#13,いざっエルフの国へ 2
こんばんは!真理雪です!
見てくれてほんとーにありがとうございます!いやホントにホントにありがとうございますいやホントにありが……………────
「わたしは夢でも見ていたのか…??」
アリウスは一人呟く。まるで夢のような超自然的現象を目の前で見てしまった彼は呆然とそれを見送ることしか出来なかった。それは圧倒的なまでの強さで、神秘的で幻想的な存在感を回りに放ち全てを薙ぎ払っていったとある存在。それを彼は辺り一面の天魔の亡骸を見渡しながら思い出していた。
───満身創痍。敵の攻撃を真っ向から一発受けただけでこれだ。第2師団団長として誠に不甲斐ない。
わたしは倒れないよう剣を地面に突き刺し態勢を安定させる。目の前の光景に唖然としていたわたしはその存在がチラッとこちらに視線を向けたことで我に返った。
“紅の瞳”──それがわたしを確認した瞬間、それは一瞬頷いた様に見えたのだ。
(? なんだ…?敵…ではないのか…?)
唐突に現れた紅い四足歩行の獣。その瞳には意志があり、只の魔獣ではない思考があるように見えたのだ。
その紅い狐は顔を背け、前に向き直る。
片や魔族の様な女型の天魔。
片や魔獣の様な八尾の紅狐。
どちらも見たこともない存在でどちらも計り知れない強大な力を持つ者たちでもあった。
睨み合っていた両者。天魔からは笑みが消え無表情になり、反対に狐からは余裕綽々な雰囲気が視てとれた。
Ra ──────────!!
天魔は唐突に吼えた。それは相手に与える攻撃ではない。上に立つ天魔の鶴の一声。それが森全体に響いた瞬間、全ての天魔が──動きを止めた。
「なんだっ!?」「どうなっている!」「気を付けろ!何かの罠かもしれん!」
エルフたちは突然動きを止めた天魔どもに驚き口々に喚きたてる。
動きを止めた天魔どもはそんなエルフたちを無視し、ある一点へ方向を変える。それは───新たな敵である紅い狐。
それら天魔どもはその物量をものにし、エルフよりもその狐を脅威と認め、先に殺すために動き始めた。
先に言っておこう。その戦いは圧倒的だった。わたしたちが恐れるほど鮮やかで驚異的で鮮烈なる光景だった。
一番早く動き出したのはなんと言っても機動力のあるウルフだった。それらは我先にと自身の自慢の牙や爪を使いその存在に襲いかかった。しかし、狐が動いた一瞬の内に切り刻まれ全てのウルフが肉塊へと変わってしまった。その動いた一瞬、わたしは確かに見た。その存在は自身の爪と尻尾から放った斬撃で全てを打ち払ったのだ。
(なんだあの動きはっ!?)
わたしは驚愕した。幾度となく戦場を経験したわたしでも見るのがやっとだとは。スピード重視の戦い方のわたしはそんな圧倒的な強さと速度を見て自信を無くす処か内なる興奮を隠しきれなかった。
狐はその場から跳躍する。それは木々を足掛かりにして跳び移り、トリッキーな動きを見せながら戦場を駆ける。動きの速いウルフどもを爪で切り裂き、振るった尻尾から飛ばす斬撃で薙ぎ払う。攻撃的なスコーピオンの尾を切り飛ばし、凶悪な鋏を腕ごと噛み千切る。鈍重ながらも防御力の高いタートルには弾丸のような速度で突進し、その衝撃で裏返った腹部へと的確に攻撃を叩き込んだ。女型の天魔は回復させるがそれを遥かに上回る速度で天魔は倒されていく。そして───目に見える天魔は女型のみとなった。
その天魔はもう回復させようとはしない。意味のない行動だと理解したようだった。そんな天魔との再度の睨み合い。天魔は無表情に口を開けた。
『ジャマヲスルナ』
何かする。そう身構えたわたしは唐突に聴こえた声に耳を疑った。それは確かに言葉であった。ぎこちない何の感情も籠っていない声ではあったが、はっきりとそれは聴こえたのだ。“邪魔をするな”と。
(天魔が…言葉を発しただとっ!?)
