【閑話】裏側で
唐突に閑話投入。こんばんは。
「はぁい、タマちゃん。元気かしら?」
ガタゴトと騒音の中、男性が妙に高い声で言う。
『───元気だと思いますか?』
「うーん。ご機嫌斜めねぇ…。どう?今度ご飯でも。奢るわよぅ?」
『では、クロネコ屋で宜しくお願いします』
「ええ!?ちょ、ちょっと高級食専門店じゃないの!!流石、タマちゃんっ容赦ないわね!!」
『では、要件をお聞きしましょうか。こちらとしても暇ではないので』
タマちゃん…もとい、“アルバ”の副ギルドマスタータマネ・アクアリウスは人族の中では貴重品である“伝達石”の後ろで上司であるギルドマスターの言葉を待つ。彼女の言葉には面倒なので早く終わらしてくれと言う意図がありありと見てとれた。しかし、マダムはそれに気づいていないのか、はたまたわざとしているのか、悠長な口調で話始める。
「で?“カエデちゃん”はどうかしら?」
『今のところは何も。ですが、やはり“魔女”を退けたところから見ると…ただの獣人ではないでしょう』
二人が話に挙げた共通の人物。それは、エルフの王女と共に訪ねてきた獣人であった。獣人ならば今では何処にでもいる種族だ──珍しくはない。珍しさで言えば“王女様”の方が当然上回る。しかしだ。その狐の獣人には二人が目をつけるほど特徴的な箇所があったのだ。独特な口調に目立つヒラヒラの“トウヨウ”の民族衣装。口調は人それぞれだが、“きもの”と言われるそれはここいらではほぼ見かけない代物だ。当然、ギルドの頭たる二人は見たことがあるものの…そもそも“トウヨウ”と言われる場所事態が特殊な地域の為、見たことのない者たちの方が多いだろう。知らない人間からすれば派手な衣装だなと思われるだけで深くは考えない筈である。
「獣人も…今では珍しくもないけどねぇ。あそこまであからさまだとねぇ」
マダムはそう言うと背もたれに腰掛けながら窓の外を眺める。車窓から流れていく景色に少しでもリラックス出来たらと思ったのだが、車輪から響く音と振動が邪魔してとてもではないが気をまぎらわせられなかった。舗装された道だと言っても、ゴムもサスペンションもない時代だ。振動で腰を痛めたなんて日常茶飯事なのだ。
『そうですね。ですが、こちらとしては強引に聞き出して機嫌を損ねてしまうのも…。それに私たちには彼女に恩もあります』
「“魔女”を退けたことね?…そうねぇ。あの娘は別段、悪そうな娘では無さそうだし…そこまで警戒しなくてもいいような気もするけどねぇ」
マダムは少し考え込むような仕草をすると、ポツリと言葉を呟く。
「本部にも“カエデ”なんて名前のつく人物の情報はなかったわ。身元不明ね…まあ、珍しくもないのだけど。ここまで白紙な人物は始めてだわ」
『どうされる気ですか?』
「ん~?どうもしなくていいんじゃな~い?」
タマネの真面目な言葉にマダムは軽い口調で返答した。それにイラッと来たのかタマネは少し硬い口調で返してくる。
『面倒事が嫌だと言ったのはギルドマスターでしたよね?“トウヨウ”なんてややこしい人種、ワタシ嫌よ~とか言ってましたよね?』
「まあまあ、確かにワタシから言い出した事だけどねん。いいじゃないの。あの娘が悪知恵が働く子に見える?」
『まったく見えませんが…』
「まあ、最小限の警戒はしておくってことで。そこまで人材を割けるほど余裕もないしね。それと、あの娘に何か頼まれたら多目に見てあげてちょうだい。恩は返しておかないと後が怖いしね」
『はぁ…分かりました』
タマネはマダムの決議に逆らわず、溜め息とともに承諾する。そして、ところでと話題を切り替えてきた。
『戻るのは二日後ですか?』
「そうねぇ。まだ国から出たところだから、着くのはその辺かしら?」
『先に連絡した時は、一週間ほどかかると言っていませんでしたか?』
