#22,終結
豪雨と地震のダブルパンチ…。怖かったですね…。こちらは幸い何もなかったですが…。地震はいつ起こるか分かりませんし…皆さんもお気をつけください。
と、話は変わりまして…どうぞ~。
“魔双翼”は『ファンタジックワールド』では魔術士のみが習得可能な移動手段であった。魔術の類いではなくサポートスキルに区別されるもので、展開中は常時魔力が消費され続ける。消費する魔力は決して少ないものではなく、低レベルのプレイヤーなら数分も持たずに落下してしまうだろう。しかしだ、それに補って余りあるほどの移動能力があり、高レベルプレイヤーなら習得必至な代物だった。だが、そんな便利なスキルでも決定的な短所があった。それは…スキル発動中は魔術が放てないと言う欠点があったのだ。そもそもスキルは魔術とは別に区分されるもので魔術を発動中にスキルも同時に発動していると言うのがこの世界の常だ。例えを挙げるとすれば、サポートスキルの魔力消費軽減だとか、詠唱短縮等々…。しかし、この“魔双翼”と言われるスキルは同時に魔術を発動出来ない仕組みになっていた。プレイヤーからしてみれば、確かに空を駆け巡りながら魔術をバンバン撃たれてはひとたまりもないだろう。遠距離攻撃の出来ないジョブ…例えば剣士や槍士など…戦士系の近距離主体プレイヤーからしたら…相手から一方的に殴られる形になり、お手上げ状態になりかねない。それを見越した運営側が対処した結果なのだろう…と、そう思われていたのだ。しかしだ───
「そんなもの関係ないだろうなっお前には!」
空を飛ぶ魔女は回りに異なる魔方陣を展開させながら新たな魔方陣を組み換え魔術を放ってくる。
“化け物”──隣のカエデはこの魔女のことをそう言い表した。プレイヤーの枠からも越えた行為を何度も犯すこの女性は、そう叫ぶと相応しい存在であった。
骨の身体を持つ俺の式神、竜骨はその放たれた魔術を上手く回避してくれる。この“式神”は俺の扱える霊術の中で最も飛行に長けた式神だ。その骨の身体は軽く鋭利で空気抵抗も少ない。その為、本物の竜種にも匹敵するほどの飛行能力があった。しかし、やはり近づくのは困難だ。どうする?
そう心の中で自身に問うた俺はストレージから霊符を呼び出した。それは瞬時に焔の纏う霊符に変化する。
俺は左手に持ったその霊符を愛刀で叩き切った。
“霊呪・陽炎”───
“霊呪”…それは符術士系だけが使える特殊な強化霊術。少し癖のある霊術で使い勝手は良いとは言えない。しかし、魔術系の強化魔術とはまた違う効果を発揮するのだ。
二等分された霊符は魔力の行き場を無くし、自身を切った獲物に蛇のように取り付く。赤い焔が刀身に添うようにして纏わり付いた。それは“焔の刀”と言われても良い様な見た目で、纏った焔が風に煽られ妖しく揺らめく。
(熱!?アチチチチッ!…くそうっ。やっぱりダメージは喰らうのかっ)
俺は“圧斬り”を持った右手を抑え、苦々しく奥歯を噛み締めた。
“霊呪”と言われるそれは通常の強化魔術ではない。『ファンタジックワールド』の世界観で言えば…名前にも付いているように呪いの一種だった。これは自身にも継続ダメージを与えると言うなんとも嫌な効果があったのだ。その分、強力にもなっており特殊能力も使えたりと役立つことはあるのだが…。自身にダメージなんてやはりしたくはないものだ。絶対熱いと思った…。
ちっと舌打ちをしたい俺だったがそんなことも状況は許してくれず、身を屈めて飛んできた魔術を避けた。
プレイヤーレベルがマックスなお陰か熱さはどうにか我慢出来そうではあった。火傷とか普通にしてそうなのだが…。
「短期決戦で決れば問題ないっ。竜骨!このまま突き進め!!」
『クァッッ!!』
俺の言葉に竜骨は元気良く答える。竜骨は俺に言われるまま回避も省略し、最短距離で魔女に向かって行く。それに容赦なく魔女の魔術が放たれた。しかし、俺はその“焔の刀”を大きく振りかぶり、魔術に向けて横一閃に薙ぎ払った。