言葉を介する魔獣は少なからず存在する。例えば竜だったり不死鳥だったり、伝説級の魔獣ならずとも知能をもった魔獣なら言葉を発することは可能だった。しかし──
(天魔が言葉を発するなど聞いたことがない!)
新たな天魔に新たな情報。わたしはその脅威となるものに薄ら寒いものを感じた。何か…何か…わたしが知らないところで恐ろしい事が起こってるのではないかと。
天魔が口を開ける。しかし、何かを発する前にカタは付いていた。
一瞬の出来事。紅い狐が消えたと気付いた瞬間、天魔は胴体から二つに別れ宙を舞っていた。わたしにも何が起きたのか分からない程に素早く、ドシャッと天魔の亡骸が地面に横たわった時には狐の姿はかき消えていた。
唐突に訪れた静寂。突然訪れた終戦。何とも呆気ない終わり方にエルフたちは皆どうなっているのかと、訳が分からず倒れた天魔どもを見るばかり。正直に言えばわたしにもどうなっているのかは分からない。わたしこそ誰かに問い詰めたい気分だった。しかし、一つだけ確かな事があった。わたしは冷静を保ちすぅ…と空気を吸い込む。そして──
「わたしたちの勝利だ──────っ!!!!」
分からないことは置いておこう。今は生き残ったことを喜ぼうじゃないか。そう思うことでわたし自身も納得させ、盛大に大声を上げそう宣言した。
ーーー
「あーづがれたのじゃー」
ある森の中、大きめの木の上で一人の女性がだらんと両腕を垂らしてだらしなく腰かけていた。その名はカエデ。この世界の唯一の渡り人であり、先ほど天魔をなぶり殺してきた張本人でもあった。
彼女はその整った顔立ちを歪めて木の幹に寄り掛かる。流石のプレイヤーと言えど最速でエルフの国まで走りきり狐族の奥義たる九尾化を使い、天魔を全滅させたことで疲労がピークに達した様だった。
『そんな顔していたら美人が台無しですよカエデさん』
溜め息混じりにそう言う仔竜。ラタトスクは彼女とは別の幹にとまりながらこちらに視線を向けていた。
「煩いのじゃ。一仕事終えたのじゃから多目に見て欲しいのじゃ」
『と言ってもまだ当初の目的は全く果たせていませんけどね』
「うぐっ」
カエデは仔竜の容赦のない言葉に呻く。そう当初の目的…それは確か始精霊を探すこと。まあその為の準備も兼ねて始まりの町に向かう筈だったのだが…。今はまさかの北部に位置するエルフの森付近。寄り道と言う度合いを遥かに超えていた。
『はぁ…まあいいでしょう。エルフの国はこれで守れましたし…。少し休憩したらさっさとここを離れますよ』
彼女は再度溜め息をつくと目を反らし下方のエルフの森を一望する。ここはエルフの森の手前にある断崖の頂上であった。ここからカエデは勢い良く飛び出し戦場のど真ん中に落下したのだ。
「のう、ラタトスク」
不意にカエデは仔竜の名を呼んだ。その声にラタトスクは首をかしげこちらを見やる。
「妾は決めたのじゃ」
カエデは自身の手をぐっと握り締めその紅い瞳に決意を揺らめかせながら彼女は言葉を紡ぐ。
「妾はフィーナたちを悲しませたくはない。じゃからこの世界を助けよう。救うとか解決するとか、そんな大それた事を言うつもりはない。妾なんかがそんな英雄の様な勇者の様なことを出来ると思わぬからな」
自分にはなんの取り柄もない。何かが出来るとか何かが得意だとか何かに向いているとかそんなこともなく…。本当にただただ普通のレールをなんの感慨もなく生きてきただけの人生。それでも“カエデ”の力を使えば───彼女を助ける事が出来たのだ。
