【閑話】彼女の心情
こんばんは、よかった投稿できました。
エルフ族の王族と言えば、何千年も続く古からの名家たちのことである。中には長い年月で廃れてきたものもあれば、大きな名家に吸収されたものもあった。人族よりも寿命が長い分、その歴史も長くそして、国の根幹に犇めくほどにそれは深いものとなっていた。数多の名家の中で一際大きくその名を広めたのが、アストリア王家であった。その家系は代々国の基幹とも言える都市を治め、政権を握り都市の行く末を決めてきた。その行為はエルフ族全体の指揮を担ってきたとも同義だろう。
現在の王たる“フィーゼ・アストリア”は可もなく不可もなく、何か突出して優れたものもなければ、それでいて悪いわけでもない。どちらかと言えば荒事を嫌い、平静な世の中を好む人物である。だからこそ、エルフの国には長らく平穏の時代が訪れているのだろう。
その妃である“フィーニア・フローラ・アストリア”は精霊学に精通する学者である。精霊学の第一人者で有名だった彼女は探究のためならなんでもする謂わば、研究の虫と有名でもあった。そんな彼女と国王フィーゼが結ばれたのはなかなかどうして奇妙なもののように世間には写ったものだ。
そして、フィーゼとフィーニア。その間に生まれたのが、第一王女たる───“フィーナ・フィオーレ・アストリア”であった。
◆◆◆
国の外に出るのはこれが初めてのことでした。鎖国ぎみのわたくしたちエルフ族は森から出ることを良しとはしません。ですが、いつかは外の景色を、世界をこの目で見てみたいと…常々思っていました。まさかそれが…このような事態になるとは夢にも思っていませんでした。
“天魔の群れがエルフの国に接近中である”
そう聞かされた時、わたくしは自身の耳を疑いました。天魔と言えば幼少のころから聞かされていた危険な魔物たちのこと。よく絵本や童話にも勇者の敵として描かれいた物たちが、よもやわたくしたちが生活している森を蹂躙しようと迫っているなど…到底信じれる事ではありませんでした。その上でお父さまから拝命した命。それは“人族の町へ行き、援軍を依頼すること”。表情を変えず、淡々と言う父親の言葉がこの状況がどれほど切羽詰まっているか計り知れるものでした。
わたくしと妹のフィーネは一緒に故郷を出て、人族が統治する町へと向かいました。
国から出てからと言うもの、頼れる人のいない心細さと自身が突然背負うこととなった責任に不安と心配が何重にも積み重なり、緊張に固くなる表情をどうにかしようと気丈に振る舞うのが精一杯でした。
結論から言って、わたくしは甘かったのでしょう。守られた平穏で何不自由なく生きてきたわたくしは自国から出ることが、これほどまでに危険を伴うものだと…この時のわたくし自身にはまったく理解できていなかったのです。
「───フィーネっ!どこにいるのですか!出てきてくださいっ。フィーネ!!」
わたくしはただ声の限り叫びました。つい目を離した隙にフィーネが見当たらなくなってしまったのです。募る焦燥感に苛められながら。わたくしがついていながらなんて体たらくなものだと、自虐に後悔を重ね。見知らぬ森の中を探して、捜して、さがして、走りました。
鬱蒼とした森の中、日が木々に遮られる中で焦りと不安と後悔が入り交じったわたくしは目尻に涙を溜めながら休憩も挟まずに捜し続けました。森の薄暗い暗闇がもっとも最悪な展開を思い出させ、恐怖をも助長させていました。わたくしの心はもう限界だったのです。
その時です。
聴覚に優れたエルフ特有の長い耳が、一つの声を捉えました。
「───…わら…の…あい……が━━━…っ!!」
どちらかと言えば悲鳴とも捉えることもできる声でしたが、わたくしにはそれにすがるしか道はありませんでした。わたくしは疲れた足に鞭を打ち必死にそちらに向かって駆け出しました。
その出会いは果たして運命だったのでしょうか。それともただの偶然だったのでしょうか。
そこは天から降る溢れ日が一ヶ所に溜まったような日だまりの中にある場所でした。
見つけた人影は奇妙な格好の女性とその女性と話す小さな白銀の竜でした。後から分かったことですが、彼女が身に纏う民族衣装はあの“トウヨウ”と言われる『人間としての名誉、権利・自由を認められず、他人の所有物として取り扱われる人々』が作り出したと言われる隠れ里の服装でした。
エルフ族の中ではそれほど広まっていないにしろ、本来なら近づくことも忌避してしまう身なりだったのです。しかし、わたくしは一抹の期待と不安を抱えながら、彼女たちに声をかけました。
そして、わたくしは振り返った彼女を見て息を飲みました。その狐の女性は…それはそれは美しい少女だったからです。
自身よりも少し背が高いからでしょうか、スラッとした体躯にバランスの良い胸部、狐族特有のボリュームのある尻尾に頭の上の大きな耳が時折揺れ動くのが可愛らしいです。体つきもさることながら、その容姿も獣人とは思えないほど繊細で、少しつり上がった紅の双眸はその凛々しさを際立たせ、頭の後ろの高い位置で結ってある茶の髪は腰先で風に靡いていました。その瑞々しい髪は日光を跳ね返しキラキラと輝いているように見え、どこか別世界から来たかのような可憐な佇まいにわたくしは衝撃を受けました。
