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レベマで駆け抜ける異世界転生!!  作者: 真理雪
第3章・森の旅人
26/51

#25,怪しい旅人

 遅くなってしまいました…申し訳ないです…。


 凄い見られてる気がする。視線が突き刺さる感覚がカエデの身体を撫でていく。奇妙な緊張から感情を写す鏡のような存在の尻尾がピンッと逆立ち、頭の上の耳がピクピクと震えている。


 (のう…ラタトスク?)


 (はい。なんでしょう?)


 (凄く…見られておらぬか?)


 俺のその問に肩に乗って文字通り羽休みしていた仔竜が辺りを見回してからこちらを見やって言う。


 (見られてますね)


 (見られてますね…じゃないのじゃ!恥ずかしいのじゃがっ!!?)


 (今外せば余計に恥ずかしいだけですよ?頑張って我慢してください)


 (むむっ…むむう…他人事だと思いよって…)


 俺は仮面の内側で唸りながら不満を示す。しかし、ラタトスクは我関せずと黙りを決め込んだ。




 町の情報源、掲示板の前。俺は多数の視線に晒されながら端から順に情報を確認していた。


 指名手配の貼り紙。それが俺の今回の目的だ。“聖竜騎士団”──教国所属の騎士団はあの夜俺の姿を見た筈だった。教国は“魔女”を討つためならどんなことも厭わない集団だ。騎士団は“魔女”と接触した可能性のある人間ならどんなに強引でも捕らえて異端審問にかけるらしい。そうなればまず助かりはしない。異端審問など表の顔…本当の姿は審問と言う名の処刑なのである。──と、まあそれは聞きかじりの知識ではあるのだが…そこまでする頭のネジが何本も外れている様な奴らなのだ。ならば、あの場で見つけた俺を見逃す筈はない。あまり考えたくはないが…最悪、俺が“魔女”だと勘違いされている可能性もあった。


 (えーと…あれっ?…ない…のか?)


 俺は掲示板の隅から隅へと見回すがそれらしいものは見当たらない。指名手配はいくつかあれども…(カエデ)が描かれている貼り紙は一つもなかった。


「なんじゃ…取り越し苦労じゃったか…」


 俺はほっと胸を撫で下ろす。しかし───



『───待ってください。もしや…あれでは?』



 ラタトスクの言葉に俺は彼女の言った方向へと視線を変える。そこには……



 ホントに人か?とつい言ってしまいそうなそれがあった。



 目は異常なほどつり上がりどこの悪役だと言う程の眼力を放つ。鼻は大きな鷲鼻。濃い皺が何本も入り、口は裂けそうなほど弓状で異様なほど顎が尖っている。そして申し訳程度に頭からは鬼のような角が突き出していた。まるで…昔ながらの怖い西洋の童話に出てきそうな…まるっきり“魔女”そのものであったのだ。なんか赤い果実を持ってヒヒヒヒ…と意地悪く笑ってそうな…。…そんな絵だ。



 ────…はい?はぃぃぃぃ???冗談ですよね?ラタトスクさん???



 そんな思いを込めて隣の仔竜を見やる。しかし、彼女はよく見ろと尻尾で器用にそれを指し示す。


 俺はもう一度それをよく見てみた。そしてその貼り紙にある後から書き足したであろう文字を見つける。それにはこう書かれていた。



 ・この者は“魔女”と類するものである。


 ・醜悪な生物を駆り、月夜の空を飛び回る。


 ・返り血を浴びたような赤い服を纏う。


 ・口から邪悪な黒煙を吐き魔術を妨害する、()危険人物である。





 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。




 …醜悪な生物…?返り血のような赤い服…?


 んん?んんんんん?…何だか心当たりがある気がする…。




 もしかして…醜悪な生物ってあれか?“竜骨”のことか?赤い服ってもしや…着物のことか?…てっ返り血ってなんだっ!返り血って!!そんなに赤くないわ!!!俺はどこぞの殺人鬼か!竜骨は確かに醜悪な見た目だけどね!!───てぇっっ!!!口から煙なんて出すかぁ━━━っっ!!!




 (分かりましたか?)


 (いや!えっ!?ホントにアレが妾なのか!?納得いかん!納得いかんのじゃ!!!)


 (そう言われましても…)


 俺はそれに人差し指を突き付けながら抗議する。


 (大体じゃな!口から煙って何じゃ!?化物か!?妾は化物なのかっ!!?)