薙いだ直線上に鞭のようにしなる焔の剣圧が飛ぶ。それが複数放たれた魔術を一息に飲み込み消滅させてしまった。これが“霊呪”の強みである。流石にレベル差があると成功し辛いが、放たれた魔術を焔の形をした呪いが侵食しそのまま自壊させてしまうのだ。欠点がある代わりの強みと言えばいいのか…。ゲームではほとんど符術士がいなかった為、初見では見抜けないプレイヤーが大勢いた。それに良く助けてもらっていたのは言うまでもない。流石に高レベル帯になってくると経験者も多く対策される場合が多かったが…。強力な霊術なのは間違いなかった。
「はぁっ!──焼き尽くせっ!!」
俺は刀を勢い良く突き出す。まだ到底届かない距離だ。しかし、纏った焔は俺の言葉に従うように突き出した勢いのまま切っ先から飛び出していく。それはまるで赤いレーザーのように紅蓮の焔が魔女に直進し襲う。それに魔女は反応し、横へと回避した。それを予想していた竜骨は自身の最速のスピードで魔女へと肉薄し脚を伸ばす。──だが、人肉を易々と抉りそうな鋭い骨の脚は魔女が咄嗟に出した障壁によって防がれてしまった。反動によって撥ね返された竜骨は体勢を崩され地面に落下していく。しかし、その上には既に俺は乗っていなかった。
「捕まえ…った!!」
『───っ!!?』
魔女の死角。上空から落ちてきた俺は彼女の腕を捕らえ、刀を振りかぶる。
刺突!──俺は抵抗される前に瞬時に愛刀を魔女の胸に突き立てた。ドスッと響く鈍い音。今度は確かな手応えがあった。
彼女の苦しそうな圧し殺した声が聞こえる。魔女が初めてその紫の眼孔を見開いた。
『この…イレギュラーめっ…』
「──っ!」
ドンッ。俺の一瞬の困惑、躊躇いで隙が生まれてしまった。魔女は俺を蹴り飛ばし、距離を取ろうと後退する。蹴られた衝撃で“圧斬り”から手を離してしまった俺は重力に逆らえず落下していった。
『───自壊魔術展開。強度最大。範囲全包囲』
魔女が言葉を紡ぐ。それは凛とした落ち着いた言葉。しかし、その言葉とは裏腹に示す意味は強烈だ。それは──“自爆”。プレイヤー同士なら安易にしてはいけないと密かに暗黙の了解となっていたチート魔術であった。
魔女がいくつも展開していた魔方陣に血流のように魔力が流れる。自爆まで後…数秒───誰がやらせるか。
“呪詛展開・束縛”───
魔女の胸の傷から黒い何かが躍り出る。それは…鎖。相手を束縛し、一定時間行動不能にする──呪いだ。
俺はストレージからある一つのアイテムを引き出す。それは俺の身長以上もある長く大きな槍。各プレイヤーが一つしか持つことを許されない伝説級アイテムの一つ。その名を──“投槍グングニル”。俺が隠し持っていた奥の手だ。
本来は地上ではその大きさと重量から投擲することも狙いを定めるのも厳しい代物で伝説級と言ってもこの“投槍グングニル”は使っているのも珍しいアイテムだった。しかし、ここは空中…そして俺の投擲スキルはカンスト済みである。問題はない。
大きく長い投槍を両手で構え、狙いを定める。金色に輝く槍は日光を受けてその輝きをさらに増していく。迸る魔力が神秘的な雰囲気を醸し出し、徐々に増え続ける金の光が放つのを急かすように散っていく。
「貫けっ!!グングニル━━━━ッッ!!!」
雄叫びと共に俺は放った。グングニルは動かない的に向かって飛翔する。下から上へ。迸る金の光が天を駆ける閃光となって飛び抜ける。激しく散る余剰魔力がビリビリと空気を揺らし、空間が悲鳴を上げているかのように震動する。“伝説の武器”──それは俺が思っていたよりも激しく豪快で強力無慈悲な力を持って飛んで行った。
───轟音と震動と閃耀。それらが一度に俺を襲った。俺は咄嗟に顔を庇って腕を出す。
腕の隙間から見えた微かな光景は、天に輝く太陽に大きな穴が開きそこから亀裂が入る異常な光景。
「ご主人━━━━━━━っっ!!!」
突如、カエデの声が聞こえたかと思うとガシッと何かで腕を掴まれる感触がした。
「うぉぅっ!?」
『クァッ!!』
俺が驚きの声を上げると聞き慣れた鳴き声が一つ。
「竜骨っ!それにカエデもっ」
「すまぬのじゃご主人っ。助けが遅れたのぅ!」
「いやナイスタイミングだ!助かったよっ」
すまなそうに叫ぶカエデに俺は叫び返すと身体能力を駆使して竜骨の背に飛び乗った。
「さっさとここから離脱するのじゃ!もうここは持たぬぞっ」