エルフ族は他種族より美形が多いと良く耳にします。しかしながら、彼女はそれに劣らず、どちらかと言えば勝るほどの美貌だったのです。
高飛車な独特な口調に反して、優しい笑みを湛え、彼女の自信が作り出す雰囲気がわたくしにとって頼みの綱たる頼もしい存在だと教えてくれていました。
『心配無用じゃ。そなたの妹は妾が見つけてやろう』
そう言って差し出された彼女の右手が、一人で負の感情に押し潰されそうだったわたくしに希望の光を与えてくれたのです。
それからと言うもの、わたくしは人族の町で別れるまで彼女に幾度となく助けてもらいました。自身の命だけではなく、わたくしの妹のフィーネまでも助けだして…。そして───
「赤い狐の魔獣…ですか…?」
“伝達石”の裏側で肯定を示す頷く声が聞こえました。
人族の馬車の中でわたくしは父親たる“フィーゼ・アストリア”と連絡をとっていました。
今は馬を休めるため少々の小休憩を挟んでいる時間帯です。馬車の中にはわたくしとフィーネしか、いませんでした。
お父さまは“天魔”との戦いを一部始終教えて下さいました。その中にあった気になる言葉をわたくしはつい反芻するように呟いてしまいます。
(赤い狐、ですか…。まるでカエデさまのような…響きですね…)
わたくしの脳裏にはある一人の人物が思い出されました。わたくしとフィーネを助けてくれた命の恩人です。しかしながら、わたくしの考えではそれは有り得ないことだと訴えかけていました。だって、彼女はわたくしたちが出発する直前に別れたところ。隔てる森を抜けるとしても何日もかかるエルフの森へ行き、その上“天魔”を殲滅するなど。常識的に考えて出来るわけがありませんでした。彼女の力なら天魔と互角以上に戦えるかもしれませんが…そもそも瞬間移動でもしない限りはその場所にすら行くこともできないでしょう。
違うと頭では首を振っても、わたくしの心は納得せず、ただ自身の胸中に痞が残るだけでした。
「───おねぇちゃん」
そこへ服の袖を引っ張る存在が一人。それは、わたくしの妹、フィーネでした。
「ん?フィーネどうしたの?」
わたくしは隣でちょこんと座る可愛らしい彼女に視線を合わせそう訪ねます。
「カエデおねぇちゃんが…助けてくれたの?」
わたくしは言葉を失いました。フィーネがそんなことを開口一番に言うとは思っても見なかったからです。
「…なぜそう思うの?」
「カエデおねぇちゃんなら…そうするとおもうから」
「───っ!」
理由は分かりません。わたくしはその言葉に納得し、胸の痞が取れたように思いました。
フィーネが言った答えには根拠も証拠も納得性もないように思えます。しかし、彼女と一時だけですが過ごしたわたくしは彼女の優しい性格に触れ、助けてもらった経験がありました。自分自身、不思議なほどにすとんっと溜飲が下がる感覚を覚えたのです。
わたくしは思いました。もし彼女がまだ力を隠していたとしたら…。もし彼女がそれを可能にするほどの力を持っていたのならば、どうするだろうかと。
真実がどうであれ、彼女は自身を助けてくれたことは代わりなく、もし彼女が本当に祖国を救ってくれたのならば───それに礼を介すのはエルフの王族として当たり前のことでしょう。
(それに…わたくしも、もう一度カエデさまに───)
“天魔”との戦いが終われど、わたくしにはまだお父さまに頼まれた役割が残っています。ならば、信用できる誰かに頼むしかありません。
善は急げと人知れず手紙を認めたわたくしは、見られないように馬車を抜け出し、自身の“従属精霊”であるリブラを呼び出して使いを頼みました。
リブラは快く受け入れてくれ、彼女は頷くとまだ暗い空に飛び立っていきました。
わたくしはその様子が見えなくなるまで見守り、一つ深呼吸すると気持ちを改め踵を返しました。どうかあの方に届くよう心の内で祈りながら…。
いつもお読みいただきありがとうございます。誤字脱字矛盾点など気になる箇所があれば言っていただけると助かります。
今年最後の投稿となりました。閑話で終わってしまうとは…。まあ仕方ないですね。
もう今年も今日で終わりですね早いものです。来年はもっと楽しくなればなぁと思います。まあ今年は楽しかったのかと言われればそうでもなかったのですが…。何か打ち込めるものとか…ないですかね。どこかに大金でも落ちてませんかね。まあ、落ちてたところで怪しすぎて拾えませんが。
はい。なぜか凄い脱線しましたが、今回もお読みいただき本当にありがとうございました。来年になれば何が変わるとも言えませんが、少なくとも今年よりも良い年になりますように…人知れず祈っております。では、また来年もよかったらお読みください。皆さま良いお年を!




