表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベマで駆け抜ける異世界転生!!  作者: 真理雪
第2章・【始まりの町】アルバ
19/51

#19,戦闘

 書いてから思った。何故二つに分けなかったのかと…


 俺は息を吸い込む。瞬間、一気に脚を踏み込んだ。


 ドッ──と飛び出した反動で石でできた床が軋み悲鳴を上げる。


 距離にして十メートル以上。それを俺は赤い稲妻の如く駆け抜ける。その間に敵が何もしてこない筈はない。


 薄暗い通路が紫に染まる。それは至るところに描かれた紫色に発光する魔方陣。先程の空間を歪めるものよりも小さいものだが、大きさの問題などその数で掻き消えてしまうほど膨大な数だった。──そんな大量の魔方陣を瞬時に描くなど到底出来はしない。そして、それを全て発動させることも普通なら不可能だった。まあ、それはゲーム内での話なのだが…現実に出来ているのだからここでは不可能ではないのだろう。




 『──ディヴァインフィールド!!』



 

 後方から凛とした声が聴こえる。それは俺のサポート役──ラタトスクの声だ。


 “ディヴァインフィールド”──通称、神の聖域。それは神域とも言われる。第4種神聖魔術。最上位神聖魔術で対象を害する全てのものから守る魔術。それはどんなスキルでも魔術でも魔法でもその全てを防ぎ切る防御魔術の最終形態。


 普段なら何人もの魔術士が集まって協力して作り上げるレイド戦用の奥義をこのラタトスクは軽々と使用したのだ。流石、神の使いだけある。


 無数の雷撃を神域で防ぎ、俺はそれに肉薄する。


()くぞ!!圧斬(へしき)り!!」


 俺は叫ぶ。赤く輝いた刀が道筋を残して敵を切り裂く。横凪ぎの一閃──それはその人影を捕らえたかに見えた。



「──っ!?」



 手応えがない。そう気付いた瞬間、それは煙のように揺らめき掻き消える。そして、それと入れ変わるように出てきたものは──壁に描かれた紫の魔方陣。



 (こっこれは!?──転移陣(・・・)かっ)



 その大きな魔方陣には見覚えがあった。この独特な五亡星の魔方陣。それは“空間転移魔方陣”──近づいた対象を…強制的に転移させる上位の移動系魔術。



『──カエデさんっ!!?』



 後ろから慌てた声が聴こえる。しかし、俺はそれに返事することができなかった。引き込まれる身体を強制的に振り向かせ後ろへ逃れようとする。しかし、それは無駄だった。攻撃系の魔術ではなく、(トラップ)系の魔術に当たるそれは容赦なくカエデの身体を引き込む。

 ──振り向いた一瞬、俺と彼女との視線が合った。それと同時に俺はその場から強制的に転移させられてしまった。





 ーーー





 ───刹那的な途切れ。意識を失なったのは一瞬だけのことのように思えた。


「───ぬおっ!?」


 重力。俺が魔方陣から抜け出るとそれが容赦なく地面へと叩き付けようとする。俺は驚きながらもどうにか体勢を立て直し着地した。

 踏み締める床。足元から帰ってくる感覚に俺は首をかしげる。


 (──…石畳?)


 石で敷き詰められた地面。しかし、それは綺麗に整備されたものではなく不格好な形の大小の違う石をただ嵌め込んだだけのもの。それはどこもかしこも痛みが目立ち、隙間から生える雑草や石を覆う苔、長年の雨風ですり減りボロボロになったものまで──俺はその場で辺りを見回した。そこはどこか古臭く忘れられたような古城。長きに渡る時間で劣化が進み、穴の空いた外壁や崩れた建物だった物。石で建造された古城はその形だけを僅かに残し、俺の目の前に寂しくも儚く(そび)え立っていた。俺はその錆びれた古城の目の前に転移させられたらしい。


 (なんだよここ…どこに転移させられたんだ?)


 俺は見たこともない景色に眉間に皺を寄せる。

 肌を刺すようにピリピリとした感覚が俺の焦燥感を掻き立てる。…嫌な感じだった。自身が、知らない場所に囚われる。それがどれだけ危険なことか…。


 (とにかく…動くしかないか───っ!!?)


