#14,帰還
こんばんは!真理雪です!
今回はあれですね…短いですが…まあ遅くなるよりいいですかね…。うーん…。
と言うかいつの間にか5月ですね…。時がたつのは早いですねー(しみじみ)
ある街道を一つの馬車が駆けていく。質素な造りだが頑丈に作られたその馬車は前方を照らす明かりをチラチラと揺らしゴトゴトと舗装された夜道をひた走る。馬車の側面には振動で時折照らされる紋章がある。それは冒険者ギルドに所属する証だった。
街道と言っても夜道は魔獣も多く、日が落ちてからは使うものは滅多にいない。人が誰もいない街道は寂しく、閑散としているその道は静かな夜闇が我が物顔で降り立つ未知の通路のように見えた。
夕刻も過ぎ去り、馬車の中ではランプだけが光源となって辺りを仄かに照らしていた。魔技術で加工され製造された硝子性の車窓。そこからはもはや暗闇しか確認できず、エルフの目でも微かに見える過ぎ去って行く木々くらいしか確認できない。
エルフの国の王女様。第一王女フィーナ・フィオーレ・アステリアはその美しい顔に陰りを写し、硝子から見返す自身のエメラルド色の瞳を見返していた。
(皆さん…大丈夫でしょうか…)
彼女は故郷の国を想う。仲間と家族、友達や親友。それら全てを置いて、フィーナはここにいた。仲間が戦っている中で彼女は今。遠く離れた人族の国へと向かっていたのだ。何故なら彼女はある主命を負っていた。
『人族の国へ行き、援軍を依頼する』こと。
戦いはもう既に始まっている。天魔の動きが早まったことで日没には天魔の群れはエルフの森へと接触し戦闘は始まってしまうだろう。
(伝達石からの連絡はあれが最後…。次に連絡が来るのは──戦いに勝利した後…)
物憂げに眺めていたフィーナは窓から目を背け、ふと自身の膝の上で小さな寝息をたてている可愛らしい存在を見つめた。
(ふふ…可愛らしい寝顔ですね…)
彼女はフィーネ。フィーナの妹で大切な家族。彼女は姉の膝を枕代わりにして安心しきった寝顔で眠っていた。フィーナは小さく微笑みながら彼女の艶やかな金髪を鋤く。それは絡まることもなくするりと抜けさらさらと自身の膝の上に落ちていく。それを見ながら彼女は一つ溜め息をついた。
「フィーナちゃん。貴女も眠れるときに眠っておきなさいよぅ?まだ先は長いんだからね」
馬車内にいた最後の一人。始まりの町“アルバ”のギルドマスター・マダムが反対側の席に腰掛けこちらを見やる。
「お気遣いありがとうございます。マダム様。ですがわたくしは大丈夫です。皆が戦っている時に休む事は出来ません」
フィーナは首を振り否定を示した。故郷では今や戦いの真っ最中なのだ。自身だけ危険のない場所でのうのうと休むなんて彼女には到底許すことは出来なかった。
その言葉にマダムは肩をすくめ溜め息をつく。
「そう言うと思ったわ…。だけどね。休むことも大事なことよ?強制はしないけど…失敗しない為にも休息はしっかり取っておくことね」
「う…。はい、分かりました…」
フィーナはマダムにじっと見つめられ少し逡巡するが結局は居たたまれなくなり頷いた。
───間に合わない事は始めから分かっていました。
わたくしのお父様。エルフの国王“フィーゼ・アステリア”がわたくしを呼び出した時、嫌な予感はしていました。主命を告げられた所でわたくしはその意図を察してしまった。
彼、フィーゼは国王と言っても一家族の父親。愛する娘達を逃がしたいと思うのは当然と言えば当然だった。
不満はあった、反論はあった、拒否したかった。しかし、わたくしは両親からの想いと大切な妹を守るためと聞けば自身の感情だけでそれを拒める筈がなかったのです───
深夜を過ぎた頃、うつらうつらとフィーナは夢うつつで目を覚ます。いつの間にか眠気に負けてしまい寝てしまっていたようだった。
ピーッピーッピーッ───
とこの場で不釣り合いな音が聞こえる。それはエルフならば誰でも知っている物の呼び出し音。
アイテム・伝達石の音だった。
フィーナは驚き飛び起きる。嫌な予感がした。そして嫌な予感は得てして当たるものだ。彼女はじっとりとした汗が額をつたる。
伝達石はすぐにでも取り出せるように懐にしまっていた筈だ。彼女は慌てながらもそれを取り出し確認する。やはりと言うかそれは光を発し振動と共に高い音を響かせている。それは急かすように明滅し、辺りに音を撒き散らした。
「えっ何よ何よ!何事よ!?」
「う~…お姉ちゃん…??」