「ああそれねぇ。早まったのよ。エルフの王女様は先に帰っちゃったしね。ワタシはただの橋渡しだし、王女様を渡したらワタシは用済みなのよ。楽で良かったわん」
本音を言えば、彼は帝国に着いたところで…皇帝に会うなど不可能だと思っていた。なのに、帝国に着くやいなや城に通され、皇帝と謁見することになるとは思いもよらなかったのだ。マダムとしては帝国に着いてから本部に向かい、入城への手続きをして~と面倒臭いことが山盛りだと思っていただけに、この嫌にトントン拍子に進む状況は肩透かしも良いところであった。まあ、楽ができたとポジティブな彼は喜んでいたが。どうも裏で何かがありそうで気味が悪い。
『そういえば、前に仰っていた。エルフの国を襲った“天魔”のことですが』
「あら、調べていてくれたのねっ。流石タマちゃん!仕事が早いっ」
『……。情報が錯綜していて明確な裏付けは取れませんでした。が、一番信憑性の高いものが一つ。“突然現れた赤い狐の魔獣が天魔を全て葬り去った”…と』
「“赤い狐の魔獣”…?えっ全部??」
マダムはそれを口に出して首を捻った。狐に似た魔獣なら…一定数存在する。しかし、“赤い狐”と言われてマダムの脳裏に浮かぶものは…一つもなかった。タマネにしてもそうだ。一番信用度のある筋からの情報だとしても、到底理解出来ないものだったのだろう。マダムはその心情を彼女の言葉の抑揚の無さからそう判断した。伊達に長年付き合って来てはいないのである。あ、当然仕事上だけでの話だ。
「これもまた分からないわねぇ…。どんどん分からないことが増えて嫌になっちゃうわ」
仕事の関係上、不確かな情報だったり気味の悪い出来事だったり謎の人物だったり…そんな怪しいと思えるものは全て調査しなければいけない事柄だった。どんな危険がそこに潜んでいるか分からないのだから…。しかし、注意しなければいけないのは…踏み込んでしまってはいけないものもあると言う点だ。有名な人物も言っていた。“深淵を覗けば、深淵もまたこちらを覗いている”と。深みにはまれば抜け出すのは容易ではない。下手をすれば闇に葬られる可能性だってあるのだ。マダムは考えれば考えるほど…調べれば調べるほど分からなくなっていく現状に彼らしからぬ大きな溜め息をついた。
「まあいいわ。探るのは程々にね、タマちゃん。二日後に戻るから仕事はちゃんと片付けておいてね~」
『ああ…言い忘れていましたが、ギルドマスターの分はちゃんと残してありますので御心配なさらず』
「ええ!?ちょ、ちょっとちょっと!?残してあるってどういうこと!?」
『そのままの意味ですが。後、タマちゃんとは言わないで下さいと言いましたよね?』
「えっ?え、えっと…それはねぇ~??」
たら~と冷や汗が流れるマダム。
『帰ってきたら……──────縫・い・ま・す・ので。では────(ブツッ)』
恐ろしい声が流れた後に伝達石からの声は途絶えた。
「ひぃぃぃっっ!!??タマちゃん!?あ!いやっタマネさん!?許してちょうだいっ!ねぇっ!!」
赦しをこうもそれは後の祭り。あちらで拒否られているのかこちらから魔術を起動させても応答がない。
「…あ、あの声はマジだったわ…わ、ワタシ…縫われちゃう━━━━━っっ!!!??」
街道を通る一つの馬車。その中から奇声が聞こえたが、その馬車の行者は華麗に無視。
道行く人が行き交う街道はいつも通りの風景で、少しの奇声ではそうそう変わるものではなかった。
これは閑話でいいものか…。まあいいでしょうたぶん。主人公が直接関連するものにナンバリングすると決めました。今決めました。今です。
文字数少な目ですねー。久々にアフロが出てきましたが、どこかで出さないとなーとか思っていたのですよ。また唐突に閑話挟むかもです。え?何故突然なのかですか?…時間稼ぎだからですかね…。
今回もありがとうございました!では、次回もよろしかったらお読みください!