「ど、どうなってるんだ?結界に亀裂が入りまくってるんだがっ?」
「ご主人が“グングニル”を使ったからじゃろうっ!ゲームでは只のデータじゃったがここでは本物の伝説の武具なのじゃ!そんなものを使えば結果は分かりきっておるじゃろう!?もしや考えてなかったのかご主人っ!?」
カエデが驚いた!と言う表情をする。え?マジで?そこまで考えてなかったよ。確かに伝説の武器なんて使えば一溜まりもない…よな。ゲームでは“戦闘結界”は非破壊オブジェクトであった。しかし、それは非現実での話。現実となったこの世界では…伝説級アイテムは本物の伝説のアイテムで…その力も本物のだ…。あ、うん。全く持って考えてませんでした。
「とっとにかく!離脱っ!離脱だ竜骨!!」
『クァッ!』
俺は思考を打ち切って竜骨に指示する。竜骨は翼をはためかしその場を離れた。
「カエデっどこに行けばいい!?」
俺は辺りを見回してカエデに向かって叫ぶ。
“戦闘結界”はもはやボロボロで結界には何本もの亀裂が入り、ガラスが割れるように細かい破片がボロボロと溢れ落ちている。その様は小さな星が落ちてきているようで美しくはあるが、ここがもう持たないことを事実として教えてくれていた。
「割れた結界の境目に行くのじゃ!そこから外側に出られる筈じゃ!」
カエデは一番近い割れ目へ指をさして示す。
「わかった!頼む竜骨!!」
『クァッ』
竜骨は一鳴きすると全速力で飛翔する。
もう少しで外だ。俺たちが境目に差し掛かった途端、後方から強烈な魔力の波動を感じた。
「───不味いっ!」
再度の轟音。何度も聞きすぎて聴覚が発達している我が耳がじんじんと痛み出す。後ろから襲ってきた回避不能な波動に俺たちは押し出されるようにして外界へと吹っ飛ばされた。
一瞬にして視界が変化した。昼から夜へ。突如、暗転した視界に俺は困惑する。そっそうか。古城を彷徨っている間に大分時間がたっていたんだな。
錐揉みしながら吹き飛んだ俺たちは竜骨がどうにか体勢を立て直し、急ブレーキをかけたところでやっとのことで停止した。
振り向いてみればそこには“戦闘結界”の成れの果てがあった。それは内側から暴発したように盛大に崩れ、崩れた結界の破片が光の粒子となって夜空へ消えていく。それはまた幻想的でどこか悲哀が漂う結界の終幕だった。
“戦闘結界”は遥か彼方の上空で形成される。大気圏…とまではいかないまでも雲よりも高い位置で張られた結界は強い強風に煽られどんどんとその形を崩していった。
「ふぅ~~~~っ…」
それを見ながら、俺は息を吸い大きなため息をついた。
やっと…。やっと終わった…。目の前の脅威からやっと解放された俺は緊張が途切れ竜骨の上で脱力してしまった。凄い倦怠感だ…。もう動きたくない…。
「大丈夫かのぅご主人…?」
そんな俺にカエデが心配そうに声をかけてくる。
「ああ…大丈夫…。…大丈夫だよ」
俺は彼女に精一杯の笑みを見せ、『大丈夫』と言う言葉を繰り返す。そんな俺の様子を見て彼女はどう思ったのか───
「……なんで抱きついてるんだ?」
「良いではないか減るものでもないじゃろう?」
カエデはまたもや俺に抱きついてきたのだ。いや、美少女に抱きつかれて嬉しくない筈はないけど…あ、やべ。尻尾が止まらぬ。
「流石我がご主人じゃな。あやつを撃退するとはの。うむうむっご主人に敵なしじゃな!」
「頭を撫でるなよ恥ずかしい…」
彼女はよしよしと子供をあやすように頭を撫でてくる。……頭を撫でられるのなんていつ以来なんだろうか…。凄い懐かしい感覚だった。
『クァッ!!』
「うぉぅ!?」
二人で話していると竜骨が怒ったように鳴き声を上げる。流石にほっときすぎたな。怒るのも無理はない。
「悪い悪い。ほら竜骨も撫でてやるよ」
『クァッ♪』
俺が軽く謝りながら竜骨の頭に手を伸ばす。そこで俺は唐突に制止した。
竜骨の頭蓋骨が180度回転した為だ。
「あっそうやって撫でてもらうのね!?」
『クァ?』
びっビックリした…。そうか…竜骨は生物の枠組みから外れた骨の生命体である。普通の“生き物”ではないのだ。骨の身体だから回しすぎても首が螺切れるとかはないのだろう。もしかしたら一回転も普通に出来るのだろうか?
