#12,いざっエルフの国へ
こんばんはです!真理雪ですー!!
今回は異様に長くなってしまいました…。誤字脱字などありましたら言ってくれれば幸いです。ではではどうぞー。
エルフの国・アストリア。精霊が守護するこの国に今、危機が迫っていた。
「申し上げます!先行していた第3師団が天魔の大群と接触!しかし敵は強大で成果は得られなかったとっ」
「……そうか。あの第3師団でも…か。分かった」
エルフの伝令役がその場から去ると彼は大きく息を吐き腕を組んだ。
「どうなさいます師団長?」
「そうだな…。あの攻撃特化型の第3師団でも有効な打撃は与えられなかったのだ。やはりここはハイエルフ殿の作戦でいくしかないだろう」
師団長と言われた彼は腰に細い剣を吊り下げ図面が広がる机に大きめの弓を立て掛けるようにして置いている。この男性は第2師団の団長だった。
アリウス・ローレンツ。それが彼の名だ。この国で生きるもの達なら誰もが聞いたことがあるほど名高い存在だ。
第1師団と第2師団と言えばこのエルフの国で最も強い兵士師団とまで言われ、アストリア王家からも絶大な信頼を受けている。そんな者たちだった。
彼は長く伸ばしたエルフ特有の金の髪を後ろで束ね、もともとの優しそうな瞳を真剣な眼差しに変え思考を巡らす。
アリウスは隊長格としては一番小柄で細い体型をしていた。だからこその腰に挿した細剣だった。彼の戦い方はスピード重視、魔術を併用しながら弓を放ち自前のスピードで相手の攻撃を避け剣を操り身を守る。エルフの3つの特性を全て自身で併せ持つ。だからこそ強くだからこそのこの地位でもあった。
「アリウスはいるかしら?」
彼と部下が話している所で高い女性の声が響く。
「ん…?エリザか。どうした?第1師団の副団長殿が何故ここに?」
「あの団長から言伝てを頼まれたのよ。お前ならすぐ行けるだろうからって。もうっ本当に召喚術士だからって気軽に頼まないでほしいわねっ。あたしだって疲労はするのよ?」
そう彼に不平を漏らす彼女はエルフに取って珍しい桃色がかった金髪を指で弄くり回し口を尖らせる。彼女はエリザ・イース・キルシュブルーテ。第1師団の副団長を務める若きエースだった。
彼女はエルフでは珍しい召喚術士であり、尚且つその目立つ容姿からファンも多いと聞く。彼女は特注のドレスの様な戦闘服を着ており桃色を貴重としたそれは魔術が施され全体的に仄かに光を発している。戦場で立つその見た目はまさしく一輪の華のようで周りの士気も上がるため彼女は戦場に必要不可欠な存在となっていた。しかし、エリザの目立つ特徴と言えば服装よりもその桃色の長い髪だろう。彼女は混血ということでもない。純粋なエルフではあるのだが、魔力が通常より極端に多くそれが原因で自身の髪に出ているのではないかと言われていた。
彼女は年齢も若いながらも逞しく努力家でその小柄な見かけによらずこの第1師団副団長という名誉ある地位を勝ち取った凄い女性だ。しかし、そう言う天才的な彼女を羨み妬む者も少なからずいる。過去にはそれのせいで足元を掬われ堕ちた者たちもいたのだ。アリウスはこの少女を大の大人として守ってやらねばと心に誓ったのだった。
そして話は変わるが今回の作戦では第1師団は万一のことを考え国の守りに就くことになっていた。その為こんな森の入り口近くまで副団長が出てくることは本来はしてはいけないことの筈なのだが…。
「言伝てと言っていたか…。何か異変があったか?」
そう言ってアリウスは自身より小柄な少女を見やる。彼女は仄かに赤い唇に指を当て少し悩みながら口を開いた。
「えーと…。言伝てと言うのはちょっと間違ったかしら…ただの報告なんだけど。フィーナ様と連絡が着いたらしいのよ」
「! それは本当かっ。無事だったのか?」
「ええ、無事よ。詳しくは教えてくれなかったけどね…。でも、よかったわ。フィーナ様とフィーネ様だけで人族の町に行かせるって聞いたときは耳を疑ったけど…」
「そうだな。それにエリザはフィーナ様と仲が良かっただろう。大丈夫だったのか?」
「………」
アリウスは彼女にそう言った所ではっと気が付きばつが悪そうに謝罪する。
「すまない…。余計なことを聞いたな。何もなかった筈がないか…」
「別にいいわよっそんなこと…。で、あと団長からなんだけど。お前もそのまま様子を見ておけって言われたわ。だから、わたしもここで待機させてもらうけど…構わないかしら?」
「そうか、それなら構わない。だがエリザ。君は第1師団の副団長だ。もし万が一のことがあれば───」
「分かってるわよ。すぐに戻るわ。だからこそ召喚術士たるあたしを寄越したんでしょうし」
彼女は当然と言わんばかりに胸を張り頷く。
