#37,再会
こんばんは。遅れずに投稿するのも久しぶりな気がしますね…。
ズンッと重い音が辺りに響く。それに続いて羽ばたいていた大きな獣が二匹、地面に降り立った。
頑丈に作られた閂を開け、開いた扉をアリウスに続いて俺が潜り抜ける。
そこは木が伸ばした一本の枝を利用して作られたエアポート。エルフたちが扱う“獣篭”専用に作られたもののようで、降下場所はちゃんと高低さを付け、ちょうど菱餅のような形状で数段高くなっていた。広さは大きな獣二匹と篭が降りても十分余裕があるほどで、現代技術もないこの世界で良くここまで作れたものだと内心感心する。
平らな場所は鋭利な刃物で切り取って作られたものではなく、木の幹のまま、焦げ茶色の皮のまま、平らになっている。まるで木自らがその様な形になったかのような出来映えだった。
「凄いのぅ。これは魔術で作ったのか?」
俺は感嘆の声を上げ、物珍しそうに辺りを見回す。俺の質問にアリウスは人の良さそうな笑みを浮かべてそれの答えを教えてくれた。
「“精霊術”を使っているんですよ。ここまでに見た木の住宅も切り株の広場も螺旋階段も大体全てが精霊術で変化させたものなんです」
“精霊術”───それはエルフ族のみ使える術技のことで、精霊と契約し、自身の従属精霊となった精霊を使役して発動させる魔術の一種だ。
“ファンタジックワールド”には何種類かのジョブと言うものがある。“人に害する魔獣や魔物に抗うために女神が人類に与えた祝福”それがこのジョブというものの認識になっているらしい。これは密かにラタトスクに教えてもらった情報だが、ゲームの物語上でも似たようなことを言われた気がする。例外はあるだろうが…この世界ではゲーム上の設定がそう言うことだと認知されているようであった。
その中で精霊術を扱えるのは“精霊術士”のみである。最強のジョブである“魔術士”の派生ジョブに当たるものだが、必要条件がエルフ族のみでしか選択できないものだった。
エルフ族は一番精霊に近い種族である。ゲーム時には面倒な条件だなと思っていたものだったが、それが本物の現実となれば、それは理にかなっているのだろう。
(精霊術ってこんなに汎用性があったのか。確かに能力で木を伸ばしたりする技はあったが…)
俺はこの場所をぐるっと身体ごと回転させてもう一度しっかりと見回してみる。
ゲームの知識を照らし合わせて確認してみるが、さすがに使ったこともないジョブを事細かに記憶しているほどの頭脳はない。残念ながら覚えているのは、“敵として相対した時にどう対処するか”ぐらいであった。“符術士”ほどの不人気とまではいかないが“精霊術士”も人気とは程遠いもので、“魔術士”ほどに強力で目立つ魔術もなく、どちらかと言えば地味なものが多かったこのジョブはあまり日の目を浴びることはなかった。基本的に後衛で支援役になるジョブだ。言ってはなんだが派手さもないジョブが人気になることはまずないだろう。
まるでファンタジー映画にでも迷い混んだかのような光景。まあ実際そのような状況だが…これはその精霊術が作り出した都市なのだ。スポットライトが当たらなかった地味な精霊術がここまでの景色を作り出すとは…。“精霊術”は主に自然に作用するものが多かった。それを踏まえればこの景色は確かに、それが作ったものなのだと納得できる。俺は驚きを隠せなかった。
巨大すぎる木の太い枝に俺は今、立っていて。そこは学校の運動場でもすっぽりと入るぐらいに広い。ここからでは地面を確認できないが、横切っていく風たちがここが高所にあることを教えてくれる。瞳を閉じれば高層ビルの屋上にでも立っているかのような錯覚に陥る。現実離れした現実が俺の回りに当然のように鎮座していた。
(な、馴れねぇなぁ…。これじゃあ何処に行ってもおのぼりさんみたいになってしまいそうだ)
実際におのぼりさんなのだから仕方ない。この世界では俺は何も知らない田舎者と同じだ。目新しいものに目が引かれ、興味が湧くのは致し方無いだろう。
“アルバ”でもファンタジー要素はたくさんあった。たが、まだ住人が人族であったり、木製の建物だったり、馬車だったり、人の生活が滲み出ている町並みにはまだ理解できるところはあった。が、ここエルフの国はまるで違う。文化も文明も人種も生きる環境も、全ての起点が異なれば辿り着く形も違ってくるのだろう。ここには異世界人の俺にはどう考えても理解できないものがいくつもありそうであった。
俺はアリウスの案内で、枝の付け根である巨木に向かって一歩を踏み出す。
一歩一歩近づいてくる巨木は見上げても先が見えず、辛うじて上空で枝分かれしているのがわかる程度だ。つい、いつも見ている樹木と比べてしまうが大きさが月とスッポンほどに異なる。考え込んでしまえば距離感が曖昧になってくるほどだ。スケールの違いに囚われながらも、足を動かして俺は遅れまいと先を急ぐ。