そんな意味もないことを考えながら俺は竜骨を撫でる。竜骨は竜骨で嬉しそうに喉を鳴らし(喉はない)…たような音を出してご満悦であった。
「───ご主人!不味いのじゃっ!」
気を抜いていた俺にカエデは焦った視線でそう見やる。
「え?どうした?」
「こちらに何かが高速で向かってくるのじゃ!この速度は…ワイバーン…聖竜騎士団じゃ!」
「!!」
その言葉を聞き俺は目を見開く。“聖竜騎士団”と言えば…教国所属の竜を駆る騎士団だ。その騎士団はこの世界で唯一の空挺騎士団で空では無類の強さを誇る。そんな騎士団がこちらに迫っているらしいのだ。
「逃げるぞっご主人!」
「え?…そんなに慌てなくても良くないか…?まさかとって食われる訳でもないだろうし…」
「何悠長なことを言っているのじゃ!教国は“魔女”に接触した者を全て捕らえ異端審問にかけるっ…謂わば…処刑執行人じゃ…。ご主人が捕らえられれば…“亜人”と差別される獣人じゃ。極刑は免れられぬじゃろう…」
その言葉を聞き、俺は表情を凍りつかせる。は?…マジで?
「良し!さっさと逃げるぞ!竜骨全速力だ!!!」
『クァッ!』
逃げる。そう決まれば後は早い。逃げ足には自信があるのだ。はっ誰が捕まってやるか!
「───魔力反応!?」
咄嗟に竜骨は翻り、重力に身を任す。落下する身体で先ほどいた場所を確認すると魔力で生成された風の矢が数本も飛んでいった所だった。
「いきなり攻撃してくるのかよ!?」
「あやつらは捕らえられれば死んでも良いのじゃ!実力行使…それが奴らのやり方じゃからな!」
狂ってやがる。そんな言葉が喉まで出かかったが悪態をついている場合でもない。文句は安全になってから気が済むまで言ってやる。腹立つから。
竜骨は速度を上げて夜空を駆ける。しかし、後ろから追ってくる気配は依然消えない。夜闇に紛れていけるかと思ったのだがどうも上手くはいっていないようだ。まだ距離もあると言うのに…何故だ?夜目が効くのか?……そうか!スキルか!恐らくだが奴らは千里眼のような遠くのものを見通す何かを使っているのかもしれない!