「分かっているならいい。アドス、後は頼む」
「分かりました」
アリウスは隊員に後のことを頼みその場から動く。作戦はもうそろそろ始まる頃合いだ。それまでにもう一度、一通り見ておきたかった。
大きな大木に穴を掘って作られた簡易的な作戦会議室。いつもなら暖かな気持ちにさせてくれる赤い夕日。そんな赤焼けの空を背に、やって来るのが悪魔の様な敵だとは。
「……笑えないな」
ぽつりと呟く彼は夕焼けを背に自分の出来ることをするため歩み始めた。
ーーー
「───天魔肉眼で確認!射程範囲内です!!」
木の上でエルフの兵士が叫ぶ。それが作戦開始の合図となった。
「アリウス!」
「ああ分かっている」
エリザの声にアリウスは答える。彼は夕日を背にして迫ってくる天敵に目を向けた。それはまだまだ遠く肉眼でも豆の様に小さいものだったがエルフ族はもともと視力が良い種族だ。それに今は魔力で視力を強化しているためはっきりとその姿を確認できた。
天魔はいくつかの種類が存在する。そいつらはこの世界の魔獣を数種類掛け合わせた様な見た目をしており、大体がtypeウルフ・typeスコーピオン・typeタートルと分けられていた。ウルフが多く見られる天魔で大の大人位の大きさをしており、スコーピオンは五メートル以上もある身体で大きなハサミに毒針が付いた長い尻尾が特徴。そして最後のタートルだがこいつが一番大きくしかし鈍重で動きが遅い弱点があった。しかしタートルはその名の通り亀の様に頑丈な甲羅を持っており世界最強の防御力を誇っているのだ。
彼は一目で天魔を確認し、次いで待機していたエルフに目配せし合図を送る。
そのフードを被ったエルフはアリウスに頷き返し、唐突に指笛を吹いた。それが魔方陣起動の合図だった。
エルフの森にある幾つもの大木。それは魔力を多く溜め込み続けてきた世界樹に勝るとも劣らないほどの力を持つ木々たちだ。それらに描かれた大きな魔方陣は光を発し陣と陣が線を結ぶ。それは巨大なペンタクル。それら全てが交わり作用し、一つの魔術が完成する。それは───
“天の雷雨”───第4種精霊魔術。人類では到底到達できない高見の最上級魔術。魔力を何百年も溜め込んだ木々がいたからこそ可能となったエルフ族の秘技中の秘技だ。
光は一度天に放たれ、それら全てが収縮し爆発した勢いで天魔どもに降り注ぐ。それはまさしく光の雨。光の豪雨。それら全てが高レベルの魔獣を屠る程の攻撃で光のカーテンが全ての天魔を覆い隠す。
エルフの秘めたる技と秘めたる魔力を使った一度のみの攻撃。それだけにエルフたちは緊張しその結果を固唾を呑む様にして見守る。
やがて魔術を射ちきりそこら中に砂塵が舞う場所に風が吹き、塵があおられ少しずつ姿があらわになる。そこには───
「───やった!勝ったぞ!」
と誰かが叫んだ。
砂塵が晴れたそこには天魔どもが横たわり幾つもの形を成してない肉塊のようなものがあるのみで動いている天魔は一つもいなかった。
「やった!俺たちは天魔に勝ったんだ!」
「俺たちは生きてる!天敵に勝ったぞ!」
「やっぞーーー!」
周りで戦闘準備していた兵士たちは口々にそう囃し立て皆で喜びを噛み締め合う。その様子ははしゃぐ子供のように恐怖から解き放たれた彼らは一斉に大手を振るって喜び合った。
「アリウス!やったわねっ!結局秘技を使うことになっちゃったけど…」
「…そうだな。だが誰も死んでいない。ならそれでいいだろう。秘技など使えなくては意味がないものだからな。今回はそれが役にたった、ハイエルフ殿に感謝しよう」
ほっと胸を撫で下ろすアリウスは年相応に笑顔で喜ぶエリザを見て小さく笑顔を作る。
天魔とは何度も戦ったことがある彼だったがそれ故に強大で強敵なのも理解していた。今回の秘技の使用はハイエルフ殿の一存で決まったものだったが無傷で天魔の大群を撃破出来たのは上々と言える。天敵を前にして誰も死なずに帰還できるなどこの上なく幸運なことだった。
「よし。ならば帰還の準備を───」
「────まっ待ってください!!まだ何かがいます!!!」
アリウスが帰還命令を出そうとしたところでそれは遮られる。出所は木の上に作られた観測所。その声を聞いた彼は直ぐ様戦闘体制に入り天魔を見やる。すると…確かに天魔の亡骸の上に少し浮かぶようにして浮遊する何かがいた。
「なんだ…?」
見たことがないものだ。人?鳥?それとも魔族か?アリウスは自身の記憶を探るが何一つ当てはまるものが存在しない。一つ確かなことは全体的に青みがかった肌をした女型の人形の様な…。“ドレスを着た鳥の翼を羽ばたかす青い女性”だった。
それは無表情で口を開ける。瞬間────
La───────────────!