 俺が行動しようとした矢先、唐突に何かの気配が現れる。それは後方…振り向けば崩れた門のような場所に敵はいた。青い体色に狼のような姿──


 (──天魔かっ!)


 “typeウルフ”と呼ばれる天魔。それが威嚇するように唸り声を上げ牙を剥き出しにする。一匹、二匹、三匹、四匹…くそっきりがない!



 “鑑定眼”────



【名称】天魔・typeウルフ

【レベル】75

【特殊能力】魔術耐性、増殖、物理攻撃力上昇(特大)

 ……



 ───は!?なんだよ増殖って!?それに特大の攻撃力上昇っ!?



 鑑定眼の結果に俺は目を見張る。視界に映る横長のB4サイズ程のホログラムを二度見し、再度確認するが変わることはない。


 (増殖って…こいつらスライムか何かなのか!?)


 増殖。その能力はスライム系統の魔獣しか持っていないものだった。RPGではよく登場する魔獣や魔物の一種。それはこのゲームでも登場し、初期の頃によく倒した雑魚敵でもあった。その魔獣は力も弱くレベルも低い…所謂(いわゆる)、初心者のレベル上げ要因として出てきた魔獣だった。それの唯一の強みは…増殖。分裂し個体数を増やす能力だったのだ。


 (その能力を天魔が持っている…しかも特大の攻撃力上昇まで付いて…?)


 可笑しいものは他にもある。


 通常…天魔には魔術の類いは効きづらい。それは強化魔術(バフ)にも当てはまることで、魔術耐性が効果を発揮しているのか…全ての強化が半減してしまうのだ。強力な能力の唯一のデメリット。天魔側からは歯噛みする事柄だが、それに相対するプレイヤーたちには嬉しい誤算(デメリット)だった。それのお陰で天魔には強化魔術持ちがほぼ意味を成さない。全く意味がない訳ではなかったが…特大と言う最大強化は事実上不可能だったのだ。



「──っ!」



 俺は咄嗟に後ろへと跳ぶ。ウルフはその強靭な足腰で数メートルの距離を一気に詰め、飛びかかってきた。


 俺のいた場所が衝撃で抉られる。俺は飛び散った石畳が自身に降りかかるのを省みずに、そのウルフに剣撃を喰らわせた。相手の攻撃直後の硬直に俺の刀が閃き、ウルフの頭蓋骨へと吸い込まれる。

 今のところ天魔のレベルは大したことはない。しかし、相手にかかっている強化魔術は流石に危険だと思えた。天魔の攻撃は極力回避し、無理をしないやり方で倒していくしかないだろう。“九尾化”をしたいところだが…あれにも制限がある。こんな得たいの知れない場所で使うことは躊躇われた。


 俺は致命傷を与えたウルフが地面にひれ伏すのを確認し、他の天魔を警戒しながら後ろへと下がる。


 (増殖があるなら…最下位の天魔でも屠って行くのは厳しいところだろうな…。増殖されてこちらの体力がヤバくなってしまったら…)


 打つ手を決めかねているところへ、ウルフどもは我先にと同族の亡骸を飛び越え容赦なく襲ってくる。


 俺はそれに対応し、一匹を避け、二匹目の腸を切り裂き、三匹目の首を圧斬り、その亡骸を勢い任せに投げつけ一匹目を遠くへ弾き飛ばす。


 …対応はできるがやはり数が多い。体力がある内にどうにかしなければならない。


 (やはりここは…──逃げるか!)


 俺は迎撃するのを諦め、突っ込んできた一匹をカウンター気味に殴り飛ばしながら決心する。倒してもきりがないのならば逃げるが一番!ゲームでもモンスターハウスやらなんやら迷宮(ダンジョン)(トラップ)に嵌められた場合は逃げる場合が多かったのだ。


「決まったのなら行動あるのみじゃな!」


 俺は声を張り上げ、振り向き古城を見上げる。俺の中の感覚が自身の跳躍力で何処まで届くかを教えてくれる。

 ドンッ──と石畳が悲鳴を上げた。視界が目まぐるしく流れ、尋常ではない速度で俺の身体が重力に逆らい跳ね上がる。


 ちょうど外壁が崩れて穴のようになった古城の壁に着地し、俺は一目散に中へと入り込んだ。下方では今でも鳴き声や唸り声が響いてくるが俺は速度を緩めず所々穴だらけな通路を駆けて行った。





