#4,エルフの少女
始まりの町。ゲームでは新米プレイヤーが初めて降り立つ町である。冒険者ギルドや商業ギルド、騎士団の駐屯地や教会など多岐に渡り集まる帝国と王国の中間地点。しかし、今は時は流れ戦争時代から五百年後の世界。戦争していた時と違い平和な時代が続いている。戦争時は大きな顔をしていた騎士団も肩身が狭くなったようで今では冒険者ギルドがこの町を牛耳っているようだ。
その町の北側。北の森と言う安直な名前の森林に悲しそうな声が細々と響く。その声は綺麗なソプラノで鈴をならしたような涼やかな声色であった。
「ううう…わっ妾のっ妾の~霊符がぁ~アイテムがぁ~…うっうう…ずびっ」
『えーと…カエデさん?カエデさーん?聞こえていますか~?』
「ううう…ずびっ…」
『聞こえていないようですね…』
アイテムが無くなったのが相当ショックだったのだろう。彼女は地面に這いつくばりメソメソと泣いていた。その際いつも元気良く振っていた尻尾も垂れ下がり凄く悲しそうだ。
『…………(ガシッ)』
「ぴゃう!?!?」
それを無言で見ていた仔竜はその尻尾に勢い良く噛みつく(甘噛みです)。
それに彼女は可愛らしい奇声を上げ飛び跳ねるようにして起き上がる。
『いい加減にしてくださいカエデさん。貴女のレベルなら何も問題はないでしょう。レベルマックスですし』
「そっそんなことは関係ないのじゃ!妾の!妾のアイテムが!妾の努力が!!あと尻尾を触るでない!」
『努力ならレベルや装備もあるでしょう。それで我慢してください』
「うぐぐぐ…」
俺はその有無も言わさない態度に唇を噛む。
「なら、この妾の口調はどうにかするのじゃ!!そして服装も!凄く恥ずかしいのじゃぞ!!??」
俺は我慢していたことを一気に吐き出す。若干悲鳴のようになってしまったがもう我慢の限界だったのだ。口調は何にしても服装がやはり我慢ならない。どんな服装かと言えば…簡単に言ってしまえば鮮やかな赤い着物である。しかし、この際はっきり言おう。…エロのだ…。
この着物…普通の見た目ではなく。チャイナドレスと着物が合体したような形になっている。チャイナドレスといえばスカートにスリットが入り足が見えているのをイメージするだろう。…まさにそれである。この着物は前垂れのようなもので前を隠しているだけでスラッとしたおみ足が丸見えだったのだ。それだけではない。このエロ着物…袖の部分と肩の部分とが別れているため白い肌が見えており、胸から上が……ない……………いや!!胸は隠れていますからね!?ちゃんと隠れてますよ!?勘違いしないように!胸半分から上がないんです!!
───まったく誰がこんな服装させたのやら…。
『??? そう言われましても…それは貴方が選んだものですよね?』
…………俺でした………。
『口調も貴方の設定通りに入力してあるので文句はないと思っていたのですが…?』
「うぐぅっ!?………まっまさかあの設定を丸々…?」
『はい。婆言葉とか偉そうだが実は恥ずかしがり屋だとか耳と尻尾が敏感だとか油揚げが好物だとかその他諸々…』
「ふぎゃぁっ!!!???そっそれ以上は言ってはならぬっ!ならぬぞっっ!!妾の黒歴史をほじ繰り返すでない!!」
『はっはあ……??』
俺は頭を抱えて悶え苦しみ。それに仔竜は首を傾げるばかり。
実はこのゲーム…マイキャラを作る際に設定を付け加えることが出来るのだ。その時に俺は自分好みにしようといろいろと弄ってしまっていた…。まさかこんなところでこんな形で、自身に帰ってくるとは思いもよらず…。
『ごほん…。まあ、そこら辺は心配せずとも慣れていきますよ。それよりも本題の方に戻りたいのですが…』
「うう…慣れるとかそれはそれで嫌なのじゃが…。分かったのじゃ…」
仔竜はそう言うと話を戻して話始める。
『ここに貴方を呼んだ理由は先ほど説明した通りですが…勘違いしないように言っておくと召喚したのは女神様で私はただのサポート役です。女神様と言えばこの世界の創造神。その女神様からこの件は内密に探ってくださいとのこと。どうしてもの時は仕方がないですが…目立つことは避けるようにお願いします』
「うっうむ…内密にか…。しかし、プレイヤーは本当に妾だけなのか?流石に妾だけでは限界があろうに…」
『はい、女神様が選んだのは貴方一人のみです。確かに限界はあるでしょうが、その為の私でもあります。戦いは出来ませんがその他のサポートはこちらにお任せ下さい』
「むぅ…」
俺は何ともなく納得できずに唸るばかり。先ほど聞いた限りでは偶々だと言っていたがそれもまだ納得出来ない。確かに俺は弱い訳ではない。どちらかと言えば強い方に入るだろう、しかしだ。俺よりも上なんてたくさんいたのだ。選ぶなら一番強いプレイヤーを選ぶ筈だろう。偶々なんてそんな出来た話…本当にあるのだろうか…?人選ミスのような気がしてならない…。
『後、九尾やエルフ、魔族などの長寿の種族には極力接触を避けて下さい』
「? 何故じゃ?」
『渡り人と露見する可能性があるからです。女神様からは内密にと言われていますので正体を明かすのは最小限に止めて下さい』
「ふむ…なるほど。五百年前ぐらいなら長寿種族は覚えている可能性があるということかの…。いやしかし…プレイヤーはたくさんおったのじゃぞ?妾を覚えている筈がなかろう?」
俺は両手を広げ首を傾げる仕草をする。プレイヤーは何千何万もの人数がいたのだ。覚えている方が可能性は低いと思うのだが…。
『それは…どうでしょう。とにかくそう言うことは気をつけて下さい。用心に越したことはないので』
「仕方ないのぅ…分かったのじゃ」
俺は念に念を押す仔竜に肩をすくめて答えて見せる。そこまで用心する事なのか疑問ではあるが。
────あの…すみません。少しよろしいでしょうか?────
「む?」
『??』
俺たちはその声に二人して首を傾げる。一人と一匹?は同時にその声の方へ顔を向けその存在を確認した。
「突然申し訳ありません…急いでいたもので…。…あっ怪しいものではありませんよっ」
深緑のフードを被りローブで身体全体をすっぽりと覆い隠しているその人物は両手を振り慌ててフードを外して正体を現す。
…それはそれは美しい容姿であった。ここまで均一に整った相貌は見たことがない。金色に煌めく髪は少しウェーブがかかり背中辺りまで伸びておりさらさらと流水のように揺れている。少し垂れ目なエメラルドのような瞳は澄みきっており、陶器のような白い肌に仄かに桃色に染まった頬が目立つ。彼女はそのさくらんぼのような唇を動かし言葉を紡いだ。
「えっと…わっわたくしはエルフ族のフィーナと申します。少し御聞きしたいことがあるのですが…」
そのフィーナと言う美少女はその金の髪から耳がツンッと突き出た特徴を持っていた。要は…耳が長かったのだ。