「このままじゃ逃げ切れんぞご主人!」
「ああ!分かってる!なら──これを使ってやる!」
俺はストレージから一つのアイテムを出す。
名称“黒霧球”。俺の手のひらに収まる程度の小さな黒い水晶。その能力は名前を見れば明らかだろう。
俺はそれを握力で握り潰す。瞬間、手から溢れ出す濃霧。それを俺は進行方向に力いっぱい投げた。
弾ける黒霧が一瞬で辺りを包み込む。俺は竜骨に命令し、その中に突っ込んだ。
“真眼”───
目の前すら見えなくなった俺はスキルを発動させ、後方を確認する。奴らは黒霧に躊躇わずに入り込み、俺を追う。しかし、奴らは困惑するようにその場に止まった。
その様子に俺は内心でガッツポーズを作る。
俺は奴らが何故止まったのかが予想できた。サポートスキルである“千里眼”は魔力を消費して視力を強化するスキルだった。魔力の助けを借りて遠くを見渡す。それが千里眼の根底だったのだ。だから、俺はそれを妨害するアイテムを使った。それこそがこの黒い濃霧。“黒霧球”の効果だった。あ、因みに“真眼”には効果はないよ。
まあこれは予想なので、あってるかは当事者じゃないと分からない。しかし、魔術を使っているところからこのアイテムを使えば何かしらの妨害を出来るだろうとは思っていた。ここまで効果が出るとは思わなかったけど…これはこれで好都合だ。さっさと逃げてしまおう。
俺たちは濃霧の中を駆け抜け、降下し、眼下に広がる森の中に降り立つ。
闇に覆われた森は上空で行われていた盛大な戦闘とうって変わり、涼やかな静寂と落ち着いた沈黙が漂っていた。
俺はその場でスキルも活用し、辺りを確認するが誰も追ってくる気配はない。ほっと俺は胸を撫で下ろした。
「それで…これからの事だけど───」
と、俺は振り返り話を切り出す。これまで状況に振り回されてばかりだったのだ。少しでも情報は欲しい。そんな思いで俺はカエデを見やった。しかし───
「!! どうしたんだっ!?」
俺は目を見開く。そこには足元から立ち上る光の粒子で覆われるカエデの姿があった。
「ふむ…潮時じゃな…」
「なっ!?潮時って…?」
「そのままの意味じゃよ。妾はあの“戦闘結界”の綻びに介入した侵入者じゃ。あれが無くなれば妾も消えて当然じゃ。──なあに、死に別れる訳ではないのじゃ。名残惜しいがのぅ…。また会えるのを楽しみにしておるぞっご主人!」
俺に笑みを作り、笑って見せる彼女。
「何を言って…っ。そんなので納得出来るかよ…」
俺は手のひらで拳を作り、悔しそうに奥歯を噛み締める。
(せっかく会えたのに……)
別れは突然。良く言われる言葉だ。俺が絶体絶命な状況に助け船を出し、自信のない俺に笑顔で励ましてくれた彼女。そして──俺のことを好きだと言ってくれた彼女が今…唐突にいなくなろうとしている。そんなの…納得出来るわけないだろう。
『クァ…』
「! …竜骨も…か…」
隣で翼を畳み、頭をすり寄らせてくる竜骨にも光の粒子が覆い、消滅の時間が近いことを嫌と言うほど思い知らされる。
「すまぬな…ご主人。じゃが、分かってくれ。これは仕方ないことなのじゃ。妾は本当なら消失した身じゃ。ここにいることも普通では非常識なことなのじゃ…」
彼女は声のトーンを落として言う。その声には少し震えが混じっていたような気がした。いや…低い声で言ったのはわざとなのか…。自分の心の震えを抑えるように、目の前にいる俺に悟られないように、そう…したのかもしれない。
(……っ!…悔しいのは…お互い様なのか…)
俺は天を仰ぐように顔を上げた。暗黒の暗闇に点々と競うように光輝く星々。そんな自然の光景が俺の沸騰した思考を幾分か落ち着かせてくれた。
「───…また会えるんだな?」
数十秒の沈黙に俺の言葉が響く。それに彼女は反応し…。
「うむっ。会えるとも!いやっ必ず会うぞ!会えなくても会いに行くのじゃ!妾は諦めの悪いご主人の娘じゃからな!!諦め悪いのはご主人譲りなのじゃっ!」
「くくっ。なんだ?ディスってるのか?」
「誉めておるのじゃっ!」
「…そうか」
胸を張って言う彼女は自信満々に宣言する。その眩しいほどの笑顔に俺もつられて笑みを溢す。諦め悪い…ね。
「そうじゃ!消える前に忠告しとかないとなっ。危ない危ない…忘れておったのじゃ…」
彼女はそう言って早口で話始める。
「ご主人のアイテムのことじゃが…どうにか取り戻すのじゃ。今のままではこれから会う敵に対抗できまい」
「いや…でも…どうやって…?」
「それはご主人に任せたのじゃ!」
「えええ~……」
「それと!“ラタ”は真面目で信用出来るが…女神には気を付けるのじゃぞ。妾のことは“ラタ”にも内緒じゃ!どうにか誤魔化してくれ!」
へ…?“女神”…に気を付けろ…?
