#16,冒険者ギルド 2
唐突に投稿!
ジリリリリリリリッ───────
けたたましく鳴り響く何か。
俺は眩しい光で目が開けられず、何度も目を瞬かせながらそれに手を伸ばす。
スマホで設定していた目覚ましを止め、俺はもう一度ごろんと布団の上に寝転がった。
「朝か…」
ポツリと独り呟くその言葉。
いつも通りの朝──俺はまだ取れない眠気を目を擦ってどうにか耐えながらいつもの天井を見上げる。
見慣れた天井に見慣れた円形の電灯。
(うん…なんだ…?凄く違和感が…ある…?)
いつもの光景の筈なのに先ほどから違和感が否めない。まだ寝惚けているのだろうか?
俺はよく分からないまま、上体を起こし回りを見渡す。何も変わることがない自身の部屋だ。
カーテンの隙間から射し込んだ日光で部屋が照らされ、愛用のPCも一人用の丸テーブルも漫画とラノベばかりの本棚も何もかもがいつも通りにそこにある。
(──そうだ。…今何時だ?)
寝癖がついているのか頭を掻くと妙な所に感触がある。
(??───スマホに時計がない?)
いつもホーム画面にデカデカと存在を主張している筈の時計が何故か空白で画面の角にある簡易時計も何故だか真っ白だ。
「は?どうなってんだ?」
俺はそれに薄気味悪さを感じ、スマホをほっぽりだす。もしやと思って百均で買ってそのまま使っていたアナログ時計も確認するが…何故か針が止まり意味を成していない。
さっと血の気が引いた──────
嫌な予感がする。俺は布団を蹴飛ばして部屋の戸を乱暴に開ける。
「母さん!!」
俺は叫んだ。いつものリビング。いつもの台所。しかし、そこにはいる筈の存在がいない。
俺は焦りながら最後の砦、寝室の扉を開ける。すると───
「──母さん!!!」
いた───俺の大切な人が──いた…。
彼女は眠たそうに寝返りを打ち、その重たい眼をうっすらと開けこちらを見やる。
その様子に俺はほっと胸を撫で下ろした。
「こんな朝早く…どうしたのよ…」
彼女はそう言う。50をとうに越している彼女はゆっくりとその上半身を持ち上げ、皺が目立つようになってきた顔をこちらに向ける。
「あら?──どうしたの?その耳は?」
「は?」
ふいに訊かれたよく分からない質問に俺は頓狂な声を出す。
耳?と俺は自分の耳を触る。うんちゃんとある。と思った俺に彼女は。
「違う違う。頭の上に付いている耳よ」
え────────え………?
「その狐の耳はどうしたの?□□□?」
────今なんて言った?母さん
そう言った筈の俺の口からは声が出なかった。
崩れていく現実。突然目の前にもやがかかる。ボヤける。おかしい。目の前が見えない。母さんが見えない。見えていた筈のいつもの風景が───見えない。
母さん!──どこにいったんだ!?───母さん!!!
か──さん。──か─でさん─────────
『カエデさん!』
「ぴゃう!?」
俺はなんとも言えない感触に飛び上がる。なになに!?!?何があったの!?
『やっと起きましたか…』
「あ…あれ?…らたとすく?」
俺は目を丸くしながらそちらに視線を向ける。まだ寝惚けているのか俺が呟いた名前は舌が回っていなかった。
『まだ寝ぼけているんですか?カエデさん。もう夕方になりますよ。そろそろ起きて下さい』
「うっうむ…?分かったのじゃ…」
俺は彼女の言葉に頷くがまだ先ほどの夢が頭から離れない。いや、あれは夢だったのだろうか?凄くリアルだったのだが。
『どうかしましたか?』
腑に落ちないのが顔に出ていたのかラタトスクは首をかしげ不思議そうに聞いてくる。
「それは…──いや、なんでもないのじゃ」
『??』
俺は言いかけるが途中で止めてしまった。釈然とせず彼女に聞きたいのは山々だったが…あれをちゃんと説明できる気もしなかったのだ。
(やっぱり…あちらの事が気になってるんだろうな…)
と俺はそう思うことにした。気を取り直し現状を把握するため取り敢えず回りを見渡してみる。うん、全然知らない部屋だな。
『説明しますと。カエデさんはギルドの入り口に入った所で気を失い。倒れたところをタマネさんがここへ運んでくれたのです』
「なるほど…そういえばそんな気もするのぅ」
俺は指を顎に当て思い出す。そういえば確かにギルドに入ったところまで覚えているがそれ以降の記憶がない。俺は辱しめもなくギルドの入り口で倒れてしまったらしい…。なかなか恥ずかしいことをやらかしたな…。
「えーと…では、なんじゃ…。ここはギルドの部屋なのかの?」
『はい。ギルドの二階の一室だそうです。出る場合は一階の受付に一言欲しいとも仰ってましたね』
「うむ。承知した。では、まあ行くとするかの!」
俺はベッドから降り、勢いよく立ち上がる。うん、少しでも眠ったお陰か気分がスッキリとしている。これなら問題は───
きゅるるるるる~……────
…ないと思った矢先、俺のお腹から盛大に音が鳴り響いた。
『カエデさん…』
「なっ。仕方なかろぅ!昨日から何も食べてないのじゃからな!そんな目で見るでないっ」
俺はじっと見つめてくる竜の視線をわたわたと手で遮る。…格好つかないなぁ。てか、お腹の音を聞かれるのがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。男の時はそんなの全然気にしなかった筈なのだが…。
赤面しているであろう自身の顔をラタトスクの視線から背けながら俺は扉へと向かう。
「さっさと行くぞっ。ラタトスク」
『そうですね。カエデさんを弄るのはまた後程にしましょう』
俺はラタトスクの言葉をあえてスルーしてドアノブに手をかける。なんだか昨日から彼女の当たりが強くなってる気がするのだが…。まあ少しは気を許してくれたのかな、と良い方に思うことにし俺はこの部屋から出て行くのだった。
◆◆◆
──時は少し遡る。
カエデが目を覚ます十五分程前のこと。一つの人影が入り口を通過し、冒険者だらけのエントランスを通り抜けていく。それだけならば不自然ではないその人影は──しかし、決定的な違和感を放ちながら受付へと突き進んで行った。
その人影は頭から覆うフードを被り、黒い外套をはためかせカウンターの前に立つ。
「こんばんは。こちらは冒険者ギルド“アルバ支部”です。本日のご用件はなんでしょうか?」
受付嬢がマニュアル通りの質問をする。彼女は何故かその人影に不審がることもせずにいつもの営業スマイルで話し掛けた。
『───────』
「え?いや、それは────」
彼女は人影の言葉に初めて戸惑いの声を上げた。しかし、その言葉は不自然に途切れてしまう。
『──────』
「──はい、分かりました。では、こちらから奥へとお入り下さい」
受付嬢は開けてはならない筈の鍵を持ち出し、“関係者以外立ち入り禁止”とかかれた扉の内側へと人影を招き入れる。
そんな他から見ても不自然な行動に何故か回りは止めに入らない。──否、気づいていない。
受付嬢は人影が中に入るとまたそこに鍵を閉め、何もなかったかのようにカウンターへと戻る。その行動はまるで操られているかのようで…。彼女はまたいつも通りの仕事へと戻っていった。
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