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レベマで駆け抜ける異世界転生!!  作者: 真理雪
第3章・森の旅人
34/51

#32,エルフの地へ 3

 迷走中です。


 第二師団団長、アリウス様へ


 こんな簡素な手紙で申し訳ありません。(わたくし)もこれで手一杯で…彼女を送り出すほかありませんでした。


 これは急ぎの依頼です。いえ、それでは語弊がありますね。これは私の───我儘です。


 要件は人探しとその御方の招待。


 その御方は獣人の年若い女性で、赤い民族衣装を着ていらっしゃいます。お名前はカエデ様です。大変美しい容姿でお優しい心を持っております。私とフィーネはその御方に命の危機から救ってもらったのです。謂わば彼女は命の恩人です。

 私が訪ねた“アルバ”と呼ばれる町に冒険者ギルドと言う集まりがあります。それが私が御世話になった組織なのですが…そこを訪ねればカエデ様の行方が分かると思います。


 お父様からそちらの情勢とアリウス様のことは聞き及んでおります。Sランク級の天魔と戦ったそうですね…。それでも命には別状はないと聞かされてほっとしました。そんな貴方様にこんなお願いをするのは心苦しいのですが…。貴方様にしか…頼めないのです。

 私は今人族の都の一つ、帝国へ向かっています。そこでは我が国との同盟を持ち掛けるつもりです。上手くいくかは分かりませんが…。


 どうか…どうかよろしくお願い致します。私はあの御方にもう一度会わなくてはいけないのです。



              フィーナ・フィオーレより







 そこまで読んで俺は顔を上げた。荒い紙質に細い黒のインクで書かれた手書きの書簡。綺麗な文字をつらつらと綴られたそれはフィーナがアリウス宛に送った依頼の手紙だった。


 (そういえば…何で俺は文字が読めるんだろう…)


 ふとそんな事が頭を過った。


 見た感じではアルファベットの筆記体に良く似ているように思える。たが決して元の俺は英語が出来たわけではなく、中学生の英語で四苦八苦するほどであったのだ。何が言いたいかと言うと英語に似ていたからと言っても読めるわけでも話せる訳でもないと言うことである。ここまで自然に話せたので疑問にすら思わなかったのだが…後でラタトスクに聞いてみる方が良さそうだ。


「カエデさん?」


「む?」


「どうでしたか?」


 タマネさんが首をかしげて俺を見やる。ああ…そういえば彼女はエルフの言語が読めない為、かわりに俺が確認することになったのだった。彼女が読めないのはなんだか意外ではあったが、エルフ族の言語を理解しているのは極一部の人たちだけらしい。“ヘルメス条約”とはそれだけ強固な条約だったようだ。それだけに簡単に破ってしまった帝国が嫌に気になってしまう。何か帝国を動かすだけの理由があったのか、それともただの気紛れなのか…。あれだけ巨大な大国である。皇帝の気紛れだけだとは思えないのだが…。


 それはさておき。俺は考え込みそうになった思考を中断し、彼女へ視線を向ける。


「確かに、これにはフィーナ…姫殿下?からの手紙じゃろう。妾の名も出ておるし、間違いないのぅ」


 そう言って俺は手紙を律儀に畳んでアリウスに手渡す。


「では、これで信じてもらえたと思ってもよろしいでしょうか?カエデ殿にタマネ殿」


「はい。こちらとしても大体の経緯は理解しました。しかし────申し訳ありませんが少しの間お待ちいただいてもよろしいでしょうか?少々こちらで整理させてもらいますので」


「わかりました。こちらとしても急な事で戸惑ってしまうのも無理もないと思います。お待ちしております」


 アリウスは快く頷き返す。それを見たタマネさんは席を立って「失礼します」と一礼する。

 

「カエデさんも来てください」


「む?妾も?──ってわわっ引っ張るでないっ」


 関係ないだろうとたかをくくっていた俺は彼女に何故か連行され扉を隔てた廊下へと連れていかれてしまった。


「いきなりなんなのじゃタマネ。驚いたじゃろ」


「驚いたのは私の方ですっ」


 先程のクールだった彼女とはうって変わりタマネさんはぐいっと俺に顔を近づけてこう言う。


「王族からの招待。これがどういう意味を孕むか御存じですか?」


「む?……む?」


 俺は一度考えてから答えを出す。…分からん。


「招待だけならまだ分かります。ですが、今重要なのはエルフの王族だと言う点です。何百年も続いたヘルメス条約が撤回され、エルフ族と人族がまた手を結ぼうとしています。そこへ獣人の貴女が王族に招待される。とすればどうなるか…?世間から見ればこれがどう映るか…分かりますか?」



 “エルフ族が人族を裏切った”“エルフ族は獣人族と手を結んでいる”“エルフ族の裏には獣人族がいる”……



「どれも根拠がなく、考え過ぎ、思い過ごし、杞憂でしょう。ですが、民衆の考えは一つではありません。何百何千と人がいるのですから。神経過敏なぐらいが丁度良いと言えます」


 まだこれが人族とエルフ族が同盟を結んでからなら良かったのだ。今の現状ではエルフ族が人族の裏をかいて獣人族と手を結んだと…それがどんな理由であれ裏切りに見えてしまえば、それが正解になってしまう。少しの偏見でどんな形にも見えてしまうのだ。今現在の情勢は揺れ動く天秤の上で奇跡的に釣り合っているに過ぎないのだ。


「め、めんどくさいのぅ…」


「それが政策と言うものです。貴女を悪く言うつもりはありませんが…せめて“トウヨウ”の方ではなかったら良かったのですが」


 彼女はその整った眉をひそめて言う。その言葉に俺は少し引っ掛かった。


 (───“東洋”??)


 はて?聞き慣れない言葉だ。“ファンタジックワールド”に出てきた言葉だろうか。聞いたことがあるような気がするし、ないような気もする。頑張って頭を捻ってもこの短時間で出てきてくれるような言葉ではなかった。


 (ぐう…分からないことだらけだな。ここは怪しまれないように突っ込まないでおこう)


「仕方ありません。今回はどうにか外に漏れないよう対策するしかないようですね」


 彼女は悩んだ末にそう結論を出す。俺が招待に応じるとしても断るとしても、どこからともなく情報は流れ出るものだ。今ここには自分たちしかいないが…絶対ないことなどない。俺たちを見た人の中で何かを勘づいた者がいたかもしれないし、受付嬢たちの中で噂話にでもなっているかもしれない。まあどれも可能性の話だが、ゼロではないことは確かだ。


 (ホントにもう…。めんどくさいな…。自業自得だけど)


 話を打ち切って部屋に入っていく彼女を尻目に俺は心中で毒づくことしか出来なかった。




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