高い歌声を上げた。
エルフたちは何かの攻撃かと身構えたがその様子はない。しかし、変化したところはそこではなかった。
「てっ天魔が!天魔たちが生き返っていきます!!!」
半分悲鳴のような声が響く。それもその筈、秘技を使用してまで倒した天魔たちがあろうことか蘇っていくのだ。時間を巻き戻したように次々と──潰されていた者たちも貫かれていた者たちも。傷の大小問わず全てが蘇っていき、五分もかからず天魔どもは全てが形を元に戻し進行し始めたのだ。
それはまさに悪夢を見ているようで現実味がなく、最高潮の気分からドン底にまで叩き落とされた彼らは何も言えず。ただただ呆気に囚われ見ていることしか出来なかった。
「…っ!────戦闘準備っ!!!!」
アリウスはありったけの声を張り上げる。その声で周りのエルフたちは我に帰りやっとのことで動き出した。
「エリザ!君は早く帰還しろっ。この事を皆に伝えるんだ!」
「わっ分かってるけどっ。アリウスは!?」
彼女はアリウスの言葉に頷き彼を見やる。しかしその視線には心配そうな雰囲気が見え隠れしていた。
「心配するな死にはしない。早く行け!」
彼の言葉に彼女はキッと瞳を鋭くさせ、頷いてからその場を後にする。
その桃色の髪が靡く様を見て、彼は敵のある方へと視線を向けた。
「やってやる…化物どもめ…」
そう呟く彼の額にはじっとりと嫌な汗が流れていた。
ーーー
戦場は混乱を極めた。
魔術が効きにくい天魔どもはわたしたちエルフが放つ攻撃を尽く黙殺され相手の戦力を殆ど削ぐことも出来ずに遂にはエルフの森にまで到達されてしまった。
天魔どもよりも戦力が多いわたしたちは数で押しきる戦法に出た。しかし、一体の悪魔が、倒れた筈の天魔どもを片っ端から再生させる。どんどんと戦力が削れているのは相手の方ではなくこちらの方だった。
「アドス!!」
わたしは団員の名を呼ぶ。
「はい!」
「ここはそちらに任せる。いけるか?」
「厳しいですが…。師団長の頼みです。やりましょう!」
わたしの言葉に少し彼は言い淀むがわたしの意を汲む様に力強く頷いてくれる。
「すまないな」
「いえ、師団長の頼みなど光栄の極み。自分の力を全て使い守りきって見せます。師団長は存分にアレを倒してきて下さい」
その言葉にわたしは意表を突かれたように彼の顔を見る。その若者の顔には力強い笑みと闘志に燃えた瞳が見てとれた。
「なるほど…。筒抜けだったか」
まだ若いと思っていた彼もいつの間にか頼もしい仲間に成長していたらしい。わたしはふっと小さく笑みを浮かべ──
「ああ、行ってくる」
──と彼に言った。
わたしは自身の自慢の俊足で戦場を駆け巡った。
あの女型の天魔はtypeウルフを周りに数十匹侍らせ群れの後方で戦闘には参加せず見守る形で浮遊してた。
わたしは時には矢を放ち、時には剣を振るい、時には魔術を放ち、地を駆けそれにどんどん近づいて行く。
天魔どもはそうはさせまいと邪魔をするように進路上に割り込み、それをわたしは自慢の矢で無力化していく。大型のスコーピオンやタートルは仲間に任せ、自身は数の多いウルフどもを討ちながらそれに接近する。そして───
(───射程範囲内!)