マダムにフィーネ。二人もその音に反応し目を覚ましてしまう。マダムは一目で状況を把握したのか驚いた表情からすぐに真剣なものへと変化する。フィーネはまだ眠たそうに目元を擦り不思議そうに姉を見上げている。
フィーナは伝達石を見つめながら出られずにいた。
もしエルフ族が負けてしまったら──そんな後ろ向きな考えが頭の中に張り付いて離れないのだ。
「お姉ちゃん…?」
フィーナはその言葉にはっと視線を向けた。彼女の傍らには小さな妹。フィーネが心配そうな瞳でこちらを見つめている。
(わたくしは──)
フィーネは昔から人の感情を読み取るのが上手かった。彼女は姉の不安を感じ取り、我が身ではなく…フィーナを案じていたのだ。
(───本当に…わたくしは頼りない姉ですね…)
彼女は一度目を閉じ、そして開いた。その瞳にはもはや先程の戸惑いや不安はない。これ以上、姉たるフィーナが彼女に心配をかけるわけにはいかなかった。
彼女は右手に持っていた伝達石に触れ魔術を発現させる。そして、意を決してそれを耳に当てた。
◆◆◆
ガヤガヤと騒がしい。回りからの話し声と馬の鳴き声。木製のタイヤの独特な音。それらが騒音となり、鼓膜を叩く。
「ほら、これが狐の嬢ちゃんの通行証だ」
少し嗄れた声が辺りに紛れて消える。その男性が手渡す先には狐の美しい女性がおり、疲れた様子でその美貌に陰りを見せていた。
「うむ…。助かったのじゃ…」
「と言うか嬢ちゃん。冒険者じゃなかったのか…?いつの間に町の外に出たのか知らんが…身分証明出来るものがなけりゃ町では捕まるんだぞ?」
そう言う白髪混じりの初老の男性。名前は聞いていないが、フィーナたちとカエデが町に入る際にお世話になった人物だった。
カエデとラタトスクは今現在、始まりの町“アルバ”の王都方面入口近くで検問の真っ只中であった。
「え"…そっそうか…?危なかったのじゃな~ははは…」
男性の言葉にカエデは曖昧な返事を返し、疲れた笑みを見せる。
「どうした?なんだか疲れているな嬢ちゃん」
「! そっそんなことはないぞ!断じてな!」
「そっそうか…?」
カエデはその言葉に慌てて否定する。しかし、その男性が言った言葉は紛れもない真実だった。
カエデが何故こんな所にいるかと言うと、エルフの森からほぼ一日中歩きづめで帰った彼女はどうにかアルバの入り口に到着する。しかし、お疲れの彼女が待っていたのは容赦なく並ぶ長蛇の列だった。
検問──それが彼女らの壁となって立ちはだかっていたのだ。
結局、その日は入場することも出来ずに野宿するはめになってしまった。
そして、今は昼過ぎ。ここまで時間がかかるとは到底思っておらず、カエデは体力的にも精神的にも限界に近かった。
「まあいい。勝手に勘違いしたのは俺の方だからな。今回は追及せず見逃してやるが…ちゃんと通行証を更新するか何か身分を証明出来るものを持っておけよ」
「うっうむ。承知したのじゃ」
行った行ったと軽く手を振る男性を尻目にカエデは逃げるように門を潜る。
やっと帰ってきたアルバの町並みを見渡し、ほっと胸を撫で下ろす彼女。
その肩にとまっていた仔竜は首をかしげカエデを見やった。
『大丈夫ですか?カエデさん』
「大丈夫…ではないのぅ…。夜通し歩いた上、慣れない野宿とは…さすがに疲れたのじゃ…」
カエデはしょんぼりと耳をたたみ、元気のない尻尾はだらんと垂れ下がるのみ。疲労が募っているのは言うまでもなかった。
エルフの森から帰国し、律儀に検問を通ったのは間違いだったかと今更ながら彼女は後悔していた。
『そうですか。さすがにこれではカエデさんの身体にも影響が出てきそうですね…。どうしましょう?ギルドよりも先に宿屋を探しますか?』
「そう…じゃな…。お腹も空いたが…先に少しぐらい横になりたいぞ…」
カエデはラタトスクの提案に同意する。空腹もそうだが、先にちゃんとしたベッドで眠りたいと言うのが正直な思いだった。
動き出そうとした彼女たちは同時に大事なことをふと思い出す──
「───お金がないのじゃ」
『───お金がないですね』
カエデは目の前が真っ暗になりました。
いつもお読みいただきありがとうございます。よかったらご感想お願い致します。
まあ今回はあれですよね。伏線回?ですかね?伝達石と言うアイテムも出てきましたが前に説明した気がするのでスルーしましょう。
さて、次回はまたギルドへ行く事になりそうですね。どうなることやら…。
誤字脱字矛盾点などありましたら言ってくれると助かります!今回もお読みいただきありがとうございました!では、次回お会いしましょう!