#39,前途多難
あ、ちょっと過ぎましたが許容範囲ですね。
エルフの町は木と共に生きる町である。精霊の力を使える“精霊術士”が現代のビルほどに大きい大木をその術で変化させることで生活空間を作り出し、人族には到底思い付かない多種多様な手段を作り出す。俺たちが乗ってきた“獣篭”もその一つだ。獣篭専用に作られたエアポートなど「見事!」と素直に感心してしまうものであり、巨大な樹木をそのままマンションのように改造してしまうのも、他の種族には思い付きもしないものだ。
まさしく魔術関連、その中でも精霊術に関してはエルフ族は並外れた技術を持っていると言えるだろう。
アストリアの中にある木々随一の一際大きく目立つ巨木。樹齢何千年など軽々と越えるその古の木。その中にこの都市を治める王族の宮殿はあった。
石ではなく木で形作られたその大きな廊下は独特な足音を醸し出す。木に掘られた横穴のような洞窟らしさはまったくなく等間隔に開けられた窓から入る光に寧ろ開放感を覚えるほどであった。
そんな通路を進む一組の者たち。先頭にフィーニア王妃と両脇に一歩下がって付いていく使用人らしきエルフたち。そして、その後にフィーナとエリザ。次いで、俺とラタトスクが着いていく。
いまだに不機嫌な王妃様の影響でギスギスした空気が俺たち一行を取り巻いている。フィーナもそれに感化されているようで、先程から一言も口を開いていない。見た感じ王妃様は厳しそうな性格に感じた。容姿はどこかフィーナと似通ったところがありながらも、内面が異なれば雰囲気もまた異なってくる。二人の性格は俺から見れば正反対のように思えるのだ。
(親子で仲が悪い…? うーん…まだなんとも言えないな)
と、俺は一人で首をかしげる。余計な詮索はしない方がいいか。親子の関係をつつけるような仲でもないし、そもそも親子関係に横やりを入れるなんて野暮というものだろう。そう結論付けた俺は意識を別の方に向けてみた。視界に入ったそれは王妃様に付き従う使用人たちだった。
彼ら…というより彼女らと言った方がいいだろうか。使用人がどれだけいるのか分からないが今付き従っている使用人たちは全員が女性だった。ヘアースタイルはロングヘアだったりポニーテールだったり、個々に違うところはあれど、服装に関しては統一された物のようである。
女性の使用人と言えばメイドを思い浮かべる者たちが多いことだろう。日本では本物のメイドなんて拝めることなどそうそうないが、アニメやマンガなどの二次元になら腐るほど存在する。まあ…それが本物かどうかはさておき。メイドと言えば特徴的なフリルの付いたエプロンドレス、所謂“メイド服”が有名だ。しかし、彼女らはその服装ではなかった。
白い生地のロングドレス。簡単に説明するならそうなる。フィーナのとは豪華さが控え目になっているが、薄さは健在で、腹部当たりで上下に別れるスタイルは同様、ベルトでそれをしっかりと固定して落ちないようになっている。ノースリーブになっているようだが、腕には長い手袋が装着されおり、そして一番目を引くのが顔を隠すように付けられたフェイスベールだ。使用人全てに装着されているようで、それによりぱっと見では全然見分けがつかない。そして、表情も分かりづらかった。
エルフと言えば美形がほとんどであるが、見慣れていない俺には似通った顔が多いように思える。例を挙げるなら日本で育った人が外国で欧米系の顔の判別がつかないようなそんな感じである。顔を半分ほど覆うそれは見事に俺の認識を妨げ、全然見分けがつかないようになっていたのだ。
文化の違いかはたまた進化の違いによるものか。そのルーツは見ただけでは分からなかったが、使用人というよりは踊り子に近い服装であったのだ。
そうこうしている内に目的の場所へと着いたようだ。俺はフィーナたちが入った後に中へと通される。両開きの扉を潜ると、そこは広く、本が大量に保管された一室だった。てっきり俺は謁見の間のような王様に会うための部屋に通されると思っていたのだが、予想が外れて少し困惑する。
図書館…?のようなイメージが一番近いだろうか。真ん中にある書斎机を中心に円状に設置された本棚。どれもが背が高く、取るための梯子が付いたものだった。見た感じ本棚に並んでいるものは全てが年期の入ったもので古めかしい背表紙がところせましと並んでいる。それ以外にも並びきれなかったのか床にも積み上げられた本の山がいくつもあり、整理されてるのかはたまた面倒だから放置されているのか…。ぱっと見、雑多な印象が否めなかった。
「───そこの獣人族」
俺が部屋の様子を窺っていると、唐突に声がかかった。
「む…? 妾のことか」
「ここには貴女しか異種族はいませんわ。本当はここに異種族など入れることはないのですが。今回は特例です。フィーナと話が終わるまでそこで待っていなさい」
その高圧的な口調にはあからさまに突き放す雰囲気が混じっていた。鈍感な俺でも歓迎していないことは端から分かっている。俺は素直にそれに頷いて傍観することにした。
王妃様が椅子に腰掛けると、彼女が目配せして使用人たちを引かせる。この場には彼女とフィーナとエリザ、そして俺とラタトスクのみになった。
「フィーナ。ここに呼ばれた理由は分かっていますね」
「はい。お母さま。誰にも伝えず、カエデさまをこの国に呼んだこと…ですね」
彼女は我が娘に確認するように言う。フィーナはそれにどこか覚悟を決めたような瞳でそう答えた。
「分かっているようね。では、その理由を聞かせてちょうだい」
「はい。───お母さまやお父さまたちに前に一度お話したこと。…覚えておられますか?」
「話…? 人族の町に行ったことかしら」
「はい、そうです。そこでわたくしとフィーネは命を狙われ、ある御方に助けてもらったとご説明したと思います」
「ふうん…それで?」
彼女は机に腕をつき、話を促すように答える。
「その御方が今回お呼びしたカエデさまなのです」
「……」
フィーナがそう言い切ると王妃様は沈黙し、視線を俺に向ける。その瞳は細められ、にわかには信じられない疑惑の感情が色濃く出たものだった。
「信じられないわね。こんな小娘がそんなこと出来るものかしら」
「お母さまっ」
「フィーナは黙ってなさい。古から獣人族は人族の奴隷として扱われてきました。そんな彼らが異種族を助けるなんて到底信じられないわ」
彼女は俺に向けて責める口調でそう言う。
(え…?なんじゃ…奴隷? どういうことなのじゃ)
(確かに歴史上、獣人族は人族に奴隷として扱われることが多くありました。ですが、今は“トウヨウ”のような例もあり、そんな種族差別は減少傾向にあります。エルフ族にそこまで言われる筋合いはない筈ですが…)
(む、うん? そうなのか?)
