ありがとうございます。貴女は下がってもらって良いですよ」
使用人は綺麗に一礼してから、身を翻し部屋を出ていく。
連れられて来たフィーネは何故自分がここに連れてこられたのか分からない様子で大きな猫(?)の人形を抱いて不安そうな表情を見せていた。すると…一番近くにいた俺が彼女の視界に入る。フィーネはぱっと顔を輝かすと小さな歩幅でこちらに駆けてきた。
「かえでおねぇちゃんっ!」
「おっと…。数日ぶりじゃのぅフィーネ。元気にしておったか?」
俺は走ってきた彼女を優しく受け止め、視線を合わすように膝を折る。
「うんっ。かえでおねぇちゃんもげんき?」
「妾はいつでも絶好調じゃぞ」
「ぜっこうちょう…?」
「ああ…。えっと、凄く元気ってことじゃな」
「そうなんだ!」
和気あいあいと俺とフィーネはお喋りに興じる。話の合間に頭を撫でてやるとさらさらとした髪の手触りが気持ちいい。その上、くすぐったそうに笑顔を見せる彼女がなんとも微笑ましかった。小さい子供と話を合わせるのはあまり得意ではないのだが、彼女は凄く可愛らしくころころ変わる表情を見ていると何故か胸暖まるものが込み上げてくるようだった。俺は今の状況をも忘れ、フィーネの可愛らしさを堪能していた。ああ…尊い。
「ま、まさか…フィーネまでも獣人の毒牙に…」
「毒牙ではないと思いますけどね~」
「むむ…。フィーネだけ…ずるいです…」
と、ある意味で三種三様な声が聞こえてきた。あ、すっかり忘れてた。
「むっ? す、すまぬ。ちょっと自分の世界に入り込んでいたのじゃ」
「大丈夫ですよ~。私は良いものが見れましたから」
彼女はそう言って微笑み返し、ニコニコと笑顔を見せてくる。この人は常に笑顔なので何を考えているかよく分からない。俺は言葉の意味が理解できず、首をかしげた。
「───と、言うことです。分かっていただけましたか? フィーニア王妃様」
リティシアは顔を王妃様に向けるとそう言い放った。対して王妃様は悩んだように額に皺を寄せ、鋭い眼光を俺に向けている。そんな視線に晒されている俺はたまったものではなかった。まだこれなら魔獣からの敵意の方が良いかもしれない…。そんな状況でフィーナは追い討ちをかけるように口を開く。
「お母さまっ。カエデさまは悪事を働くような方ではありません。確かに獣人族の方々は少々荒っぽい方が多いとわたくしの耳にも伝わってきます。…奴隷だったという噂も。ですが、この御方はわたくしを助け、捕らわれたフィーネまでも助け出してくれたのです。それに人族の町へ行く道中も大変お世話になりました。その事実は決して変わりません。わたくしは王家の者として恩人にはしっかりと恩を返すべきだと考えています。わたくし自身…この緊迫した情勢の中、危険なことをしているのは重々理解しているつもりです…。しかし、カエデさまは旅する御方。この機を逃せばもう機会はないと、わたくしはそう思ったのです。お母さま…───どうか許して貰えませんか…?」
フィーナは胸に右手を起き、言えることの全てを言い切ったまま王妃様と見つめ合う。
お互い沈黙を保つこと数秒。それを破ったのは彼女の大きな溜め息だった。
「…リティ。あの獣人族を適当な部屋に案内しなさい」
「あらあら~。よろしいんですか~?」
「貴女がそう仕向けたんでしょうが。…わたしはまだ仕事が残ってるの。さっさと行きなさい」
「ありがとうございます! お母さまっ」
フィーナは嬉しそうに華のような笑顔を咲かす。対して王妃様はそっぽを向き、誰とも顔を合わさないようにしていた。
「ふふっ。では、狐さん。王妃様の気が変わらない内に行きましょうか。案内しますね」
「うむ。お願いするぞ」
「あ、わたくしも──」
「こちらはリティにお任せください。フィーナちゃんはフィーネちゃんをお願いしますね?」
案内しようとするリティシアにフィーナも着いていこうとするが、彼女にやんわりと断られる。リティシアはフィーネを彼女に任せて、案内するために俺を伴って部屋を後にした。
「───王妃様を悪く思わないで下さいね」
そう言われたのは彼女と王妃様の仕事部屋を出た直後だった。
「フィーニアちゃんは昔っから融通がきかないところがありまして…。真面目と言いますか…律儀と言いますか。まあそれが良いところでもあるんですけどっ♪」
彼女は茶目っ気たっぷりにウインクをし、場を和ませるように微笑んだ。俺はこの人のことをまったく知らない。しかし、彼女は王妃様のこともフィーナたちと同じく大切にしているのだなと十分に察せるものだった。
「大丈夫じゃ。別に妾はそんなことで気にしたりはせん。もともと妾こそ他国の地に土足で入り込んでいるのじゃ。警戒するのも当然じゃろう」
俺は両手を広げて、肩をすくめて見せる。それを見た彼女は一瞬、驚いた様な表情を見せ、そしてすぐにもとの笑顔に戻って口を開いた。
「ふふっ。なるほど、あの二人がなつくのも当然かもしれませんね」
どこか含みのある大人の笑みで彼女は笑う。常に笑顔な不思議な女性。それが俺の目の前にいるリティシアという美女だ。そんな彼女が先程とは違う色っぽい笑みを見せている。美人は何をしても絵になるのだろうか。俺はそのギャップにごくりと生唾を飲み込む。
「ありがとうございますね。───では、行きましょうか。狐さん♪」
彼女はまた同じように微笑む。俺はその笑顔を深く考えないように決め、彼女の後ろ姿を追うように足を踏み出した。
いつもお読みいただきありがとうございます。誤字脱字矛盾点や気になる箇所があれば言っていただけると助かります。
では、次回もよかったらよろしくお願いしますです…。おやすみなさいー…。