 古城の中は予想以上に広く、そして明るかった。もっと暗い雰囲気かと思っていたのだが、そこかしこにある穴から朧気な光が射し込み、あの地下牢よりは落ち着けそうな雰囲気を醸し出していた。これぞファンタジー。ファンタジックなBGMでも流したらこの不安な気分も幾分か安らぎそうな…そんな静かな落ち着いた場所だった。──敵陣の真っ只中なのを省けばだけどっ。


「ととっ…」


 俺は速度を緩め、改めて辺りを見回す。後ろから敵は追ってくる様子はない。本当は“気配探知”を使いたい所なのだが…生憎とする気は起きなかった。恐らくだが…それをしてしまうと“逆探知”される気がしたのだ。


 (さて…上手く逃げ切れたのはいいが…。どうするかな…)


 俺は顎に手を当て考える。とにかく逃げ切ることを念頭に行動した為ここがどこかが分からない。古城の中に入ってみれば何か知っているものがあるかと思ったが、案の定というか…やはり記憶にないものばかりだった。


 自分で言うのもなんだが…俺はこの“ファンタジックワールド”を相当やり込んでいた筈だった。上には上がいるので一概には言えないが、自身のマイキャラへの愛は誰にも負けないと自負している。そもそもこのキャラにどれだけの資金を貢いだと思う?符術士に必要不可欠な霊符を集めるためにどれだけ迷宮を巡ったか…。迷宮を巡る為にアイテムや武器をかき集め、カエデに似合う服装や武器を物色し、はたまた開発したり…その為にはいろいろと準備が必要でその時間も必要で…──っとこほんっ…少し話がずれてしまったが、このマイキャラを成長させるためにいろんな所へ行き、いろんな場所で戦ってきたのだ。記憶にないものなどない!とゲーム時代の俺は自信満々に言い張っただろう…。


 (…やはり、ラタトスクが言うように五百年の年月で変わってしまったのだろうか…)

 

 俺は白い仔竜の言葉を思い出す。ラタトスクが言うように五百年も経っているのだ。その長い年月はどんな変化をもたらしても可笑しくはない程の時間である。国が無くなったり町が無くなったりしても可笑しくはないのだ。それに俺にとっては非現実(ゲーム)現実(リアル)に変化している。その時点で異なる箇所は至るところにあった。


 ボロボロの通路を俺は慎重に歩く。意識して音を響かせないように歩いてはいるが、どうしても崩れた石や粉々に砕けた外壁の残骸でジャリジャリと音が出てしまう。獣人の為、気配には敏感な筈だが…どうも先程から違和感が消えてくれなかった。


「む?──これは…階段か…」


 俺は大きな階段に辿り着いた。それは二人の大の大人が両手を広げても余裕があるほどの大きな階段。

 宛もなく歩いていた俺だったが、ここはちょっと頂上を目指してみようか?ふと思い付いた考えを俺は思案する。目的はこの得たいの知れない古城から逃げ延びることではあるが、このまま宛もなく彷徨っていても埒があかない。自身の跳躍で随分ショートカットはできたが、まだ上があるなら登ってみる価値はあるだろうか…?


「それに…下への階段は崩れているようじゃしの…」


 考えながら俺はその階段を確認してみる。が、どうやら下への階段は遥か昔に崩れ去り、最早繋がっていたような影もなかった。ポロポロと途切れた石屑が下方に落ちていく様は異様に恐怖を掻き立てられる。カエデの身体能力なら大丈夫なのかも知れないが…高いところから落下するなんて、もう二度と御免だった。


 俺は意を決して階段を一歩一歩上っていく。もしかしたら崩れてしまうかも知れないという不安と恐怖が俺を苛めるがそれは杞憂に終わったらしい。俺は無事にどうにか階段の終点へと辿り着いた。


「む…た、高いのぅ…」


 遥か彼方に見える地上を確認し、つい口に出てしまった感情をどうにか堪え周りを警戒する。


 (なにか来る様子はない…か。──ん?)