「ではの!ご主人!またの出会いを楽しみにしておるぞっ!!」
「ちょっ!今のどういう意味っ───ぎゅむっ!!?」
彼女は最後に抱き締めたかったのか棒立ちの俺に突如抱きついて来る。俺と言えばそれに戸惑い。聞きたかった言葉をかき消されてしまった。
「大好きじゃぞ…ご主人っ」
そんな言葉を耳元で囁かれ、それと同時に彼女の暖かさが消失した。
目の前に散る光の残滓に俺は目を細めて言う。
「…またなカエデ…。俺も…────じゃぞ…って!?あれ!?口調が変わったのじゃぁ!!!??」
こうして…最後まで締まらない俺はどうにか脅威を撃退し、あの強大な絶望の中から小さな命を見事拾い出し、…生還して見せたのだった。
ーーー
一つの部屋がある。それは古い洋館の一室で、大きなシャンデリアと赤い絨毯。ポツンと置かれた大きめの丸いテーブルに赤いテーブルクロスをかけ、その中心に豪華な蝋燭立てが立てられている。それが揺らめいて薄暗い部屋を妖しげに照らしていた。
「あら…?帰ってきたのね。どうしたのボロボロじゃない」
そこで一つの声が響く。それは高いソプラノの声色。それを発した人物はテーブルに脚を乗せ、椅子にもたれ掛かりながらだらしなく…ワインを片手に唐突に床に描かれた魔方陣に声をかけた。
「───────」
「喋りかけるな?あ、そう」
そこから出てきた紫の髪の女性は同色の瞳をその人物に向けて鋭利な視線で睨んだ。その人物はそれには興味を示さず、長い漆黒の髪をこれ見よがしに払い除けた。
「で、どうなのよ?強敵ならわたしが行ってあげるわよ?」
彼女。その通常の耳よりも長い特徴を持つ彼女はぐいっとワインを飲みほして興味津々に聞き返す。先ほどの忠告を訊く気はさらさらないようだ。
「─────」
「余計なお世話?ふーん、そう」
彼女はまた睨まれ、視線を逸らす。その耳の長い女性は…美女と言うよりも童顔で美少女寄りな顔立ちを笑みで歪ませ、声を圧し殺して妖しく微笑んだ。
「ふふっ。あなたがそんなボロボロなんてっ…珍しいこともあるものねっ?──おっ?」
彼女が無動作で飛び退くと椅子が撥ね飛ばされる。絨毯が焼ける臭い。どうやら魔術が飛んできたらしい。
「──────」
「ハイハイ。黙りますよ~」
彼女は困った様に肩をすくませ、左手で持ったワインボトルをそのまま飲み出す。
その様子に“魔女”はどう思ったのか…。褐色の肌を持つワイン少女を無視し、部屋を後にした。
「…相変わらず…頭が固いわねぇ…」
部屋に取り残されたダークエルフの彼女はそう言うと新たな椅子を持ち出して一人晩酌を続行する。
──夜は長い。長かった一日は静けさを取り戻し、ゆっくりと更けていくのだった。
はい。やっぱり一週抜けましたね…。長いし…。いつもは5000~6000字程を目処に書いているのですが…。足りなかったり普通に越えたりと安定しませんね…。仕方ないか…。
ごほんっ。ではここからは少し捕捉を…。
・圧斬りが返ってきてませんが実は返ってきています!書き終わってから気付いたので描写出来なかっただけです!ミスですね!はい!すみません!
・某ゲームの魔神さんビーム…あれカッコいいですよね…どうしても書きたかっただけです!はい!
・あとなんだっけ…あ、チート魔術の“自爆”ですがっ、ゲーム内では“戦闘結界”でドロー狙いの爆死要因が続出した為、運営が慌てて規制したと言う裏事情があります!(笑)因みにゲームの“戦闘結界”では“自爆”は出来ないよう修正されました。
・えーっと後なんだっけ…聖竜騎士団について!教国が保有する精鋭の空挺部隊です!ワイバーンと言われる小型の竜種を駆り戦闘する騎士団で陸上で最強な聖堂騎士団の対になる部隊ですね。空を駆り戦う部隊は現在ではこの騎士団しかいないため無類の強さを誇ります。大国が警戒している部隊の一つですね。あ、ですがこれは人族だけの話です。亜人を入れると変わってきますよ。
以上!カナ…??
今回も読んでくれてありがとうございました!何かあれば一言くれると助かります。次回は…日曜日でしょうかねぇ…結局いつもそれぐらいですし。後、何処かでちょっと修正かけたりするかもしれませんが…ご了承ください。では、よかったらまた見てください!