 (えーと…。いい文句と言い人相書きと言い…。化物扱いされているのは確実ですね)


 彼女はやれやれと溜め息をついている。俺はと言えばそんな一つも当たっていない人相書きに納得できず、一人頭を抱えて唸っていた。




「うぐぐぐぐっ!!なんなのじゃ!なんなのじゃっ!!あやつらの目は節穴か!!この妾が丹精込めてキャラメイクした可愛くて可憐で、それでいて美人で美少女な妾の()がっ。こんなに…こんなにっ───醜いわけなかろうがぁぁぁ━━━━っっ!!!」



 (ちょ!?カエデさんっ!落ち着いてくださいっ)




 ラタトスクに窘められ俺はハッと口をつぐむ。ついやってしまった…。幸い周りはガヤガヤと騒がしかった為、近くの数人に不審そうに見られただけですんだようだ。俺はいたたまれず、そそくさとその場から離れていく。


 (何しているんですかカエデさん…)


 (す、すまぬのじゃ…。つい頭に血が昇ってじゃな…)


 じっとりと見つめてくる彼女の視線に俺は目を逸らしながら頬を掻く。


 (あと、娘ってなんですか娘って)


 (え"!?それはそのー…よ、良いではないか良いではないか)


 彼女は鋭い。つい勢いでポロっと溢れてしまった言葉を彼女はしっかりと問うてきた。俺はそれにしどろもどろになりながらもどうにか誤魔化す。


 (……何か怪しいですね…)


 (そっそうか!?妾はいつも通りじゃぞ!!)


 俺はラタトスクの疑惑の視線を無視して歩みを早める。行き先の決めていないその歩は人の波を上手く避けて進んでいった。



 (─────貴方も…“娘”と言うのですね…)



 後ろから追いかけるラタトスクの声は町の喧騒に掻き消され、俺の耳に届くことはなかった。




「───そこの方。少し良いだろうか?」




 そこへ一つの声がかかる。少し高めの男性の声だ。俺は声をかけられた方へ視線を向けた。


「む?」


 俺は少し首を傾げる。俺の目の前にいたのは長身の人物。今の身長では見上げる形になってしまう。見た目は深緑色の外套で覆われ見ることが出来ない。怪しさ満点の存在であった。


「ああ…こんな姿で申し訳ない。不審に思うのも仕方がないが…怪しいものではない。安心してほしい」


 俺の様子を見て彼(?)は警戒されていると思ったのか、優しそうな声色でそう言う。まあ…怪しいのはお互い様なんだけど…俺は仮面つけてるしね。


「ああ…うむ。大丈夫じゃ。妾は別に警戒はしておらんぞ」


 俺は心配ないと軽く右手を上げてジェスチャーをする。

 別に俺はその姿を気にしたのではなかった。旅人だったり冒険者だったり…この町を訪ねてくる者たちはたくさんいる。その中で素性を隠して旅をするものは珍しい訳ではなかった(ラタトスク情報)。俺が気になったのは別に理由があったのだ。それは────


 (エルフ…じゃな…)


 (そうですね。エルフです。なぜこんなところにいるのかは分かりませんが…なるべく気をつけてください)


 (うむ…)


 彼女の忠告に素直に頷いてから俺はその人物に言葉をかける。


「ふむ…。“森の番人”と呼ばれる者が何故ここにいるのじゃ?」


「! ‥‥‥‥なるほど、流石は“真竜”と繋がりし者。お見通しか…」


 彼は一瞬だけ固まり、長めの息を吐いた。


 “森の番人”とはエルフ族に使われる暗喩である。エルフ族はエルフの森と呼ばれる場所を住処としている。その森には“世界樹(ユグドラシル)”と言われる樹齢何千年もの巨木があり、それを太古から守ってきたのがエルフ族であった。その過程から“森の番人”と呼ばれることが多く、エルフ族も否定しない事からだんだんと広まっていった言葉だった。



 ん?…“真竜”ってなんだ…?



 俺は彼のその言葉に少し引っ掛かりを覚えた。聞いたことのない言葉だった。真竜って…(ドラゴン)のことだろうか…。竜と繋がりし者…??