 俺は見渡す限りの果てない景色に違和感を覚えた。

 古城の頂上は天井も崩れ去り、外壁も最早無いもの同然の有り様だった。長年の雨や風の影響で風化が進み積み上げれた石が何処もボロボロだ。普通に危ない。そんな危険な場所で辺りを見回した俺はあることに気付いた。


 (地平線が…ない…)


 果てない空。雲一つないまっさらな空に、一つの太陽が輝く。何も描かれていないキャンパスに一つだけむやみやたらに輝く宝石を描いたような。そんな空間。


 まさかこれは…──結界(・・)の中…なのか?


 俺は一つの答えに行き当たる。それは凄く単純なものでゲーム内では良く使われていた仕様(システム)。それは───“戦闘結界(バトルフィールド)”。ある一部の場所(・・・・・)を結界で覆い、その中に戦場を作り出すことで、いつ何時でもプレイヤー同士の大規模な戦闘を可能とする。PvP専用のバトルシステム。決戦場や闘技場とも言われていたそれは、プレイヤー同士のの腕試しやはたまた真剣な果たし合い、それに単純なレベル上げなど…。ドロップは無かったにしろ、それはプレイヤーにしてみれば娯楽…楽しみの一つであった。




 ───俺は刀を一度大振りに振るい、そして構えた。それはここを作り出した敵に向けて。


 数メートル先。古城の頂点たる場所のちょうど反対側に当たる場所にそれはいた。唐突に現れたその人影に俺は用心深く睨み付け刀の切っ先を相手に向ける。


 (バトルシステム…それを知っていると言うことは──こいつはプレイヤーの可能性が高い…)


 そう考えた俺はすぅと息を整え、口を開く。


「そなたはプレイヤーなのかっ?何故、妾をここへ飛ばしたのじゃ!」


 俺の問いにそれは動かず、沈黙を保つ。答える気がないのか、はたまた話せないのか。理由は分からないが…一つ確かなことはあった。


 (ここに転移させたのは…俺を確実に屠るためだろうな…)


 ただの予想だ。しかし、それは間違いないなと俺は改めてそう思った。その敵が放つ異様な雰囲気に殺気がありありと混じっているのだ。…分からない筈がない。



 ならばどうするか…。ぱっと思い付くものは二つ。



 一つは、ここを作り出したであろう元凶たるあれを倒す。“戦闘結界”はいくつかの目的を決めて作り出すもので種類は様々だ。敵陣の守る標的(ターゲット)を倒すものや敵陣を全て殲滅するまで続けるもの。それにバトルロワイアルのようなものまで…。もし奴がプレイヤーだった場合…あれを倒せばこの結界は解ける可能性が高かった。


 二つ目は…ただ生き延びること。もしゲームのバトルシステムを使用しているなら神の使いたるラタトスクが気づかない筈がない。彼女が気づいてどうにかしてくれるまで俺はどうにか生き延びる。



 ───…どっどちらも厳しいな…。


 

 改めて考えて俺は悪態をついた。

 地下牢の一件で相手の力量は大体分かっている。結論から言えば…確実に戦力不足。戦おうにも攻撃する手段が少なく、逃げようにもその手段が大きく制限される。どうしようもないほど絶望的で無謀なものだった。せめて、俺が貯めに貯めたアイテムがあればよかったのだが…。無い物ねだりか…。



 じゃり…と俺が踏み締めた石屑が微かに音を出した──その一瞬の出来事。光が明滅したと思いきや相手の目の前に魔方陣が描かれた。



 ──次の瞬間、幾度も放たれる雷撃の雨。



「っ!!──殺る気満々じゃな!!!」


 皮肉を込めて言い放ったその言葉は相手に届く前に掻き消されてしまった。

 

「───圧斬り!!!」


 俺は叫び、構えた刀を縦横無尽に振るう。時には避け、時には斬り、時には回転し、その振り向き様に斬り飛ばす。それは見る人が見れば舞うように踊っているようにも見えるその無駄のない独特な動きは、慣れ親しんだ身体のように正確に動き、雷撃を切り裂いていく。


 幾閃もの斬線が魔術を打ち払い。…突如止んだ攻撃に俺は眉を寄せた。



「な!?──こんな場所でそんな魔術を放つかのぅ!?」



 相手を見た瞬間、俺の視線は驚愕に変わった。


 魔方陣を見た瞬間分かる。それは地下牢で見たものと同種のもの。…と言うか全く同じものだ。それは即ち…。

 

 魔術が放たれる。紫の燐光が波動となって俺を襲う。



「──くうっっ!!?」



 バチバチと弾ける雷鳴にカエデの身体の毛という毛が一斉に逆立つ。──痛い痛い痛い痛いっ!!!


