#15,冒険者ギルド
こんばんは!真理雪です!
今回は主人公空気です。いるのに空気とは…。
ここは冒険者ギルド二階奥にある一室。この部屋はギルド職員で上位の権限を与えられた者だけが使える一室になっており、主に事務処理や書類関係の仕事をする部屋となっている。
「ふぅ…。やっと一息つけそうですね」
トントンと書類を纏め角を揃えるために軽く叩く仕草は少し疲労を感じさせる。その女性“タマネ・アクアリウス”は自身で入れた紅茶に口を付け冷めていることに小さく眉を寄せた。彼女は珈琲よりも紅茶派であった。
このピシッと制服を着こなし、背筋をしっかりと伸ばして座るその女性はどこぞの秘書のごとく、くいっと眼鏡を直す姿はクールビューティと言う言葉が相応しい。それほどまでに整った顔立ちに誰もが羨むスラッとしたスタイルが彼女の美貌を引き立てていた。
「もう昼過ぎですか…。やはりギルドマスターが不在となると量が増えますね…」
彼女は一度伸びをして固まった肩を解すと席を立つ。
副ギルドマスターたる彼女はいつもより多めの書類を片付け整理し戸棚にしまう。いつもなら正午ちょうどに片付けて昼食をとり、食後の紅茶を飲んでいる時間帯の筈であった。が、今日はある理由で仕事が増えてしまいこんな時間帯になるまでかかってしまていた。
「いつもいい加減なギルドマスターですが…ちゃんと仕事はしてくれていたのですね」
いないからこそ分かる。いなくなってから重要性が理解できると言うが、これほど迄に分かりにくい人物もそういないだろうと思う。そのギルドマスター“マダム”ははっきり言って変人だった。真面目のようで不真面目。真剣に聞いているのかと思えばふざけ出すと言う。数年間付き合ってきた彼女でもどういう人物か計れない。それがあのギルドマスターだった。
「まあ…悪い人ではない事はたしかでしょう」
彼女はふぅ…と一つ溜め息をつくと考えを打ち切り扉へと向かう。
まだ仕事は残っているのださっさと昼食をとり戻って来なくてはと自身を律して廊下へと出る。
(そういえば…彼女は一体何処に行ってしまったのでしょう…)
タマネはふとある人物のことを思い出す。その人物は狐族の女性。赤い民族衣装を纏った獣人である。
先日、エルフの国の王女様が訪ねてくると言う大きな出来事があった。詳細は伏せるが、それが理由でギルドマスターは現在帝国へと出向いている。その時に王女様と一緒に訪ねてきた女性と言うのがその獣人なのである。
(闇ギルド冒険者についても聞かなければいけないのですが…探しても一向に見つかりませんでした)
彼女には聞かなければならないことがまだあった。しかし、王女様とギルドマスターを見送った後から行方が分からずタマネは頭を悩ませていたのだ。エルフ族の王女様と言うのもそうだが闇ギルド冒険者と言う悩みの種も持ち込んできた当の人物。まだまだやらなくてはいけない事が多いなと再確認し、彼女は又もや溜め息をついた。
彼女は階段を下りきったその時ガヤガヤといつもより騒がしい声が一階から聞こえて来ることに気付く。
(?…なんでしょう。騒がしいですね)
ギルド内はいつも騒々しい。冒険者は今でこそましにはなったが一昔前までは荒くれものが多かった。ここ始まりの町はいろいろな国が交わる地で物流の中心となる場所だ。その中でも特に大きいな力を誇る冒険者ギルドはいろんな地域から訪ねてくることも多く、常にたくさんの人が来る場所でもあった。なので、騒がしいのはいつものことと切って捨てることも出来たのだが…。
(??…入り口に人が集まっていますね…)
何故かギルドの出入口に人が集まっていたのだ。これでは通行の邪魔になってしまう。
彼女は注意しようとそこへと近づく。そして近づくに連れて何故そこへ集まっているかが分かってきた。
(誰かが倒れているようですね…)
人の間からチラッと見えた赤い服装。それは何故か床に横たわっているようで、それに皆が集まっているようだった。
「はいはい!皆さんっ。こんな所に集まっていたら通行の妨げになります!各々の仕事へ戻って下さいっ」
タマネは目立つように手を叩き声を張り上げる。
「あ!副ギルドマスター。ちょうどよかったっ」
彼女の声に振り向いた少女。それはここで働く受付嬢でタマネも顔見知りな少女だった。
「何があったのですか?誰か倒れているようですが…処置はしましたか?」
「いやその…えーと…」
タマネの言葉に気まずそうに言葉を探す少女はどうも要領を得ない。この説明をどうするか悩んでいる様子であった。
「…ふぅ。分かりました。私が対処しましょう。貴女は仕事に戻って下さい」
タマネは困っている少女を置いておき、その現場へと目を向ける。そこには先程の彼女の掛け声で集まっていた人たちは戻って行ったらしく、倒れている人物が丸分かりだった。それは女性で獣人で、力なく尻尾と耳が垂れておりうつぶせに倒れている。その女性の背では世にも珍しい白い仔竜がこちらを見ていた。
「え…──」
彼女は絶句する。うつぶせに倒れ顔が見えなくても、この女性が誰だか一発で分かった。
「──カエデさんっっ!!??」