「ウインドアロー!!」
一射。魔力の風を纏った矢が空気を切り裂き飛翔する。目標は奴の頭。天魔と言えど司令塔となる頭をやられれば死は免れない。
それは狙い違わず天魔の額に吸い込まれた────かに見えた。
バチッッッ!!───と弾ける音が響く。それは女型の天魔が矢を弾き返した音だった。
(やはり一筋縄ではいかないかっ)
わたしは心の中で毒づきながら標的を中心に円を描くように移動する。
二射。三射。四射。
何度も矢を放つがそれは幾度となく弾き返し、死角から放った矢までも弾かれたわたしは意を決して剣を引き抜いた。
(弓では無意味の様だ。なら、剣ならどうだ!)
わたしは抜き放った剣を腰だめに構え天魔に肉薄する。自身の剣は細く切ることより刺すことに特化している。
一閃。剣身を煌めかしわたしは突きを放つ。
ズドッと剣が天魔の胴体に突き刺さる。よしっと思ったのも束の間。めり込んだ剣が徐々に押し返ってくるではないか。
(これ以上刺し込めないかっ)
「うおぉぉぉぉぉぁぁぁーーーーー!!!」
わたしは雄叫びを上げ、刺さっていた剣をそのまま振りかぶり横へ凪ぎ払った。
Aa─────────!!!!
天魔は悲鳴のような鳴き声を上げ、始めてわたしと視線が合う。
わたしは咄嗟に後ろへと飛んだ。その一瞬にも満たない後に自身がいた場所には大きな穴が出来上がっていた。
(ちっ。やはり攻撃手段を隠していたか)
隠していたかどうかは実際には分からない。しかし、今の攻撃でこの女型の天魔が一番脅威になることが再確認できた。今の攻撃は生半可なエルフでは対処できまい。
わたしは横目で剣を見る。自身の主力は弓だが今回は剣を使う他あるまい。
(剣で奴を倒せるか…?…いや、やるしかない)
わたしは後ろで戦っている仲間を想う。ここでわたしがやり遂げなければここまでしてきたことが無意味になる。それはダメだ。
そもそも奴を倒すためにここにいるのだ、はなから覚悟はできている。
わたしは決意を改めると剣を構えそれを見た。そして───飛び出した。
(狙うはやはり頭部!一撃で…仕留める!)
神速の突き。勢い良く飛んだ身体は矢となりそれに接近する。
一瞬、それと目が合った。刹那───
Ra────────────!!
天魔が声を発した瞬間、それから出た波動で彼の勢いが削がれ霧散してしまう。それは空中での停止。戦場では致命的な命取りになる危機であった。
(これはっ!?)
わたしは戦慄した。女型の天魔の表情を垣間見た瞬間、それはふと小さく嘲笑していたように見えたのだ。
直後の衝撃。大岩で身体全体を勢い良くぶん殴られた様な衝撃。一瞬のことで満足に防御出来ず、わたしは後方にえらく飛ばされてしまった。
「…がはっ!!げほっげほっ…くっ……」
一発でこれだった。わたしは衝撃を受けたことにより意識が朦朧とし、吐き気に耐えられず口から血を吐く。
「くっそ…!まだ…だっ」
わたしは震える足でどうにか立ち天魔を睨み付ける。
やはり笑っている。それはわたしを見て口を歪め楽しそうにこちらの様子を窺っている様だった。
(くっ。まだ終われない…終わってたまるかっ)
わたしは少しずつ前へ歩を進める。しかしそれは微々たるもので凄く弱々しいものであった。これでは奴の的にしかならないだろう。
奴はまた大きく口を開ける。また何かをしてくるようだ。わたしは避けることすら儘ならない。
(くそっ…。ここで終わりなのか…)
わたしは奴からの攻撃に備え防御姿勢を取る。しかし、次の瞬間。訪れたのは誰にも予想できなかったものだった。
───轟音が響く。空から降ってきた何かによってもたらされる大きな振動。それはわたしと天魔のちょうど真ん中辺りに飛来し、辺りに砂塵が立ち込める。
その中でわたしは見た。この世とは思えない神秘的な存在を。
暁のように赤く、太陽のように耀く。紅い神獣。
耀く毛皮に八本の尻尾。四本の足で堂々と立つそれは───
「紅い狐…?」
わたしは自分でも信じられない出来事に暫し呆然とした。
いつでもご感想お待ちしております。
因みに書けなかったことをチラッと追加。
・女型の天魔はレベル80です。アリウスがレベル76なので苦戦しているのは仕方ないですね…。
・狐の大きさは男性の大人ぐらいの大きさです。尻尾もいれるとそれ以上になりますが…。
・“赤い◯と緑◯狸”は関係ありません!カップ麺とか関係ないですよええ。ホントです。
とまあいろいろ書きましたが…。読んでくれてありがとうございました!次回もよかったらお読み下さい!ではまた!!
修正しました。(エリザ・イース・ストローク) → (エリザ・イース・キルシュブルーテ)