ようやく付け根に辿り着くとそこには大きな両開きの扉があった。それも“精霊術”で変化させたものなのだろうか。壁のように聳え立つ大扉は、その大口を開け、来るものを呑み込まんと開口している。その扉の前に二つの人影が見えた。ここからでも大柄で大きな重鎧を身に纏った兵士だと分かる。その一人が俺たちを認めると鉄兜を脱いで声を上げた。
「───おう!アリウスじゃねえか!やっと帰ってきやがったかっ」
「ディアスか。何故君がここに?君ほどの戦士が警備を担当するとは…」
アリウスは少し驚いた表情を顔に浮かべながら言う。快活そうなその男性はガハハッと盛大に笑ってこう切り返した。
「いやな?数日前に“天魔”と殺り合っただろ?その時の命令違反に目をつけられちまってなぁ」
「あの独断専行のことか…」
アリウスは思い出したように小さく呟く。
「だが、あれがなければハイエルフ殿の策も頭の固い長老会に反対され、受理されなかった。必要なことだった筈なのだがな…」
「がははっ。そう言ってくれるのはアリウス、アンタだけだぜ。まあ何はともあれ生きてたから良しだ」
そう言って彼は無造作に切られた金髪を掻いて恥ずかしそうに笑う。
「それよりも…───そっちのきれぇな嬢ちゃんはどうしたんだ??」
彼は話を変え、視線を傾けて俺を見やる。突然掛けられた声に俺は対応できず、仮面をわざわざ頭の上でスタンバイさせていた甲斐もなく被ることが出来なかった。
「そうだな。紹介しよう。こちらはカエデ殿だ。故あってアストリアに招くことになってな。“獣篭”でここまで来てもらったのだ。──カエデ殿。こちらは第三師団の師団長のディアス・マルスです。厳つい顔ですが、優しくて頼りになる御仁です」
「がははっ。持ち上げてもなんにも出ねぇぞアリウス。まあとにかく、よろしくだな。仮面の嬢ちゃん」
「う、うむ。こちらこそよろしくのぅ」
大声で笑う豪胆そうな彼に少し気圧されながら俺も負けじと挨拶を返す。
「おいおいアリウスよぅ。こんなべっぴんさん連れてくるなんてなぁ。この女たらしめ」
彼はにやけ顔になると、アリウスの肩を抱き、強制的に引き寄せてから声を潜めて囁く。聞こえないように配慮したつもりだろうが、もとが大声なのであまり意味はない。そんな彼にアリウスは溜め息をついてから返答した。
「ディアス…何か勘違いしてないか?彼女はな────」
と、彼が事情を話そうとした時だった。
────カエデさまっ!!──────
美しいソプラノの涼やかな美声が鼓膜を叩く。振り向けばそこには二人のエルフがいた。一人は桃色の髪が特徴的な少女。そして、もう一人は──金の長い髪を靡かせ、美しい顔をパァと輝かせた少女。その少女がこちらに駆けて来る様子が視界に写る。
ぽふっ───
と、俺が反応する前に胸に何かが当たる感触がした。慣れない感覚に尻尾が反応するが、きゅっと俺の背に回した少女の細い腕が少しの身動ぎすらも拘束する。
「…むむ??」
そんな状況で出たのは、そんな素頓狂な声だった。目をパチパチと瞬かせる俺は相当間抜けな顔になっていただろう。
彼女の身長は“カエデ”よりも頭半分ほど低い。その為、彼女の煌めく髪が俺の目の前に突然現れたように感じた。俺の思考がこの急展開にようやく着いてきたのはこの時であった。
───風が吹く。
涼風に撫でられた髪が揺れ、ふんわりと女の子特有の香りが目の前を漂う。行く宛てなく虚空を掴んでいた両腕が彼女のさらさらの髪に触れる。それはシルクのように滑らかで軽く、手入れが行き届いているようで、手からスルスルと自然に抜け落ちるほどに艶やかなものであった。髪は女性の命と言うがこれこそがまさに本物の宝物であろう。
たっぷりと一分ほどは抱き合っただろうか。目の前の美少女はそのまま顔を上げ、上目遣いで俺を見上げる。ヤバい…鼻血が…。
「ようこそ…ようこそおいでくださいましたっ。カエデさま♪」
一輪の花を咲かしたような華やかな笑顔を湛えるエルフの美少女。
エルフの国の最大都市、アストリアの姫君。“フィーナ・フィオーレ・アストリア”はそう言って俺を歓迎した。
いつもお読みいただきありがとうございます。誤字脱字矛盾点や気になる箇所があれば言ってくださると助かります。
そういえばクリスマスですね。こちらは相変わらずクリボッチなので悲しいです。
今年は来週で投稿最後となります。たぶん。といってもギリギリな気がしますがよかったら見てみてください。
今回もありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。




