#11,始まりの町 3
こんばんは!真理雪です!
あ、ストックが尽きました…。やばいっ。
「ありがとうございました。カエデ様。貴女様がいなければわたくしたちはここまで辿り着けなかったでしょう。重ね重ねお礼申し上げます」
フィーナは用意された馬車の前で深々と頭を下げ、丁寧に言葉を紡ぐ。
「うむ、元気でなフィーナ。無理だけはするなよ」
「はい、この御恩…必ず御返しいたします。カエデ様もお元気で」
そう言う彼女はよい笑顔でカエデを見つめ手を差し出す。その行動に首をかしげるカエデだったがすぐに彼女の意図を察し、手を握った。
「また会おう。フィーナ」
「はい、またお会いしましょう。カエデ様」
そして手を離したカエデは彼女の傍らで悲しそうに見上げていた小さな存在に視線を移す。
「カエデおねぇちゃん…」
「ふっ…フィーネも元気でな。姉のことは任せたぞ?」
「うん…」
カエデがフィーネにそう言うと彼女は寂しそうな表情で姉の服を掴んでいた小さな手に一層力を込める。
「そんな顔をするなフィーネ。町に入る前にも言ったじゃろう?必ずまた会えるのじゃ。じゃから、ほれ心配するでない。な?」
カエデは視線を合わせるためしゃがみ込み彼女の頭を優しく撫でる。
「うう…。またあえる??」
「うむ、会えるとも。もしかしたらまたすぐに会えるかもしれんぞ?」
「ほんとに??」
「…確証はないがな…。じゃが、死に別れではないのじゃ。望めばいつか必ず会えるじゃろう。運命なんてそんなものじゃ」
彼女は溢れそうだった涙をぐしぐしと拭く。
「うんっわかった!」
「うむっ。よい返事じゃ」
カエデはその返事に満足すると頷いて立ち上がる。
「…フィーネばかりずるいです」
「む?何か言ったか?」
「なんでもないです!」
ぷーと頬を膨らますフィーナはカエデが振り向くとぷいっと顔を背けた。
「???」
「ちょっと~!こちらは準備できたわよん!早く乗りなさいな!」
そうこうしている内に準備が終わったらしく行者台から聞き覚えのある声が響く。
「むむ?マダムも行くのじゃな」
「そうよ~。本部にはタマちゃんが連絡してくれてるけど…。ギルドマスターがいかないと話にならないでしょ」
「それも…そうじゃな」
カエデは腕を組んで納得する。いくらフィーナたちがエルフ族の王女だと言えど二人だけで行くわけにはいかない。夜は魔獣だって出るし、そもそも二人だけだと門前払いが良いところだろう。
「心配しなくてもギルドは大丈夫よん。タマちゃんがいるからねん!」
彼はビシッとサムズアップしてウインクする。
「はいはい分かったのじゃ…(しっしっ)」
「何よぅ!冷たいわねん!」
「それよりも魔獣は大丈夫なのかの?夜は魔獣が多くなる時間じゃろう?」
「大丈夫よん。その為の魔除け玉だからねん!この馬車には沢山常備してるのよん」
魔除け玉とは…確か一定時間弱い魔獣を遠ざけるアイテムで初期の頃はよくそれに頼ったものだ。しかしレベル差がありすぎる魔獣はそもそも近寄ってこなくなる仕様の為レベルが上がっていくに連れて疎遠になってしまう代物でもあった。
「そろそろ出発しますよ。ギルドマスター」
「はいはい分かったわ!それじゃカエデちゃん後は任せたわねん!」
「うむ。上手く行くことを祈っておるのじゃ」
彼らはフィーナたちを連れ馬車を動かし始める。少しずつ離れていく馬車からフィーナとフィーネは顔を出し手を振る。それにカエデも手を振り返し笑顔を作った。
…………………
フィーナとフィーネは自身の使命の為に帝国へと向かってしまった。カエデはと言うとその彼女らが消えた街道を少し悲しそうに見つめ続けていた。