俺は首をかしげる。また“とうよう”が出てきた。なんなんだ一体…。そういえば聞きそびれていたなと思い出した俺だったが今はそんな場合でもないか。
俺は手を口に当て、考えながらも返答する。
「ふむ…。わざわざ言うつもりはないと思っていたのじゃが。そなたは自身の娘のことを信用できないのか?」
「信用できないもなにも。いきなり現れた貴女を信用できるとお思い?」
「ふむ。確かに道理じゃな」
あーうん。確かに見ず知らずの誰かが突然現れ、娘が知り合いです!って言っても信用出来ないよな。
その上、獣人族は奴隷だという固定観念まであれば、信頼を得るのはなかなかに厳しいだろう。さて…どうしたものか。
「───あらあら~。ややこしい話になっていますねぇ」
緊迫した空気。それを破るように場違いな声が響き渡った。大声を出した風でもなく、どちらかと言えばほんわかとしたのんびり口調。そんな声が不思議と皆の耳に届いたのだ。
「リティお義母さまっ!」
緊張し張り詰めていたフィーナの顔が緩む。一番先にその人物に向けて声を出したのは彼女であった。
「あらあら~。フィーナちゃん。大丈夫? 酷いことされてない?」
「…自分の娘に何かするわけないでしょう? わたしを何だと思っているの。リティ」
リティと呼ばれた彼女はフィーナに駆け寄ると心配そうに様子を窺う。それを初めて表情を崩した王妃様が口角をひきつらせて言い返した。
「ふふ…。そうですね。フィーニアちゃんは自身にも他人にも厳しいですけど、我が子には甘いですものね?」
「……貴女、わたしに喧嘩を売っているのね? そうよね?」
あの高圧的な王妃様が額に手を当て、プルプルと震えていた。手では隠しているが、頬が赤く染まっているのを隠しきれていない。
そんな王妃様をも手玉に取る彼女。手を頬に当てコロコロと笑顔を振り撒くエルフの女性は、麗しい美女だった。
ウェーブのかかったセミロングの髪を靡かせ、フィーナとは違う青のドレスを纏う熟年の美女。エルフのため年齢は見た目では判断できないが、そんな雰囲気を漂わす、穏和そうな女性だった。
(な、なんだと…っ!!?)
と、そんな彼女を見て俺は目を見開く。俺は驚きを隠せず耳をぴんっと立たせ尻尾を振る。まさか…まさかこれほどのものと出会えることとなろうとは思いもしなかった。さすが異世界。さすがエ◯フ。俺は感激の言葉を心の内だけで反芻しながら人知れずガッツポーズをする。
そう。俺が感動しているのはまさしく男のロマンといえる女性の象徴。───おっぱ◯。別名、双丘。
彼女のそれはとにかくデカァァァッッ…かった。そう、巨乳と言われるそれが目の前に現れたのだ。男の俺としては目が釘付けになるのは致し方ないことと言える。あ、今は女性だった。
「ふふ。さてさて。ここには初対面の方も居られますし、先に自己紹介をさせてもらいましょう」
俺がそれに目を奪われている隙に彼女は俺に近づいて来ていたようだ。目の前でそう言われた俺はその声で我に帰る。
「私はリティシア・ブルーム・エレクトラ。親しい方からはリティと呼ばれております。よろしくお願いしますね♪可愛い狐さん」
突然現れ部屋の空気を荒らしまくった、聖母のように微笑む彼女。俺にはその笑顔が不敵なもののように思えてならなかった。
いつもお読みいただきありがとうございます。誤字脱字矛盾点や気になる箇所などあれば言っていただけると助かります。
今回もお読みいただきありがとうございました。では、またえーと…来週お会いしましょう。たぶん。眠たいので手早く帰ります。おやすみなさい~。