驚愕の声を上げた彼女に応答がない主人の代わりにその仔竜が小さな手を挙げた。
ーーー
『申し訳ありません。タマネ・アクアリウスさま』
白い竜が恭しく頭を垂れる。ベッドですやすやと寝息をたてる主人を見ながら神の遣いたる仔竜はタマネへ謝罪を述べた。
「えーと…。大丈夫ですよ。ラタトスク…さん?」
彼女は戸惑いながらもそう返答する。まさか仔竜が話せるとは思いもよらなかった。
“竜”と言えば人間並みいや、人間以上に知能が高いと有名な種族だ。しかし、それは噂にすぎず確証は得られていないのが現状だった。それは何故か。理由は単純で竜そのものに出会うことが極端に少ないからだ。
(竜種は確かにいろいろ存在しますが…。ここまで言葉が通じるなんて…。まさか…真竜でしょうか…)
竜種とは竜の特徴を微量ながら受け継いだ種のことを言い、竜とはまた違った生態系を持つものとして考えている存在のことだ。しかし、竜種もそれほど研究できている訳ではないため詳しいことは分からない。魔獣使いとして小型の竜種を連れ歩く者たちもいた筈だが…人語を話せるとは聞いたこともなかった。
「…タマネでよろしいですよラタトスクさん。えーと…カエデさんは大丈夫ですか?」
彼女は考え込みそうになった思考を無理やり頭のすみに追いやり、仔竜へと視線を移す。
『分かりました。では、タマネさんと呼ばしてもらいます。主人なら問題はありません。頑丈さだけが取り柄ですので少し休憩すればすぐに目を覚ますと思われます。それはおいておき──まずはお礼を。この不甲斐ない主人をお運びいただき感謝致します。その上部屋もお貸しいただき感謝の念に堪えません。主人が目を覚ました暁には容赦なく罰を与えて───』
「ええっ!?いや、そこまでしなくてもいいですよっ?ただ空いていた部屋を使ってもらっているだけですから」
妙に腰の低い仔竜にタマネはたまらず声をかけた。何故ならその仔竜から何だか不穏な空気を察したからである。タマネとしてはただ空いていた部屋へ彼女を運んだだけでそれほど大したことをしたとは思っていなかった。冒険者はよく怪我をして帰ってくる者もいれば意識を失い担がれて帰ってくる者たちもいる。その為の空き部屋でもあるのでこう言うときこそ使ってもらってもらわなければ意味がないのだ。それにカエデを運んだと言っても彼女は見た目よりも軽く、元冒険者だったタマネにとってそれは雑作もないことであった。
『───そうですか…。……分かりました』
(何故残念そうなのでしょうか…)
何故か残念そうな仔竜はフシューと独特な溜め息をつくと話題を変えるよう口を開く。
『タマネさんに二つほど頼みたいことがあるのですが…』
「はい、なんでしょう?」
『一つはこの主人をギルド登録して貰いたいのです』
「ギルド登録ですか?分かりました。それはまた一階の受付でお受けしましょう。カエデさんが目を覚まされましたら受付へ寄ってみてください。受付には私から通しておきましょう」
タマネは微笑み快諾する。それぐらいならお安いご用だった。ギルド登録は毎日といかずともその数は多い。年々増加傾向にある程で無くなる事はないと迄言われているほどだった。そもそも始まりの町は入れ替わりが激しく冒険者たちもここに滞在することは少ない。理由は討伐依頼や探索依頼などがここいらよりも帝都や王都などの方が多いためだ。始まりの町はどうしても護衛依頼が多くなってしまい、魔獣討伐を好む傾向にある冒険者たちは皆そちらに流れてしまうのだ。
そして、彼女は二つ目を促した。
『はい。二つ目は──私が言葉を話すことを誰にも伝えないで欲しいのです』
「え?」
『私は言葉を話すことを本当は隠しています。しかし、主人がこのままだとどうにもならない為、信用できると思った貴女にだけ打ち明けたのです』
タマネはその真剣な瞳を見つめ返す。人とはまた違う輝きを纏うその瞳は意志ある人々と同じ色をしていた。この部屋に少しだけ沈黙が訪れる。そこではカエデのくぅくぅと嫌に可愛らしい寝息が聞こえるのみだった。
「…ふぅ。分かりました。この事は他言しないよう気を付けましょう」
『…助かります』
仔竜はそう言ってフシューと息を吐く。安心したのだろうか…?竜の仕草など到底分かる筈もないタマネだったがその行動には何やら落ち着いたような雰囲気があった。
タマネは肩をすくめ彼女らを見やる。そこにはただ眠る狐の女性とその主人を静かに待つ仔竜の姿だけだった。聞きたいことは山ほどある。不思議な彼女らだが彼らにもいろいろとあるのだろうと思うことにし、ひとまずここは聞かずに置いておく事にした。
「では、私は少し出掛けてきますので。出る際は下の受付に一声かけて下さい」
『分かりました。本当にありがとうございましたタマネさん』
タマネはその言葉に微笑み、丁寧に一礼してから部屋を後にした。
どうでしたでしょうか?いつでもご感想お待ちしております。
今回は書くの早かったですねー。いつもこれだけ早ければいいんですけどね…。うーん。言っても4000字程度何ですが…これぐらいが無難ですかねぇ。
今回も見てくれてありがとうございました!また次回もよかったら見てくださいな!