フィーナたちにはやるべきことがある。ここで別れることは間違ってはいなかった筈だ。カエデはそう自分自身に納得させるように心中で何度も繰り返す。しかし、割り切れない彼女はぎゅっと手のひらに力を込めた。
「………」
『カエデさん。そちらは町の出口ですよ。どちらに行かれる気ですか?』
唐突にラタトスクが口を開く。それは少し雰囲気が刺々しくカエデを責めているような口調だった。
カエデは進めていた歩を止める。止められることは端から分かっていた。女神からは目立たないようにと言われている。今からしようとしていたことはそれを無視する行為だ。当然、神の使いたるラタトスクからは止められるであろうことは簡単に予想できた。
「……ラタトスクよ。そなたはほっておけるのか…?」
カエデは振り向かずに白い竜に言葉を返す。
『…ほっておくと言うのはどういう意味でしょう?エルフの国のことでしょうか?───エルフ族の危機はエルフ族がどうにかするべき事柄です。私たちが手出しすることはありません』
ラタトスクはきっぱりとそう述べる。淡々と述べたその言葉にはなんとも思っていない無感情な響きが宿っていた。
『もともと貴女の役割は異変の原因を突き止め解決することで、エルフ族を助けるために与えた力ではありません。貴方がしようとしていることはこの世界のバランスを崩す所業です。────それでも行く気ですか?』
ラタトスクはカエデから目を離さずじっと彼女を見つめ続ける。さすが神の使いか。彼女のその言葉は一つ一つがもはや仔竜とはいえないほどの圧力を持っていた。
「……っ!」
カエデは何も言えずぎりっと奥歯を噛み締める。
正直言って、俺は怖かったのだ。目が覚めるとこの世界に居て名前も身体も性別も──全てが変わった自分自身。俺自身が作ったキャラクターだと言えど本当にそれになってしまえば誰だって慌てる筈だ。“はいそうですか”で済むような話ではない筈なのだ。
「のう…ラタトスク。妾はな…ただの一般人なのじゃ。世界を救うなんて…そんなこと出来る訳がないと思っておる。正直そのプレッシャーで押し潰れそうじゃ」
カエデは悩み考え一つ一つの言葉を着実に紡いで行く。自分の思う事を溜まっていた想いを拙くとも…はっきりと言葉で一生懸命紡いでいく。
「じゃが…じゃがなっ!一つだけっ。この世界に来てからやりたいことが出来たのじゃ。それが出来なければ妾はもう戦うことすら出来ないだろうっと思う!妾は…妾は!───あの姉妹を悲しませたくない!フィーナたちを悲しませたくないのじゃ!!」
バッと唐突にカエデは振り返り、地面へ頭を擦り付ける。それは地球で言う土下座。謝るとき頼むときに使う姿勢であり、日本人流の最終奥義。
「ラタトスク!お願いじゃっ妾を行かしてくれ!どう処罰してくれてもよい!妾はエルフの国を救いたい!あの二人を悲しませたくないのじゃ!!!!」
数秒の沈黙。いや、それは数分、数十分あったのかもしれない。沈黙は時間の感覚をあやふやにする。カエデはその体勢のままラタトスクの返答を待った。
『────…はぁ。合格です。まさか本当にこうなるとは思いませんでした』
「は…?ごっ合格…??」
『いえ、なんでも。早く立ってください。折角の美人が台無しですよ』
「え…あ、うむ」
カエデは仔竜の変わり身の早さに少々呆気に囚われるも言われたままに立ち上がった。
『エルフの国へ行くのですよね?』
「そう…じゃな。妾のスピードならいけるかと思ったんじゃが…」
『そうですね…。確かにカエデさんのステータスなら早くて約4時間…と言うところでしょうか?』