 支えている足からもバキバキと嫌な音が聞こえ、身体も精神もこの場所も限界が近いことが理解できた。




「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────っっっ!!!!!」




 俺は身体を反らせ刀を振り抜く。俺は咄嗟にその強大な雷撃を空へと向きを変えるように仕向けた。それは結果として大正解となった。雷撃は方向を強制的に変えられ成す術もなく天へと打ち上げられ彼方へと消えていく。俺はと言えばその反動で吹っ飛ばされ頂上のギリギリ縁のところで冷や汗をかきながら制止していた。


 (あっ!あぶねぇ!!しっ死ぬところだった!)


 一歩ミスると地面へと真っ逆さまな状態で俺は少々涙目になりながらもキッと前方を睨み付けた。


 それが幸いしたか、俺は相手が動いた瞬間を見逃さなかった。敵が瞬間移動の如し速度で肉薄し、俺へ腕を伸ばしてきたのだ。狙いはっ───首だっ!!?



「にょわっっ!?!?」


『──!?』



 俺は変な奇声を上げながらもそれに紙一重で対応する。ギリギリ立っている縁を軸として、身体を限界まで反らした誰にも予想だにしない回避行動。分かりやすく言うなら命懸けのイナ〇ウアー?マト〇ックス?古いか…。それは命がいくつあっても足らないような尋常ではない避け方。背中から感じるこの不安定感。相手の狙いが首だと分かった瞬間、咄嗟に出た行動なのだ。…仕方ない…仕方ないけどっ──めっちゃ怖いっ!!?


 たぶん、下方から見たら爪先立で背中から俺が乗り出したように見えるだろう危機的状況から、瞬時に右に持っていた刀を逆手に切り替え、一瞬固まった相手を容赦なく切り上げる。

 

 それに相手は対応出来ず、まさか反撃されると思っていなかった敵は易々と切り裂かれ慌てて後方へと跳んでいった。


「なるほどのぅ…。魔術士だから魔女かと思っていたのじゃが…そう言うことか」


 危機的状況から逆に一矢報いてやったことで気持ちに余裕ができた俺は、ようやくいつもの挑発的な笑みを見せることができた。


 フードを切り裂かれた敵は後方に逃れ、その紫の双眸を憎々しくこちらへと向けていた。それは妙齢の美女。暗い紫の長い髪にスラッとした体型に似合わず出るところはしっかりと出た理想的な体型。外套の下には黒と紫を貴重としたシンプルなドレス。何かの魔術で中身が見えないようにしていたようだが、フードを切り裂かれた影響で内側が顕になったようだった。


 魔女は黒いグローブをした右腕をこちらに掲げ、瞬時に魔術を紡ぐ。その瞳は冷たく迷いがない。決めたことを淡々とやってのける無感情な色を写していた。


 それを読んでいた俺はその場から飛び出して彼女へと近づく。しかし、どれだけ俺が早いと言っても魔術には勝てない。俺の攻撃範囲内ならば可能だ。しかし、魔女はそれだけの距離を初めから空けていたのだ。彼女は俺に構わず魔術を放とうとする。しかし、それは俺だって百も承知だ。



「妾の投擲スキル!舐めるななのじゃぁ!!」



 俺は投げた──自身の唯一の武器を相手に向かって。魔女はその行動に驚いたのか眼を見開く。


 “圧斬り”はブーメランのように回転し、赤い残光を残しながら一直線に魔女へと接近する。赤い刃は空中に描いていた魔方陣を真っ二つに切り裂き、魔女へと襲いかかった。


 ガキン!と一瞬金属音が響く。それは何かで圧斬りを弾かれた音だった。圧斬りは弧を描きながらあらぬ方向に飛ばされ案の定、頂上から下へと落下していく。


 唯一の武器だった筈のそれに俺は目もくれず魔女へと肉薄する。


「──はぁっ!!!!!」


 俺は力任せに拳を振り抜く。確かな手応え。衝撃と同時に魔女が後ろへ飛ばされるのが見てとれる。



「圧斬り───っ!!!」



 俺はありったけの叫び声を上げる。それと同時に右手を広げ、腕を天に振り上げた。それは何かを待つような格好。


 次の瞬間、赤い燐光が煌めき何かが俺の手のひらに収まる。それは飛ばされた筈の俺の愛刀。“圧斬り長谷部”だった。これが符術士…いや、俺の戦い方だ!