 俺は肩に乗ってきた彼女を見やる。


 こいつかーっ!!エルフが何のようだと思ったら…話しかけてきた原因はこいつかっ!!───‥‥‥なるほど、慎重なエルフの事だ。回りの人族より、竜を使い魔(ファミリア)としている獣人の俺の方が信用できると思ったのだろう。…仮面で顔を隠していても…だ。


「あー…うむ。そ、そうじゃなっ。そういう事じゃ!」


「そうか…。ならば話が早いな。少し道を尋ねたいのだが良いだろうか?」


 彼は少し声のトーンを落として言う。それに俺はうむ、と一つ頷き大きな耳をそばたたせた。


「“冒険者ギルド”を探している。どこか分かるだろうか?」


 ん…?冒険者ギルド…?


「む…それなら知っておるが…。妾も冒険者じゃしな。…理由を聞いても良いか?」


 俺は少し嫌な予感を感じながらも、逆にこちらから理由を訊ねる。礼儀がなってないと思われそうだが…聞いておかないと俺自身の気持ちがいたたまれなかったからだ。


「そうか、貴女は冒険者ギルドの者だったか。───理由か…あまり言うべきではないのだが、やはり説明なしでは流石に厳しいか…」


 彼は少し思案するように沈黙すると、再び言葉を発する。


「分かった。説明しよう。しかし、流石に無関係な人物に細かく語れる話ではない。そこは申し訳ないが分かって欲しい」


 その言葉に俺は頷いて肯定すると彼は語り始める。


「私たちは姫様に頼まれ、ある人物を探しに来たのだ。姫様はこの町を訪ねた際にその人物に助けられ多大な恩を作ったと仰っていた。もし、その人物がまだこの町にいるのなら探して来て欲しいと言われたのだ。姫様が言うには“冒険者ギルド”と言う組織を訪ねれば分かると言っていたのだが…ここは私たちの町とはどうも勝手が違うようでな…悩んでいたのだ」


 彼は一頻り語り終えると俺を見据える。こちらの返答を待っているのだろう。俺は仮面(額)を押さえながらどうしたものかと頭を悩ませていた。


 (どうする気ですか…?)


 (……どうするもなにも…これは完全にフィーナ絡みじゃろう…?)


 (そうですね)


 (ならば、ほっておける筈はないのじゃ)


 (はぁ…貴方ならばそう言うと思いました)


 ラタトスクは分かりやすく溜め息をつく。否定的な様子ではあるが、はっきりと言葉にはしない。そんな様子から見ると彼女も無駄なことだとは思っていないのだろう。いや…単に諦めているだけかもしれないが。


「どうかしただろうか…?」


「む?ああ、すまぬな。少々考え事をしていたのじゃ。実はじゃな───」


 痺れを切らしたらしい彼が俺に問う。それに俺は軽く謝罪しながら言葉を続けようとした。しかし、ガヤガヤとした喧騒の中である一つの掛け合いが耳に入ってきた。それは本来、雑音の中に消えるべきものだったのだが…それは何故か不思議なほど耳に残る事柄だった。




『おい!あっちでケンカしてるらしいぜっ!』『お、面白そうだなっ』『誰のケンカだ?』『冒険者と怪しい旅人らしいぜ!』『ははっ怪しいってなんだよっ』『また冒険者か!懲りない奴等だなっ』『──────』『──────‥‥‥




 俺は楽しそうに走っていく野次馬たちを横目で見ながら溜め息をつく。やはり、冒険者はこういう喧嘩事とは切っても切れないものらしい。荒くれ者とバカにされるのは仕方がないのかもしれないな。


 そんな事を思いながら俺は視線を彼に戻す。しかし、目の前の彼は少し慌てたようにこう口にした。


「申し訳ない冒険者殿。少し用事が出来てしまった。この話は他言無用でお願いしたい」


「む?あ、うむ」


「ありがたい。貴女に会えたのは幸運だった。では──」


 彼は早口にそう言うとさっと身を翻し野次馬が走っていった方へと駆けてゆく。


「‥‥‥なんじゃったのじゃ…?」


 突然置いてきぼりにされた俺は誰に向けてもなくそう呟く。ラタトスクも俺の肩で同じように首を捻っていた。


 

 

 





 いつでもご感想お待ちしております。




 スマホが夏の暑さで逝ってしまわれました…。メモ帳で書いていたのでもう最悪ですねー。幸い途中迄のをWeb上に残してたので…よかったのですが…。慌てて書いた為、間違ったところがあるかもしれません。その時は言ってくれると助かります。


 今回も読んでくれてありがとうございました!また次回もよろしくお願いいたします!たぶん、日曜日です!たぶん!

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