カエデは大きく息を吸い大きく息を吐く。
「後悔しないよう楽しく生きよ。それが妾の母の言葉じゃ。じゃから妾は後悔しない道を選ぼう。誰かが困っているなら助ける。フィーナが困っているなら助ける。フィーネが困っているなら助ける。そして、世界が困っているなら助ける───それが妾が出した答えじゃ」
一頻りカエデは言い終わると無言でラタトスクと見つめ合う形になる。
その沈黙を破ったのは…小さな押し殺したような笑い声だった。
『くくっ…ふふふっ…。なるほど。カエデさんはフィーナたちをそんなに気に入られたのですね?』
「なっ。何を笑っておる!仕方なかろうっあやつがあんなに可愛らしいからそのっ」
『あらら…一目惚れってことでしょうか?ふふっ』
「だから笑うなというにっ…むぅ…」
カエデは恥ずかしそうにそっぽを向きながら垂れ下がっていた尻尾をブンブンと振る。
『カエデさんは彼方では好きな方はいらっしゃらなかったのですか?』
「いや…そう言うわけでは…ないぞ?好きな異性はいたが…うーむ…」
『ああ、告白する度胸がなかったと』
「はっきりと言うな!」
カエデは顔を真っ赤にし、苦し紛れにバンバンッと木の幹を殴打する。そして何やら小声でぶつぶつと呟き出した。
「いやだって告白など出来る筈がなかろうそもそもどうやって誘い出すかも分からぬし告白したところでオーケーされるか分からぬしそもそもなんの取り柄もない妾が告白したところで断られるのは分かっていたしイケメンでもないしどちらかと言えばブスな方だし明るくもないし眼鏡だし嫌われたくもないし………ぶつぶつぶつぶつ……」
彼女はどんどん暗い表情になりどんよりと暗雲が立ち込めていく。
『あー…これは変なスイッチを押してしまいましたかね…。仕方ありません』
ラタトスクはやってしまったなーと言う雰囲気を醸し出しながら彼女の様子を半眼で見やる。そしてブンブンと荒ぶる尻尾にかぷっと噛みついた。
「ぴゃいっっ!?!?」
彼女は可愛らしい悲鳴を上げ我に返る。
『戻りましたか。カエデさん』
「なっ何をするのじゃラタトスク!尻尾はやめろと──」
『───それでいいですよ』
ラタトスクは批判の声を上げるカエデを遮って言葉を紡ぐ。
『貴方の答えは分かりました。私はそれで良いと思います。困っているなら助ける…ですか。単純ですが純粋で良いと思いますよ』
「なんじゃ…馬鹿にしておらんか…?」
『していませんよ。ふふっ…では、改めて────白竜ラタトスク。女神様より使わされたサポート役として私は貴方に何処までもお供致しましょう』
ラタトスクはお辞儀をするように首を下げそのサファイアの瞳をこちらに向けた。
「ふんっ。──では、改めて…よろしくじゃラタトスク」
『ええ、よろしくお願いいたします。カエデさん』
そんな密かに微笑み合う彼女らの言葉は静かな夜闇に吸い込まれるようにして消えていった。
どうでしたでしょうか?よろしければご感想お願いいたします。
とまあ、やっとこさ主人公が吹っ切れてくれましたね。やっと書きやすくなる…かな…?人の心境とか凄く難しいんですよねホント…でも無視できないところですし…無視したくないところでもあるんですよね…。上手く書けてるか分かりませんが…。
ここからカエデたちが世界の渦に巻き込まれていく!予定!!です!!たぶん!
誤字脱字矛盾点などありましたら言ってくれると凄く嬉しいです。今回も見てくれてありがとうございました!では、また次回もよろしければ見てください!(土下座)