 俺は左足を力強く踏み込み、刀を構える。それは──剣技ではない刀技ならではの構え──霞の構え。狙いは──魔女の首!!



「覚悟せよ!!」



 音速…光速…神速の突き。体勢を崩された魔女は空中でそれを見ていることしか出来ない。時が遅くなったように思える世界で魔女の視線と俺の視線が交錯した。


 魔女の首。狙いは違わずそれを圧斬りは捕らえた──かに見えた。


 ガスッと刀が突き刺さる。手応えを感じた。しかし、それは首ではない。魔女の手のひらに刃は刺さり、そのまま突き抜け魔女の頬に傷をつけたところでその切っ先が止まっていたのだ。



「──なっ!?」



 今度は俺が驚かされる番だった。“圧斬り”は魔術を斬る刀だ。魔術ではその刃は止められない。だが、それは物理的に刃を遮られれば話は別だった。今のように自らの手で圧斬りを捕らえるのは確かに可能だったのだ。しかし、俺の必殺の一撃を突き刺さった左手で方向を僅かに変え、首をギリギリまで反らすことで避けられるとは…思っても見なかったのだ。


 俺と魔女の間で描かれる魔方陣。それは瞬時に膨張し、二人を飲み込み爆発する。


「──くぁっ!?!?」


 俺はその衝撃で吹っ飛ばされる。攻撃力よりも吹っ飛ばし力を重視した魔術。嫌な浮遊感が俺を襲う。ヤバい!と思った時にはもう遅すぎた。自身の身体は宙に舞い、頂上の縁をゆうに越え、遥か下方は剥き出しの石の残骸のみ。


 見れば頂上で魔女が新たな魔方陣を描き魔術を紡いでいる。


 (まずい!!)


 俺は咄嗟に刀を構えようとする。しかし──



 (──は!?うっそだろおいっ!?)



 手にはその刀はない。それのありかは魔女の左手。圧斬りはそこに突き刺さったまま魔女に捕らえられていたのだ。


 (なっ!?くっ───)


 俺は歯噛みする。万事休すとはこの事か。絶望的な状況を瀬戸際でどうにか捌いてきた俺だったが…これは絶望的を通り越して絶体絶命だった。


 ここは足場のない空中で、符術でどうにかしようにも“霊符”がない。そもそもアイテムが全てない状況では回復すら儘ならない。そして肝心の“圧斬り”がなければ…魔術を防げない。



 (くそっ!…くそっっ!!!────)



 俺は何度も悪態をつく。



 (───やられてたまるかっ!!)



 悪態の果てに最後に残ったのはその感情。


 俺はばっと両手を広げ、宣言する。相手に届くかとかそんなことは考えていない。これはただ、俺の、今の、感情そのもの。



「来い!!魔女よ!!!ズタボロになってもっボロボロになっても!!妾はっ…妾は!───生きて帰る!!!!」



 (こんなところで…こんな中途半端なところで…────終わってたまるか!!!)



 それはなんの根拠もない。ただの意地。こんなところで終わるわけにはいかない。ただ、終わりたくないと。俺の諦めの悪いただの意地だった。


 魔術が解き放たれる。それは強化され尋常ではない威力を持って俺に迫る。死ぬ。殺す。確実に死亡させる。それを前提に置いたその攻撃は容赦なく俺の視界を全て奪う。俺は目を閉じた。それの衝撃に耐えるために…────









 ──────□□□□ハッキング□成功□□□□侵入□開始□□□──────



 


 はい。どうでしたでしょうかいつでもご感想お待ちしております。


 9000字越えになるとは思ってもみませんでしたね…何故分けなかったのかと自分でも不思議でならないです。調子に乗って書きすぎましたか…と言うかやりたいことめっちゃ詰め込んだ感じになりましたね。またプロット書き直さなければ…どれだけ方向転換したら気が済むんですかね自分は…。


 次回は来週出したいなと予定しています。予定ですよ!ただの予定ですから!


 さて、今回も読んでくれてありがとうございました!また次回!よろしかったらお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