「そんなに早いかの!?」
『ええ。カエデさんなら森を突っ切れますからね。最速で最短ルートが可能なんですよ。ですが、既に戦闘は始まっていますよ?』
「それは…分かってるのじゃ」
カエデは彼女の言葉に当然と言う風に頷く。もう日は既に地に近い。黄昏時と言えばいいのか、赤く染まる夕焼け空にカエデは視線を向ける。例えエルフの国に辿り着いたとしても戦闘は既に始まっているだろう。全てはエルフ族が天敵相手にどこまで持ちこたえられるかに掛かっていた。
『では、行きましょうか。───エルフの国へ』
カエデはその言葉に力強く頷いた。
ーーー
『敵は凡そ600体。エルフ族は死地の荒野で先制攻撃をかけましたがほとんど戦力を削げないまま森まで撤退。エルフの森に引いた魔方陣を使用し殲滅する作戦に切り替えたようです』
カエデは鬱蒼と茂る森の中を文字通り飛ぶように駆け、ある時は木を蹴りある時は地を蹴り、目まぐるしく流れていく景色の中で舞うように躍りながら駆けていく。
本来なら渡れない橋すらない川もものともせず飛び越え着地。ジェットコースターよりも激しくレースカー並みのスピードで森を走る様はまるで一条の赤い雷光…。
「こっわ!?あぶなっ!?ひゃっ!?死ぬっ死ぬのじゃがーーー!!??」
『大丈夫です。貴女の身体能力ならぶち当たったところで死にはしません』
「え!?ぶつかるの前提なのか!?そうなのか!?」
カエデは反射的にそう叫ぶが驚異的で脅威的なスピードで激しく変化していく周りの景色に手一杯。隣で涼しい顔で説明する仔竜の言葉などほとんど耳に入っていなかった。
フィーナの父親は日没ちょうどにエルフの森に天魔が辿り着くと言っていたがそれよりも先に攻撃を仕掛けていたらしい。普通の魔獣になら有効な魔法の類いは天魔には効き目が薄い。天魔には耐性スキルがある為だ。それでも“エルフの森の魔方陣”を使ってまで魔術を使用するところを見るとエルフたちにはそれしか勝算がないと踏んだのだろう。
『天魔のレベルは平均で70。エルフ族にも70前後はいますが…数が少ない。天敵相手には部が悪いですね』
彼女は検索した情報を話す。レベル70と言う数字は自分達にとってはそれほどでもない数字だった。それもその筈、新たな島に出没する天魔どもは皆レベル100は越えていた為だ。しかし、こちらの世界に来てからは大分勝手が違うようでカエデ自身の予測的には人族の平均レベルは60も満たないのではないかと考えていた。
『で、カエデさんはこの戦いに飛び込んでどうするおつもりですか?レベル的には楽勝な相手ですが…バレることは厳禁ですよ』
彼女はじっと真剣な眼差しでカエデを見やる。
「大丈夫じゃ!考えはあるっ。──九尾化を使うのじゃ!」
カエデはかぶりを振ってそう答える。
『…“九尾化·纏”ですか』
「うむっ。それなら顔バレはしまいっ」
『…推奨はしませんけどね…まあいいでしょう』
彼女は納得してなさそうな雰囲気を出しながらも渋々承諾する。
「ささっと終わらせて戻るぞ!ラタトスク!」
『そうですね。そうしましょう』
森の中を駆け抜ける狐の女性とその隣を悠々と羽ばたく仔竜はそう言って頷きあった。
『あ、言い忘れてましたが。最後の方に大きな断崖があるので思い切って飛んでくださいね』
「断崖…?って崖!?!?」
いつでも感謝お待ちしております。誤字脱字矛盾点などもありましたら言っていただければ嬉しいです!
ストックなくなっちゃいましたねー。頑張って書きます!(汗)
今回も読んでくれてありがとうございました!また次回もよろしくお願いします!